事業承継について考える

先月公表された令和3年度税制改正大綱で、事業承継税制の特例措置が令和9年12月末までの適用期限をもって延長しないことが明記されました。

ご存じのように、これは中小企業の株式を贈与又は相続等で取得した場合の贈与税・相続税について100%の納税猶予が受けられる制度です。適用を受けるためには令和6年3月31日までに特例承継計画を提出しておく必要があります。

ここで制度の詳細と適用の是非について論じることはしませんが、年齢的にも事業承継は、まだまだ先のことだと思っている方にこそ考えるきっかけにしていただきたいのです。

この税制を実際に使うかどうかは別として、とりあえず納税猶予の権利を得ておくために特例承継計画を提出していただくケースには共通点があります。

お子さんがいらっしゃるものの、後継者が決まっていないことです。

時代と言っていいのだと思います。昔と違い、多くの経営者が「子供には子供の人生がある」と考え、子供には自分の好きな道を進むようにと育ててきています。

ましてや世の中の変化のスピードが信じられないほど早くなり、3年後どころか来年すら見通しづらい経営環境です。子供に事業を継がせていいのか迷う気持ちも分かります。

しかし、経営者が50代半ばほどに差し掛かり本気で事業承継について考え出すころ、事業が比較的順調であればなお、その想いには変化が現れます。

株式の問題などを含めて社員への内部承継が実現困難であることを悟り、M&Aという選択肢も視野に入れ始めるも、「できれば我が子に継いでもらいたい」そう考え始める経営者が多いのです。

とはいえ昔と違い、この時点で子供への「洗脳」は全くできていません。
急に跡継ぎの話しをされても、子供の方は心の準備も何もできていないため、ことは簡単には進みません。無理もないことです。

もう1つの選択肢であるM&A市場はコロナ過を受けて活況です。しかし、コロナの影響を受けて業績を落としたことをきっかきに売却へと舵を切る「売り時を見誤った」企業が多く存在することもあり、市場は完全なる「買い手市場」です。

こちらが急に売りたいと思ったからと言って、その時には売れるとは限りません。
当たり前のことですが買い手にとって魅力に感じる事業・財務・タイミングでなければ買い手の手が上がることはないのです。

我が子への承継も、M&Aも決して一朝一夕にはいきません。
必要なのは経営者の覚悟と、それを受けての明確な行動による入念な準備です。

前回の税制改正大綱で見直しが明言された相続税・贈与税の一体課税については「今後、本格的な検討を進める」との記述にとどまりましたが、ここにメスが入れば事業承継計画にも少なくない影響があることは間違いありません。

思い通りに進まないことが起きるからこそ入念な準備が必要であり、それに要する期間を考えれば、事業承継は誰にとってもそれほど先のことではないはずです。

もし、本心が我が子への承継を望み覚悟を決めたなら、時代に逆らったっていいのです。