売り時の準備

各商品・サービス、不動産、会社…。

経営環境が変わり、これまで売り手有利だったものまでが買い手有利になり替わってきました。

M&Aは典型で、市場自体は活況であるものの、コロナ前からガラリと変わって今は買い手市場です。「買わせてください!」という買い手のスタンスが、「買ってあげてもいい…」に変貌を遂げます。

急ぐ必要がなければ「こっちからお断り!」となるのですが、いつ業績が回復するか分からない状況では、日々企業価値が減少する可能性があります。

また、残される社員のことを考えると、なるべく良い状態で良い相手にという判断が入らざるを得ません。

私どもがこれまでお手伝いした中では、企業価値がピーク時から半分程度になったケースがありました。ピーク時に譲渡を見送られたのは「残される社員のことを考えて…」という経営者の温情です。しかし、結果として譲渡せざるを得なくなり、社員は影響を受けないよう配慮されたものの、経営者の取り分は半分になりました。

売り時というものがありますが、売り時を掴むのはとても難しいことです。「よし、売ろう!」と思っても、それがピークかどうかは別問題であり、経営環境、社員や取引先などからも大きな影響を受けます。

「売る準備をしておく」と言葉にすると、あまり良い印象を受けないかもしれませんが、事業承継が前提であれば会社は必ず売られます。親族に贈与・相続させるにしても0円(税金は別として)で株式を売ったことになります。それが他人(知人または社員、並びにM&A)だから金銭の授受が発生するというだけ。

誰に売るにしても、その会社には常に時価が付いています。これは相続税評価額のことではなく、客観的な評価額です。

そして、今後の経営環境を考えると、株式を親族に贈与・相続させることを前提とした評価(相続税評価)ではなく、株式を他人に譲渡することを前提とした評価(時価評価)で考えていく必要があります。

だからといって、M&Aを勧めるという訳ではありません。しかし、親族による承継の比率は年々下がっており、M&Aすらさせてもらえない状態の会社が圧倒的に多いのが現状です。もし、皆さまが自社を廃業させたくないのであれば、長期的な計画を持って、誰かに売れる価値を持った会社にしておくことが経営者としての役割ということになります。

他人が欲しがるほどの会社であれば、親族も承継したくなるでしょう。他人が興味を示さないような会社を、親族に承継させるのが良いのか…とも言えます。

つまり、誰かが買いたくなるような会社にするためには準備が必要であり、価値を高めておくほど買い手が多くつきます。親族が手を上げれば1番手の買い手候補です。

なお、中小企業の時価は上場企業と異なり、過去と現在が全てです。スタートアップのような将来性を考慮されると考えてはいけません。つまり、時間を掛けて価値を上げていくだけです。

財務、人材、設備、技術、権利関係、取引先…。
整備すべきものはたくさんあります。

一般的な中小企業であれば、経営者が50歳前後から10年程掛けて、売る準備をするのが良いのではないかと考えております。60歳になったら売るという訳ではなく、その時に売る準備が整っているのであれば、そこからさらに10年経営するのは難しくないからです。じっくり時間を掛けてタイミングを見計らい、親族承継やM&Aという選択肢で売り時を掴みます。

もちろん、3年、5年でも形は作れるでしょう。しかし、企業価値がいきなり跳ね上がるなんて夢を見てはいけません。10年掛けて、コツコツ企業価値を高めていく取り組みが、結果として事業承継の成功率を高めます。

計画を立てながら経営をするのは苦手だという経営者は多いですが、事業承継は経営者の最後の仕事です。サラリーマンの退職とは訳が違います。これを計画せずして行うなど考えられません。

経営者は誰しも最後に会社を売るのです。
誰に売るかは考えず、売り時に価値を最大化できるよう計画的に準備を進めてください。
準備を進めるとともに、覚悟も決めてください。

価値の高い、魅力ある会社になれば、自ずと後継者が現れます。
それが結果として、親族・社員・取引先にも喜ばれることになります。

最後はどうなるかは誰にも分かりません。ですが、誰もが継ぎたいという会社にしておくことは誰にとっても損はないはずです。