増税前に押さえておきたい、今更聞けない消費税のキホン

消費税増税まで1年を切りました。前回の増税時には数多くのご相談を受けました。

しかし、多くの内容は基本的な消費税の仕組みを理解できていないことによるご相談でした。中には正しく理解しないままに、誤った対策を講じてしまった方もいるのではないでしょうか。

増税の再延期の可能性が取りざたされていますが、そこはさておき、このタイミングで消費税の基本を理解し、直前になって慌てたり意味のない対策を取ることのないようにしましょう。

課税事業者である企業にとって、消費税の基本的な仕組みは2パターンです。

■ 原則:売上で預かった消費税から実際に仕入等で支払った消費税を差し引いて残った額を納税する

原則:【消費税の仕組み(原則課税方式)】

納税額 売上の際に預かった
消費税
(仮受消費税)

・年間売上:2億円 → 預かった消費税1600万円
・年間仕入等:1億5千万円→支払った消費税1200万円
・納税額:1600万円ー1200万円=400万円

※消費税率8%

仕入等の際に
実際に支払った消費税
(仮払消費税)

■ 例外:売上で預かった消費税から、預かった消費税にみなし仕入れ率をかけた額を差し引いて残った額を納税する

例外:【消費税の仕組み(簡易課税方式)】

納税額 売上の際に預かった
消費税
(仮受消費税)

・年間売上:4500万円 → 預かった消費税360万円
・年間仕入等(みなし仕入れ):360万円×80%
 
(小売業の場合)=288万円
・納税額:360万円ー288万円=72万円

※消費税率8%
みなし仕入れ率は業種により異なります。

みなし仕入れ率により計算された消費税
差額(雑収入)

前々期の課税売上高が5000万円以下で届出を提出している場合には、みなし仕入れ率を用いて消費税を計算することができる、例外「簡易課税制度」の適用を受けることができます。課税売上高が5000万円を超えている企業については原則課税方式になります。

大まかですが、基本的な消費税の仕組みは上記のとおりです。

さてさて、増税直前になると必ず受けるのが、「車とか、材料とか、消耗品とか、今のうちに買っておいた方がいいんだよね?」という質問です。

■ 原則課税方式の企業様への答え

「いいえ、増税前に駆け込みで購入しても、しなくても損も得もしません。ですので今必要な分だけ購入してください。」

これが基本的な答えです。

具体的に数字で見ていきましょう。

とある、4月決算の企業が3月~4月の増税時期をまたぐ2カ月の間に合計で3000万円(税抜き)の仕入をするとします。ケース(1)では増税前に仕入れた方が有利だろうと考え、2500万円分を3月に仕入れて、残りの500万円分を4月に仕入れました。
ケース(2)では、増税前後、変わらず1500万円ずつを仕入れました。

(1)増税前の3月に2500万円(税抜)を仕入れて、増税後の4月に500万円(税抜)を仕入れた場合。

【ケース(1)】

納税額 150万円 売上の際に預かった
消費税
(1600万円)

・年間売上分 → 預かった消費税1600万円
・2月までの仕入等:1億5千万円→支払った消費税1200万円
・3月仕入れの消費税:2500万円×8%=200万円
・4月仕入れの消費税:500万円×10%=50万円
・納税額:1600万円ー1200万円ー200万円−50万円
 =150万円

4月分(50万円)
3月分(200万円)
2月までの仕入等で
実際に支払った消費税
(1200万円)


(2)増税前の3月に1500万円(税抜)を仕入れて、増税後の4月に1500万円(税抜)を仕入れた場合。

【ケース(2)】

納税額 130万円 売上の際に預かった
消費税
(1600万円)

・年間売上分 → 預かった消費税1600万円
・2月までの仕入等:1億5千万円→支払った消費税1200万円
・3月仕入れの消費税:1500万円×8%=120万円
・4月仕入れの消費税:1500万円×10%=150万円
・納税額:1600万円ー1200万円ー200万円−150万円
 =130万円

4月分(150万円)
3月分(120万円)
2月までの仕入等で
実際に支払った消費税
(1200万円)

結果として(1)(2)ともにキャッシュアウトする金額が同じなのはご理解いただけたでしょうか?表にして比較してみましょう。

【ケース(1)と(2)の比較】 (単位:万円)
  預かった
消費税
(売上)
2月までに
支払った
消費税
3月に
支払った
消費税
4月に
支払った
消費税
差引納税額 3月以降の
キャッシュアウト
ケース(1) 1,600 1,200 200 50 150 400
ケース(2) 1,600 1,200 120 150 130 400
キャッシュアウトは結局同じ!

(1)のケースで3月、4月に支払った消費税は(200万円+50万円)の250万円
(2)のケースで3月、4月に支払った消費税は(120万円+150万円)の270万円

確かにこの時点では3月に、駆け込みで仕入れた(1)の方が、仕入の際に支払う消費税が20万円少なくて済んでいます。

しかし納税額はどうでしょう。
(1)150万円
(2)130万円

今度は逆に(1)の方が20万円多く国に消費税を納めることになってしまいました。

もう、お分かりいただけたと思います。

3月4月に仕入れの際に支払った消費税額と国への納税額の合計は全く同じなのです。

これは預かった消費税から支払った消費税を差し引いた残額を納税するという仕組み故の結果です。仕入の際に高い税率で多く支払っていれば、その分納税額が減り、低い税率で少なく支払っていれば、その分納税額が増えるのです。つまり、増税前にまとめて仕入れても、増税後に仕入れてもトータルでは同じ結果になるのです。

■ 免税事業者・簡易課税制度を選択している企業様・一般消費者様への答え

「はい、そうですね。もちろん日が経つと劣化するようなものは、買い過ぎに気をつけるとして、増税後も必ず使うもので、時の経過に伴って劣化するようなものでなければ、まとめ買いしておけば、その分、消費税は安くすみます」

これが同じ問いに対する答えです。

消費税の納税義務のない免税事業者や一般消費者については消費税を納税することはありませんので、消費税を多く支払うと、その分納税額が少なくなるといったことはありません。当然、低い税率の際に購入した方が、お金の流出は少なくて済むということになります。

さて、次に簡易課税を選択している企業ですが、こちらについても免税事業者と同様に、増税前に購入できるものはしておいた方が得になります。

なぜなら、例外のところで説明した簡易課税方式の場合、売上で預かった消費税から業種によって決められた、みなし仕入れ率を預かった消費税にかけた額を差し引いた額を納税するからです。つまり、実際に仕入等で消費税をいくら支払ったかは、納税額に全く関係がなく、売上で預かった消費税の額に応じて納税額が決まる計算方法だからです。

納税額に全く関係がない以上、当然、仕入等で実際に支払う消費税は少ない方が、手元に多くのお金が残るというわけです。

理解していらっしゃる方にとっては「何を今更・・・」という内容かもしれませんが、意外ときちんと理解できていない方が多い内容のため、増税を前に再確認させていただきました。1年後、実際に増税が実行されるか否かは現時点では不透明な部分もありますが、基本的な仕組みを理解して、増税前に慌てることのないようにしましょう。