これで明確になった中小企業の課題

今回の新型コロナウイルス感染症は、中小企業がどれだけ自転車操業であるかを大っぴらに暴いてしまいました。

誰もが薄々気付いてはいても見て見ぬふりをしていた致命的な事実です。私は報道などで国の支援に文句をいう経営者の声を聞くたびに胸が痛くなります。

「数カ月すらもたないのか…」

会社がもたないということは、経営者個人ももたないということです。会社にお金が無く、経営者にもお金が無い。リスクを負って経営をしているにもかかわらず貯えがない…。

もちろん各々状況は異なりますし、このような時期に言い方は悪いのですが「経営者としての自覚が足りなかった」そう感じてしまいます。

冷静に考えれば今回の国の支援レベルは異例の規模です。政府のやり方がまずかったのは事実ですが、現時点までの被害だけを考えれば、政府の打ち手が良くても何も変わらなかったでしょう。

国にも責任はありますが、中小企業も社員を雇っている以上、責任が伴います。

採用面接で「うちは新型コロナのようなことがあったら3カ月もちません。休業手当も十分に払えません」と伝えたら、その方はその会社で働こうと思うでしょうか?

大企業に就職しようとする今どきの学生はその企業の財務諸表くらいは確認するでしょう。しかし、求職者が中小企業の財務諸表を事前に目にすることなどありません。そもそも公表されていませんし、公表したら不安にさせるだけです。

黒字・赤字はそのときの状況によるため二の次の判断になりますが、はっきりお伝えすると「お金を持っていないのは経営における『罪』」です。それで雇用を確保しようと国に文句を言うのはあまりにも浅はかです。

特に今回大きく取り上げられている飲食業は、支払いよりも入金が先にある商売です。それで月末の支払いに支障があるというのは、そもそも純粋な手元資金が無かったという事実を示しています。

また、比較的若い世代の経営者は借入れを好まない傾向にあります。「借入れをしないで済ませよう、利息負担は避けよう」というあまり、手元資金が最小化されています。

借入れたお金は使わずに持っておいてよいのです。利息は経営の損害保険料です。経営ではお金を持っていることが『正義』です。

たとえば、新型コロナが流行する前では花形だったスタートアップ企業。ご存知の方も多いと思いますが、基本的に大赤字です。大赤字はこれからの期待を裏付ける勲章と誇りに考えているとすら感じます。

そして大赤字を補填するために資金調達を繰り返します。従って、このような企業はお金が全てです。赤字か黒字かは関係ありません。

しかし、スタートアップ企業もこのような事態になると資金調達に苦労しますので、今後は大赤字を続けるわけにはいかないでしょう。投資する側もリスクを負いきれなくなる以上、当然です。これがスタートアップ企業の最大の問題点です。

それでは「中小企業はどの程度のお金を保有しておけばよいのか?」という点について。

私どもの立場上、お客様の生命保険の必要保障額を算定する場合があります(節税保険ではありませんよ)。

この生命保険の必要保障額は「経営者が亡くなったら、その会社にはどの程度のお金が必要になるのか?」という視点です。

その際に検討が必要な要素は以下の三つ。
 ・借入金の返済が可能か?
 ・売上高が0円になると仮定して何カ月分の固定費を確保しておくべきか?
 ・死亡退職金をどの程度見込んでおくか?

これらの要素と現在の手元資金を考慮した上で必要保障額を算定します。

そして「どの程度のお金を保有しておけばよいのか?」という質問には、この2番目の要素が当てはまります。つまり、売上高が0円でもどの程度の期間、会社を維持できるかという点です。

結論からお伝えすれば…

確保すべきは固定費1年分。

これが難しいのであれば人件費と地代家賃の1年分です。最低でも人件費と地代家賃の1年分のお金を常に維持できれば、新型コロナのようなことがあっても経営は成り立ちます(報道で繰り返されているのもこの二点に集約されています)。この原資は借入金で構いません。

アフターコロナはここから経営を考えましょう。

今は借入れ時です。過剰に借り入れ可能です。誰も文句を言いません。今が最大のチャンスです。

お金が先。利益は後。これが期限の利益です。

期限の利益を活かして業績の改善に取り組み、そして銀行と上手に付き合っていく。これが中小企業を正常化に導く鉄則です。

しつこいくらいに繰り返します。

まず、手元資金を最大化する。
期限の利益を得た上で、収益性を向上させる。
それにより自己資本比率を高めていく。

簡単ではありませんが、シンプルに考えてください。
時間はかかりますが、これ以外にはありません。