密度

みなさんはどれくらいの頻度で顧問税理士とコミュニケーションを取っていらっしゃいますでしょうか。

クラウド会計などを活用することで、記帳を中心とした経理周辺の事務作業の自動化や効率化に取り組む中小企業はかなり増えました。

そうなると、今まで記帳などの事務作業を中心に税理士に依頼していた企業は特に、税理士の必要性に疑問を感じだします。

記帳代行や申告書作成代行はAIの出現で無くなると予測される職種の筆頭格ですので、当然の流れと言えるでしょう。

一方で、ここ数年の税制改正では税理士などの専門家の助言や、それに基づく認定申請を事前に行わないと受けられない税額控除などの優遇税制が増えてきています。

今年の税制改正では、機械装置などで一定の生産性向上要件などを満たす設備投資に対して3年間固定資産税を最大でゼロにする特例が創設されています。

高額な設備投資を継続的に行う企業にとっては見逃せない税制ですが、この税制の最大の特徴は設備を購入する前に認定経営革新等支援機関である税理士事務所などが事前確認書を作成、生産性要件を満たすことの証明書の発行を工業会に依頼し、認定申請を自治体に行う必要がある点です。

税制優遇を受けるまでの流れを要約します。

(1) 設備投資を検討し始めた時点で顧問税理士に相談する
(2) 設備投資の内容が管轄の自治体では特例税制の対象になっているかを調べてもらう
(3) 対象になる場合、認定支援機関(顧問税理士など)に事前確認書を作成してもらう
(4) 対象設備の購入先に工業会からの証明書発行を依頼してもらう
(5) 管轄の自治体に(3)(4)を添付して認定申請書の提出をする
(6) 自治体から認定される
(7) 設備を購入する
(8) 申告書に書類を添付して申告を行う

 

もう一度言いますが、自治体から認定を受けるまでの(6)以前の一連の手続きは「設備を購入する前」に終えることが必須です。
おそらく(7)の購入に至るまでには2~3カ月を要するのではないでしょうか。

そして、実務で高いハードルになるのは間違いなく(1)です。

特例税制の細かい要件などを知っておく必要はまったくありませんが、何かしら設備投資を検討する時点で、「何か特例があるんだったよな」と思い起こし、購入設備がなんであろうと、まずは顧問税理士にそのことを伝えることが重要になります。

「購入する前に顧問税理士に相談する」ことが最大のポイントで、「先生、先月工場に新しい機械を1台買ったよ」では遅いのです。

今までの優遇税制であれば、設備投資などを顧問税理士が事後的に知ったとしても、申告の際に必要な明細さえ添付すれば事足りるものが大多数でしたが、ここ数年で創設される税制では購入以前や購入から60日以内の認定申請を求められるものが増えてきました。

毎月、顧問税理士と打ち合わせを行っている企業や、何かあれば普段から気軽に顧問税理士に相談する習慣がついている企業では、こうした制度の適用漏れは防げますが、顧問税理士に会うのはせいぜい年に数回で、普段からあまりコミュニケーションを取っていないといった企業では、かなりの高確率で優遇税制の適用漏れが発生することが予測されます。

クラウド会計やRPAの出現により、事務作業を専門家に依頼する時代ではなくなりました。

しかし一方で、有益な情報をタイミングよく提供してくれる、頼れる専門家との日頃からの密なコミュニケーションが今まで以上に求められる時代が既に来ていると私は考えています。

みなさんはどれくらいの頻度で顧問税理士とコミュニケーションを取っていらっしゃいますでしょうか。

RPA、ある意味衝撃

RPAというワードをご存じ無いという経営者は少なくなってきたかと思われますが、RPAの実態を把握しているという経営者は少ないというのが現実かと思われます。
もちろん使ってみなければ実態は分かりません。そして、いきなり使うにはハードルが高いソフトですので、当社でもRPAのプレゼンを受けてみました。
RPAについては一般的な情報を有していたものの、プレゼンを受けて直接ソフトを目の当たりにし、質問をしながらイメージをしていくと違ったものが見えてきます。
結論としては、想定していたよりも使いやすそうだと。しかし、代替させられる作業レベルは想定の範囲内(現時点ではかなり限定的)ということが確認できました。おそらく、皆様がイメージされているものと大きく変わらないと考えます。
中小企業における許容範囲内のコストを考慮すると、現時点では複雑な作業をRPAに代替させるのは現実的ではありません。従いまして、報道等で繰り返されているような大企業での成功事例は全く参考にならないというのは、皆様お考えのとおり。
ただし、RPAはボリュームのある複雑な作業を1つやらせるのではなく、ボリュームの少ない単純な作業を100やらせるためのソフトと考えると、考え方が変わります。
例えば、中小企業の実務の現場では、経営者の知らないところで無意味な単純作業がダラダラと繰り返されているというのが常です。
そして、「こんな作業はやり方を変えればいいじゃないか?」と問いかけると、
「この作業は10分程度で終わります。なので、改善したところで10分が5分になるだけで、その改善のために掛ける準備の方が大変です」と切り返され、
「それならとりあえずこのままにしておくか…」と尻すぼみになる会話が、日本全国、毎日繰り返されているはず…。
さらに問題なのは、実際には10分では終わっていないケースがほとんどだということです。このようなちょっとした作業は“ながら作業”です。アイドルタイムも発生します。10分の作業が10あれば本来100分の仕事となりますが、現実的には200分以上かかっていてもおかしくありません。
そして、この10分が5分の案件が、1人当たり毎月何件あるのか、そして、全員では何件あるのかを数えたことのある会社は極めて少数であるはずです。
国や経営者が「生産性の向上だ!」と号令を掛けてみても、この“10分が5分の案件問題”が解決しない限り、何も進まないというのが現実であると考えます。
このように考えた場合、この“10分が5分の案件問題”に有効となる可能性がRPAには感じられます。
大企業でRPAは大規模な業務改革であり、いままで単純作業を繰り返していた人材は最終的には減らしてくという流れでしょう。しかし、中小企業では、そこで余った時間を寄せ集めて、すぐさま他の業務に回す必要があるという点で、大きな違いがあります。
つまり、中小企業においては、RPAは業務の改革というよりも、社員の意識改革に近いのではないかと考えます。単純作業をマニュアル化してそのまま実行させるのがRPAです。RPAを使えないということは、そもそもマニュアル化できない業務が多すぎるという見方もできます。
では、誰がRPAを使いこなすのか?
“10分が5分の案件問題”を振りかざす社員にはあまり期待できません。改善意識の強い社員あるいは経営者自らが理解しないと先に進まないのが中小企業です。場合によっては複数の社員に、お互いの作業をRPAの動作シナリオ(つまりマニュアル)に登録させるというのも手段の一つです。
ひとまずは以上となりますが、積もり積もって、やっとRPAの効果の恩恵を受けられる。それが現時点でのRPAに対する期待レベルです。
パートスタッフ一人を新規に雇うのであれば、既存スタッフのちょっとした業務を寄せ集めてRPAに代替させるという感覚が、コスト面からも妥当でしょう。
RPAがここからどのように進化していくかは不透明な部分もありますが、作業のマニュアル化の一つと考えれば、先に手を付けておくのもよいかもしれません。