譲渡価格から事業承継を考える

ここ1、2年、M&Aのご相談をいただく機会が増え、当社もお客様のサポートをさせていただいております。

3月はM&Aの成約が多いため、私も複数のお客様の案件でバタバタ動いておりました。
譲渡と譲受でしたら、圧倒的に譲渡のご相談が多い状況です。

会社を譲渡されようとする理由の多くは後継者問題です。ただし、近年は業界の先行きへの不安や単独企業での成長に限界を感じられ、後継者問題と相まってご検討されるお客様が増えてきました。つまり、理由は一つではありません。

長いお付き合いのお客様には、私の方からM&Aという選択肢についてお話させていただくこともあります。お客様ご自身も漠然と問題には気付いていらっしゃるものの、やはりご自分の口から「売りたい」とおっしゃるには抵抗があるようです。

そのような中で、皆さまが一番気にされるのは社員の雇用です。ただし、雇用に関しては原則維持となるため、実際には問題とはなりません。

次は譲渡価格の問題です。

おそらく、一般的な方程式で算出された譲渡価格を見せられたとき、ほとんどの方はがっくりされると思われます。

「こんなものか…」

そうなると、やはり簡単には売ることができない。このまま経営していた方が手元に残るお金は多くなる。そうお考えになります。また、M&Aの仲介業者に支払う手数料も安くはありません。

ただし、売り時を間違えると売ることも出来ず、後継者も定まらずに、時間だけが経過していくことになります。

例えば、親族ではない社員に引き継いでもらおうとしても、通常は一社員が買えるような金額ではありません。

「自分の会社はたった1億円にしかならないのか…」と思われても、1億円を出せる社員などいらっしゃらないからです。

また、私が直接担当しているお客様は私と同年代の40歳前後から50歳までの方が多いのですが、皆さまとお話していると、ご自身のお子様に事業承継したいとお考えの方はごく少数です。

そうような場合の選択肢は、社員又は外部に譲渡するか、廃業又は倒産ということになります。廃業又は倒産というのは雇用の問題からも避けたいところですので、現実的には譲渡に行きついてしまいます。

そして、譲渡という場合、有利な条件で交渉を進められるのは、内部留保が分厚い会社です。
内部留保がない会社は、ほとんど価格が付きません。つまり、内部留保がない会社というのは収益性が継続的に低く、買い手からすると魅力が薄いのです。

ただし、内部留保がない理由が、中小企業特有の“経営者ご自身に内部留保を持たせている”ということであれば問題はありません。買い手からもらうべきお金を既に会社からもらっていたというだけです。しかし、会社から個人にお金を移してしまえば、やはり個人で消費してしまう方が多いというのが現実的なところです。

従って、会社にも経営者個人にも内部留保が少ない場合は、“譲渡価格が低いため”M&Aという選択肢も採用することができないこととなります。

まだ経営者として第一線で働かれている方でも、最終的には親族に会社を引き継いでいただくか、売らなければなりません。M&Aはあくまで事業承継の選択肢の一つであり、M&Aを行うにあたっての現実的な問題もありますので簡単にはいきません。

しかし、M&Aのサポートをしていて気付かされるのは、M&Aの対象として魅力がない企業というのは、やはり継続性という面で非常に問題があります。お子様に引き継いでいただく場合においても、この程度の金額しか付かない企業を引き継がせてよいのかとお悩みになられる場合もあります。しかも、その金額すら“過去の蓄積”であって、将来を約束するものではありません。

以前も、譲渡価格の低さに難色を示されたお客様に対して、「確かに金額は低いです。しかし、これが御社の市場価格です。この程度の金額しか付かないような道を選択されていたということです。実際、御社は金額が高く付く道も十分選択できたはずです。譲渡せずともまだまだやっていけますが、今のやり方を続けていたら、必ず限界は来ますよ」とお伝えさせていただいたことがあります。

非上場企業というのは、市場から企業価値を評価されるということがありません。従って、評価されることに慣れていませんので、譲渡価格が経営者ご自身の価値と錯覚される場合もあります。

しかし、「自社の市場価格はいくらなのか?」という側面から事業承継を考えるのも、客観的で非常に参考になると考えます。

価格が付かない理由が、自社の問題点となりますので…。

 

 

(山田 拓巳)

【お詫び】
4月1日に掲載させていただきました記事「社会保険料削減(案) ~その2~」にて、誤植がございましたので、訂正してお詫び申し上げます。

(訂正前)
また、今回は企業の掛金拠出を0円として説明しましたが、企業の負担額を1.5万円(最大5.5万円)とすれば、社員の掛金の枠は4.5万円となり、実質的な退職金の前払い制度に移行できます。

(訂正後)
また、今回は企業の掛金拠出を0円として説明しましたが、企業の負担額を1.5万円(最大5.5万円)とすれば、社員の掛金の枠は4万円となり、実質的な退職金の前払い制度に移行できます。