中小企業において、社外取締役は必要か?

最近、皆さまも「どこそこの会社の社外取締役に、前〇×社の社長が就任した」という報道をよく見聞きするのではないでしょうか。

ご存知の方も多いと思いますが、5月1日から“企業統治(コーポレートガバナンス)”の強化を主な目的とした改正会社法が施行されました。簡単に説明すると、「社外取締役を増やして、経営の監視を強化してください」ということになります。近年、上場企業において様々な問題が起こったことも影響していることでしょう。また、金融庁と東京証券取引所も企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)を決定し、社外取締役を2人以上選任するよう促しています。

つまり、大企業においては社外取締役を増やしていくのが流れであり、社外取締役には“CEO”(元も含む)という人材が理想と言われていますから、スター経営者が社外取締役に就任すると、冒頭のような報道が行われます。

しかし、社外取締役が経営強化にどれだけ有効に機能するのか?という疑問は誰にでも湧き上がるものですし、“あの”大塚家具にも社外取締役はいたそうですから、社外取締役という制度設計と、それが有効に機能するかどうかは別問題であることは明白です。

結局は、どれだけ社外取締役として適切な人材を確保できるのかということと、その企業の経営陣が社外取締役の意見をどれだけ経営に活かせるかどうかが問題になります。今後、社外取締役の本格的な導入に伴い、日本企業がどのように変わっていくのか(あるいは何も変わらないのか)、楽しみでもあります。

ということで、本題に移ります。
それでは中小企業において、社外取締役は必要なのでしょうか?

「いやいや。関係ないでしょ、中小企業は…」

と、皆さまがお考えのように、私も関係ないだろうと思います。

そもそも、自社の取締役とはいえ、オーナー経営者がどれほど他人の意見を聞くのか? やりたいことを即座に実行できるのがオーナー経営者の強みであり、止めろと言われるとやりたくなるのがオーナー経営者の気質ではないでしょうか(違う方も多いと思いますが、あくまでイメージということでご容赦を…)。

従いまして、「社外の人間には、うちのことは分からない!」というお考えの経営者は、上場・非上場にかかわらず、社外取締役は無用の存在です。むしろ、存在するだけで会社に混乱をもたらし、有害にもなり得ます。もちろん、他人の意見を排除する場合は、全てオーナー経営者の責任となるのは望むところでもあるでしょう。

これに対して、制度が要求している社外取締役の機能は…

社長「現在、このようなことを考えており、来年から実行に移す予定です」

社外取締役「ちょっと待ってください。それは〇×社が数年前に実行して大失敗しているじゃないですか。それをなぜ当社がいまさら? このような方向性の方が当社に合っているのでは?」

社長「それは…」

という具合に、取締役会などで社外取締役からの牽制とアドバイスの下、経営を進める必要があるということです。これが上手くいっても上手くいかなくても、評価を受けるのは経営者自身です。従って、得難い社外取締役を持つことは、会社にとって強みとなります。

そして、社外取締役は必要ないとしても、オーナー企業の弱みは、制度が要求する社外取締役のように「それはダメだよ!」、「こういう方法があるよ!」と明確に言ってくれる人材が皆無ということです。仮に外部でもそのような人材が身近にいればラッキーですし、社員にそのような人材がいたらそれは本当に幸せなことです。

もちろん、一般論的な正義感から「それはダメだよ!」と言うだけでは意味がないのは当然です。知識と経験に基づいた客観的な意見であることが重要です。

ここまで言えば分かるように、中小企業にとって最も大きな問題は、大企業における社外取締役のような機能を果たせる人材がいないということです(大企業も人材の確保に奔走しているようですが…)。

この点、中小企業の社外取締役には、自社の業績を把握している顧問税理士、契約している経営コンサルタントに白羽の矢が立つこともあります。しかし、これがベターな選択かというとそうではありません。

社外取締役にはCEO(元も含む)が適任と言われているのは、同じように組織を率いてきた経験と知識を見込まれてのものです。

これに対して、顧問税理士や経営コンサルタントがどれだけの組織を率いているのか?そもそも、顧問税理士や経営コンサルタントの会社の業績は万全なのか?

よーーくお考えいただければお分かりかと思いますが、9割以上の税理士も経営コンサルタントも大して社員を抱えていないですし(つまり一般企業に比べて組織の体をなしていない)、会社が私物化されているという意味では、一般企業よりも酷いのではないでしょうか(もちろん、例外となるような方はいらっしゃいます)。

また、持っている知識は専門特化されすぎていて、それ以外の知識はどこかの受け売り。顧問税理士や経営コンサルタントとして付き合っている分にはよいかもしれませんが、社外取締役という重責を担える職種かというと大いに疑問があります(職種として疑問があるというだけで、適任の税理士やコンサルタントがいらっしゃるのも事実です)。

以上から、基本的に社外取締役なんてものは中小企業に根付くことはないと考えますが、同様の機能を何らかの形で取り入れられる中小企業は、やはり成長・成功しやすいというのは間違いありません。

例えば、顧問税理士のアドバイス一つで、会社の財務状態が劇的に変わることだってあるくらいですから、本来求められる社外取締役の機能を果たしてくれる人材がいれば、経営に大きなインパクトを与えます。

そして、そのような人材を活かすために重要なことがあります。それは、その方に正確な業績や財務状態を開示できること。また、その方がその業績や財務状態を意味することを十分に理解できるということです(こういう意味で、税理士が選択肢に入ってしまうのは仕方がない面もありますが…)。

会社の正確な情報を把握できずに、適切なアドバイスを行うことはできませんし、アドバイスはできるけど業績や財務は少し分かる程度というくらいでは、アドバイス自体が正しくても、その会社にとって正しいものかどうかは別の問題になります。

いずれにしても、コーポレートガバナンス・コードが社外取締役を2人以上と促しているとおり、ただ1人だけの人材では、経営の監視やアドバイスは十分ではないということになります。

従って、中小企業には社外取締役は必要ないけれど、同様の機能を持てるのであれば好ましい。その際は、1人ではなく2人以上が好ましい。というのは大企業と変わりません。もちろん、取締役会なり、それに近い形式の会議が中小企業でも行われるというのが前提にはなります。無駄な会議は排除すべきですが、有用な会議のスタイルは構築すべきです。

皆さまの会社はいかがでしょうか?
外部の意見を柔軟に取り入れる仕組みはありますか?

社内に入るということは本気でなければできませんし、一緒に経営の強化を目指す以上、責任もありますので当然のことかと考えます。

もし、皆さまの会社でも社外取締役をご検討されているのであれば、付き合いとか顧問だからとかお金を払っているからということではなく、本気で皆さまに意見してくれる方をお探しになってください。

甘やかし税制による高齢者の『やり過ぎ貧乏』にご用心!

仕事柄、ハウスメーカーや工務店からのご依頼でセミナー講師を務めることがあります。

賢い住宅ローンの借り方やら固定資産税の節税法などいろいろな話をさせていただくのですが、参加者の関心が一番集まるのはやはり『住宅資金贈与』についてです。

中でも「いくらまでなら(もらっても)税金がかからないのか?」
という質問を一番多くいただくのですが、その質問を受ける度に、私は、「皆さんよくそんなに親から贈与を受けられるもんだなぁー」と関心させられます。

今、アベノミクス政策によって住宅取得等資金の贈与をはじめとした『甘やかし税制』が増え、これによる高齢者の『やり過ぎ貧乏』が懸念されています。

『相続税の節税』という大義名分もあって、子供や孫は祖父母にお願いし易く、また、話をされた祖父母もその期待に応えようと、多額の資金を一括贈与してしまいます。
その結果、自分達の生活資金が足りなくなるというものです。

アベノミクスの『甘やかし税制』には次のようなものがあります。

  1. 住宅取得資金の一括贈与(消費税増税後は3,000万円に拡充)
  2. 教育資金の一括贈与
  3. 結婚・子育て資金の一括贈与

このうち、結婚・子育て資金の一括贈与は今年度の税制改正で新たに創設されたものです。

教育資金の一括贈与については本年度より制度が拡充し、『通学定期券代』、『留学渡航費』が非課税対象となりました。

さらに、平成28年からは『子ども版NISA(ニーサ)』も開始されます。

NISAは『少額投資非課税制度』のことで、子ども版については年間80万円以下の投資額が認められており、この口座内での譲渡益や配当金の所得税が『非課税』となります。

アベノミクス政策によって、高齢者から若年層への資金移転がしやすい状況にありますが、当の贈与をする側の祖父母は必ずしも快く思っていない向きがあります。

平成25年に教育資金贈与の制度が創設されたときに数件のご相談をいただき、ご説明、お手続きをさせていただきました。

このとき私のところにその相談を持ってこられたのは、贈与をされる祖父母ではなく100%そのご家族でした。

今年から相続税の基礎控除が6割に減額されたこともあり相続税の心配をされるご家族が増えています。

「今のままでは相続税がかかるのではないか?」
「それならば制度を使って節税をしたい」
というのですが、私が受けた相談のうち、少なくみても半分は相続対策の必要がない案件です。

確かに現状では相続税がかかるかもしれない案件はあるのですが、当の贈与をする祖父母からしてみたら、最大の関心事は相続対策ではなくこれから先、老後の『生存対策』なのです。

そこで資金の贈与を行う前には必ず必要老後資金の計算を行ったうえで、贈与可能な余裕資金を確認して欲しいのです。

計算はザックリで結構です。
計算方法は次のとおりです。

(必要老後資金の図)

『年間の生活費』については生活ランクでわけて考えます。
自分がどの老後を送りたいかで決めましょう。

Aランク
Bランク
Cランク 

VIPな老後生活
ゆとりある老後生活
普通の老後生活

1,000万円
700万円
450万円

次に『余命年数』についてですが、日本人男性の平均寿命も80歳を超えたことから考えると少なくとも90歳までの老後資金はみておいたほうがいいでしょう。

自分は100歳まで生きると思えば、それでも構いません。

こうして計算してみるとお孫さんたちに贈与可能な資金などそれほどないということがお分かりいただけると思います。

相続税の改正によって相続税への関心が高まっていることから国税庁ホームページでは相続税の申告要否を判定するコーナーが設けられました。

国税庁 『相続税の申告要否判定コーナー』
https://www.keisan.nta.go.jp/sozoku/yohihantei/top#bsctrl

こちらのサイトで相続税の申告の要否を確認してみてはいかがでしょうか?

試算するときには今の財産額から十分な老後資金を控除していただくことをお忘れなく。

株式譲渡の損益の相殺に改正?!

税制改正によって平成 28 年から、いわゆる「金融所得一体課税」が導入されます。
一体、なにが変わるのでしょうか。

現行では、同族会社などの非上場株式の譲渡損益と、特定口座などで売買している上場株式の譲渡損益とは、申告する時に相殺することが出来ます。

しかし、改正によりH 28年1月1日以後の譲渡から、この相殺が出来なくなります!

よく、事業承継による同族株式(非上場株式)の譲渡のときには、多額の譲渡益が発生するケースが多いのですが、この同時期に、例えば株価低迷による含み損失のあるような、いわゆる塩漬け状態の上場株式を保有していれば、これを売却して譲渡損失を実現させることで、先の同族株式の譲渡益と相殺させ、納税を軽減させる方法が採られていました。

例えば事業承継のため、非上場の同族株式を後継者へ移転するために譲渡した結果、譲渡益が5,000万円出たとします。

この状態で申告するとなると、譲渡益に20%の所得税が課税されますので1,000万円の納税が必要になります。

一方、リーマンショック前に購入したような上場株式等を所有しており、株価の順調な今でも総額5,000万円の含み損があり塩漬け状態だったとします。

そこで、この上場株式を売却して5,000万円の譲渡損失を実現させることで、両者の損益が相殺できるので、結果、損益を0円とすることで納税を回避することができるのです。

 

■その逆のパターンもあり得る?!

アベノミクスの恩恵か、このところ株価は順調のようです。
うまく運用して実際に利益を享受したり、あるいは、大きな含み益を持った状態で上場株式を保有されている方も多いのではないでしょうか。

そこで、非上場の同族株式を所有するオーナーさんなどには、この同族株式を低額で譲渡することで譲渡損失を発生させ、この上場株式の譲渡益と相殺をさせるという方法が考えられます。

しかし、そこには税務上の取り扱いにより、大きなトラブルとなる可能性が大きいので注意が必要です。
税法では、非上場株式の譲渡の際には、その譲渡の時の「適正な時価」により売買することを要請しているからです。

したがって、その「時価」よりも低い価格で売買されても税務上では認められず、時価との差額に対して原則的には課税されてしまうことになってしまいます。

また例えば事業承継により、譲渡によって株を後継者へ移転させる際には、会社で先代の多額の(とはいっても適正な)退職金を計上することで赤字決算を計上し、意図的に株式の時価を低減させることが可能となる場合があります。

そこで、その時点で自社の株式を譲渡することで、事業承継を行いながら退職金支給前より譲渡益を少なく、場合によっては、譲渡損を出すことが可能になります。

そして譲渡損を計上できる場合には、先の上場株式の譲渡益との相殺をすることで、本来納めるべき上場株式の税金を減少させることが可能となるのです。

しかし、このように非上場株式を譲渡する際の金額には税務上の「時価」という概念が付きまといますので、慎重に行うことが重要です。
非上場株式の譲渡の際には、譲渡益の場合も、譲渡損の場合もこの「時価」の算定が必要となります。

このような相殺が可能なのは、今年、H27年12月31日までの譲渡が対象となります。
該当する環境のある方は、是非ご検討されてみてはいかかでしょうか。

また、弊社では、「自社株評価サービス」も行っています。
気なる方は、是非、弊社のHPをご確認ください。

問題解決型交渉

3月12日の日本経済新聞に東京都心のオフィス空室率が5.31%で、20ヶ月連続で改善しているとの記事が掲載されていました。大企業の収益好転に伴い、業容拡大によるオフィス拡張の動きが引き続き活発とのことです。

私たち中小企業の収益が好転しているか否かはさておき、オフィスが手狭になった等々、様々な理由によりオフィス移転や開設を検討されている経営者の方もいらっしゃると思います。しかし、オフィス移転の際に経営者を悩ますコストの一つに「敷金・保証金」があります。

通常、「敷金・保証金」は個人宅で賃料の1~3ヶ月分、オフィスで賃料の6~12ヶ月分がおおよその相場になりますので、都内でそれなりの広さの物件を借りれば、かなりの金額になります。しかもこの「敷金・保証金」、支払った時には損金にならないのだから、参ります。

しかし、もし、この「敷金・保証金」を支払わずに済むのなら・・・
オフィス移転のハードルも、少なからず下がるのではないでしょうか。

ご存知のように敷金・保証金は入居者が家賃を滞納したり、退出時に入居者の過失による修繕費がかかったりした時の為に、大家さんが預かっておくお金です。繰り返しになりますが、入居者にとっては預けておくお金ですので、支出時において損金にすることはできません。

いずれ退去時に損金になるか、戻ってくるとはいえ、支出時に損金にならないキャッシュの流出は経営者にとって喜ばしいものではありません。

であれば、敷金・保証金を払わずに済むか、せめて減額できるように大家さんに交渉する方法は無いのか、考えてみましょう。

当たり前ですが、「絶対に滞納なんかしないから、敷金は勘弁してください!」と交渉しても、まず取り合ってもらえません。そこで、敷金の性質を理解したうえで交渉するのです。

再度確認しますが、敷金や保証金は「大家さんが家賃の滞納や入居者の過失による修繕に備えて預かっておくもの」です。つまり、大家さんにとって敷金は「担保」です。

ということは、家賃の滞納などに対する大家さんのリスク問題が、敷金とは別の形で担保、解決できれば、交渉が可能になるかもしれません。

そこで交渉に有効なのが「家賃の年払い」です。家賃は通常、月末に翌月分を支払います。これを1年分まとめて先払いする、つまり「年払い契約」にすることを条件に敷金を無しにする、若しくは減額してもらえないか交渉するのです。

大家さんにとっては、前もって1年分の家賃を受け取ることができれば、家賃滞納のリスクから、ある程度解放されるはずですので交渉してみる価値は十分にあります。
「家賃は1年分先に払うから、その代りに敷金無しにして!(減らして!)」と交渉するのです。

ちなみに、この1年分の先払い家賃、家賃が1年以内のものであるなど、一定の要件を満たせば「短期前払費用」といって、支払った時点で全額損金に算入することができます。前払費用として資産計上しなくてもよいのです。

もう一度繰り返します。敷金・保証金という形であれば、支出時に損金にはできません。
しかし年払いの家賃で一定の要件を満たしていれば、支出時に損金にできます。
仮にオフィス移転が、予想以上に利益が出た期の年度末と重なれば、それまで毎月支払ってきた家賃に加えて、年払いした1年分の先払い家賃も損金として計上することができ、結果として最大で2年分の家賃を、支出した期の損金とすることも可能なのです。

敷金・保証金は当然に支払うべきものと思って諦めていませんか?
同じ支出でも、支出時に損金にできるのと、できないのとでは会社にとって大きな違いです。交渉ごとは、ただこちらの利益だけを求めて行ってもうまくいきません。しかし、相手側の立場、抱えている問題を理解し、解決してあげる視点を入れることで、うまくいくことがあります。オフィス移転や開設の際は、ぜひ「ダメ元」で交渉してみましょう。

税制改正で税務署が注視!生保名義変更スキームに要注意

日本の中小企業経営者は生命保険を使った節税が大好きです。
“合法的に上手いこと節税している感”が多くの経営者から支持されているのだと思います。
そんな生命保険を使った節税スキームにまた一つ網がかかることになりました。
生命保険契約では、保険料負担者である『契約者』、保険事故の対象となる『被保険者』、そして『保険金受取人』の三者によって課税関係が異なってきます。

(保険契約者が保険料を支払っているものとします)

上記の取り扱いは保険契約時から保険金支払時まで契約者である保険料負担者に変更がなかった場合です。
契約の途中で契約者の変更があった場合の取り扱いについては次のとおりです。
例えば、10年満期の養老保険について、当初の5年間は親が契約者となり保険料を負担し、その後の5年間は子供が契約者となり保険料を負担した満期保険金を子供が受け取った場合はどうでしょう?
この場合、次の二種類の税金が課税されることとなります。

○親が保険料を負担した部分の満期保険金   親から子への贈与 → 『贈与税』
受け取った保険金の1/2が贈与税の課税対象となり、贈与税の基礎控除110万円を超えた場合には贈与税が課税されます。

○子供が保険料を負担した部分の満期保険金   子供の所得 → 『所得税(一時所得)』
(受け取った保険金の1/2-払込保険料-50万円)×1/2が一時所得として課税対象となります。
保険会社は100万円を超える死亡保険金や満期保険金の支払いがあった場合、『生命保険契約等の一時金の支払調書』を税務署へ提出することとなっており、これによって税務署では保険金の支払い事実を把握することができます。

(支払調書の図)

 

しかし、これだけでは保険金について正確な課税が行えませんでした。
支払調書には保険金受取人、保険契約者、被保険者、払込保険料などが記載されており、これによってどの税金がかかるのかを計算することができるように思われますが、支払調書に記載される契約者は保険金支払時の最終契約者であるため、極端なケースでは、保険金支払いの直前に契約者を変更することにより、本来、贈与税の課税がされるべきものを、全額一時所得として申告をしているケースもあるのです。
支払調書の記載上の注意点には『契約者以外の者が保険料等の払込みをしていることが明らかなものについては、「保険契約者等」の欄にその保険料等の払込人を記載すること。』となっています。
これは、妻が契約者となり、その保険料の支払が夫の口座から引き落としになっている場合等で契約者変更があった場合には該当しませんでした。
そこで、このたびの税制改正では、保険契約の契約者変更があった場合には、保険金等の支払時の契約者の払込保険料等を別に記載することとなりました。
改正後の支払調書の書式が公表されていませんのではっきりとしたことはわかりませんが、少なくとも、既払込保険料と『保険金支払時の契約者の払込保険料』が同額でない場合には、差額保険料は本人以外の者が負担したことが明らかであり、これによって税務当局では、贈与等の事実が容易に把握できることとなりました。
子供が就職するまでの間に親が保険料を支払い、就職をした後に契約者を変更する場合や、夫が契約していた養老保険の満期金の契約を変更し、妻が受け取る場合には、今後は税務署より『保険金受取についてのお尋ね』という書類が届くようになるかも知れません。

ここまでは個人間についての話をしてきましたが、この改正は個人間に限らず、法人と社長の間の保険料負担についても当然に適用となります。
低解約期間付きの生命保険契約にかかる保険料を法人が負担し、その後解約返礼率が跳ね上がる直前に社長個人に名義変更をした場合、その保険契約を解約することで社長個人に多額の経済的利益が発生する場合があります。
これらの契約についても、今後は解約返戻金支払時に社長が負担した保険料が支払調書によって明らかとなりますので、名義変更時の法人での経理処理ならびに名義変更によって社長が受ける経済的利益の妥当性が問われることとなるのは明らかです。

マイナンバー制度も導入されあらゆる情報が国税当局に把握されつつあります。
“合法”“節税”をうたった名義変更スキームには安易に手を出されないことをお勧めいたします。

ふるさと納税は節税か…

と、聞かれれば節税ではありません。

しかし、ご存じのように「ふるさと納税」ブームです!!

個人的にふるさと納税には全く興味がなかった私ですが、お客様が確定申告時に証明書をたくさんご提出されるのを見て、驚きました。

当社の個人確定申告は、ほぼ顧問先の経営者さまですので、ご自身の限度額が高く、メリットがあることもお分かりのようでした(おそらく奥様が!)。

しかし、それでも
「ふるさと納税分の還付額はこれしかないの?」
「いえいえ、ふるさと納税は、個人住民税からも控除されるのです」
という会話が繰り返されたくらいですから、やはり節税と思っていた方が多いのです。

繰り返しますが、ふるさと納税は節税ではなく、最終的な税金は“変わりません”。どちらかというと、税金の前払いですね。ですが、ふるさと納税は、外れない懸賞品に応募するようなものです。

一般の方は限度額があまり高くはないので微妙ですが、高額所得者の方であれば、今年から数十万円程度の限度額となってもおかしくはありません。

ですから、お手間でなければ、ふるさと納税バブルに乗るのもよいかもしれませんね!

と、前置きが長くなりましたが、ふるさと納税のように、「節税、節税」と世の中で言われているものなど、実際には節税にはならないことがほとんどです。

ふるさと納税も、特産品というメリットは別として、“節税”という表現のアナウンス効果は非常に大きかったと思います。

法人でよく行われる生命保険を使った“節税”も、「単なる課税の繰り延べ商品なのですよ」と正直に表現したら、契約数は激減するはずです。あくまで“節税”商品として売られているため、ニーズが非常に強いわけですから…。

ということで、改めて法人の“節税”と呼ばれているものをご説明いたします。

いわゆる節税を単純分類すると、下記の4パターンのようなものがあります。
(他にもありますがとりあえず…)

  • 支払う税金が確実に少なくなる『消費型』
  • 今は支払う税金が少なくなるけれども最終的には変わらない『繰り延べ型』
  • 課税対象者を移転する『移転型』
  • 今ある資産を処分などする『オフバランス型』

『消費型』は、お金を使えば経費が増えて税金が減るという意味なので、「来月買うくらいなら今月買いましょう」という感じです。
つまり節税ではありません。

『繰り延べ型』は、夏休みの宿題を後回しにする小学生のようなパターンで、どこかで清算を迫られます。清算を迫られるときには法外な利息が付いているようなものなので、原則として、確実に終わると分かっていない限りは宿題を受け取ってはいけません。
もちろん、これも節税ではありません。ご存じのとおり、生命保険がトッププレイヤーです。

『移転型』については、「法人税を払いたくない!」、「それなら役員報酬を上げましょう!」という感じで、法人から経営者個人へ利益を移転するのが代表的です。
当然、決算時に支払う法人税は減りますが、所得税を源泉徴収されて毎月分割納付しているので、正確にシミュレーションをしない限り、節税になっているかどうかは微妙です。

また、以前からお伝えしているとおり、我が国の法人税は減税の方向性が示されており、個人課税である所得税と相続税は増税の方向性にあるため、利益を法人から経営者個人へ移転し過ぎる方法も再考の時期です。

『オフバランス型』は、「おっ、こんなお宝が倉庫に眠っていたのか!」と、過去の失敗を取り返すチャンス的な節税です。自社の貸借対照表をよくご確認いただき、お宝を探してください。探した後は処分(廃棄、売却など)です!
アンフィニッシュを清算しましょう。節税というよりも、リベンジに近いです。

以上のパターンには、節税に掛ける金額の大小と期間の長短に特徴があります。
『消費型』は、金額は小さくなりますが、即実行が可能です。
『繰り延べ型』は、金額も期間も比較的融通が利きますが、一度始めたら止めるのが難しい。
『移転型』は、役員報酬や事前確定届出給与であれば期間は短く、退職金は非常に長期間必要となります。金額は自由ですが、支払と同時に所得税を支払うことにもなるので少し微妙。
『オフバランス型』は、比較的短期間で実行可能で、金額も大きいケースが多くなります。ですが、オフバランスする資産がなければできないため超限定的です。

「とにかく税金を払うのは嫌だ!」という方がやりたがるのが、節税額が大きく、短期間で行う方法です。ということで、『繰り延べ型』が一番人気であり、これが節税の代表のようになっています。

中小企業の経営者のパターンで言えば、法人税を回避しようと利益を移転すれば、役員報酬で所得税が増えます。役員報酬を抑え所得税を回避しようとすれば、法人税が増えると同時に、貯まった内部留保が自社株の価値を押し上げ相続税が増えます。

法人税と所得税の落差が大きいため最も有効と言われる退職金に関しても、最終的には相続税で持っていかれることを考えると、さらなる課税の繰り延べとなる可能性もあります。

さらに課税を逃がすためには、贈与などで親族に分散し続けるしかありません。そのための制度としては、年間110万円の非課税贈与枠であり、住宅取得等資金の贈与であり、新設されたばかりの教育資金の一括贈与などが存在します。

節税など、すでに幻想レベルになってきていますが、それでも打つ手がない訳ではありません。表現は悪いですが、課税を逃がし続けるというのも一つの選択肢です。M&Aによる売却も、お金にならない自社株への課税を逃れるという意味では柔軟性を持ちます。

以上となりますが、“節税”と“商品”が付くものに手を出すのは十分気を付けてください。太陽光発電だって、つい最近まで節税商品として売られていましたし、その結果は散々たるものでしたので…。

マイナンバー制度・・・けっきょく何を準備すればいいの?!

「平成28年1月からマイナンバー制度が実施されます!!」

テレビの政府系広告もはじまり、制度の名前くらいは誰でも知っているかと思います。
ナンバーの通知が始まる平成27年10月までも、もう半年もありません。

しかし、「では、会社では一体なにをどうしたらいいの?」という経営者の方も多いのでないでしょうか。

そこで、経営者(事業者)が「しなくてはならいこと」、「してはいけないこと」について、簡単にまとめてみることとしました。

★ マイナンバー制度の概要
まずは制度の概要についてです。
ご存知の通り、この制度は社会保障や税制度の効率性・透明性、国民にとっての利便性や公平性の観点から実施されることとなりました。

まず、H27年10月から順次、マイナンバーが個人の住民票の所在地へ「通知カード」が発送されます。さらに、申請をした者には「個人番号カード」が発行されます。

このマイナンバーですが12桁の番号で、住民票を持つすべての国民に割り当てられます。したがって海外にいらして住民票がないような方は、帰国して住民票が登録された時点で発行されることとなります。
この制度の導入によって、税務行政の効率化と納税者サービスの向上が期待されています。

★ 事業者がしなくてはいけないこと(1)
先の社会保障と税制度での効率化のため、一般の事業者では、社会保険や雇用保険・労働保険等の手続き関係の書類、そして、税務署等へ提出のための源泉徴収票や支払調書などの作成において、このマイナンバーを記載する必要があります。

また、各種報酬や地代家賃、あるいは配当金などの支払調書の作成、と考えると、その対象は事業者の従業員だけではなく、取引先にまで及ぶこととなります。
従って、これらの者のマイナンバーの提示を受けること(収集)が必要になります。

★ 事業者がしなくてはいけないこと(2)
マイナンバーの提示を受ける際には、いわゆる「本人確認」が、提示を受ける事業者に義務付けられています。
この本人確認は、原則として「マイナンバーの確認」と「身元確認」の二つの確認を厳格に行わなければなりません。具体的には、下記のような書類の確認が必要となります。

■1.従業員など本人から提示の場合
(1)「個人番号カード」の確認
      又は
(2)「通知カード」又は「マイナンバーの記載のある住民票」の確認
       +
「運転免許証」又は「パスポート」等の確認

■2.代理人から提示の場合
⇒代理人のケースは、例えば、年末調整のために扶養親族のマイナンバーが必要な場合や、従業員の奥さんを社会保険の扶養親族とする(3号被保険者)とするために、奥さんのマイナンバーが必要な場合などが該当します。

(1)原則として、
親族からの「委任状等」の確認
      +
「代理人の運転免許証等」の確認
      +
「奥さんの個人番号カード」の確認
      又は
「通知カード」又は「マイナンバーの記載のある住民票」の確認

★ 事業者がしてはいけないこと(1)
従業員の氏名・年齢・住所・電話番号等は、いわゆる個人情報保護法に規定される「個人情報」となりますが、この情報にマイナンバーが紐づくと「特定個人情報」として、マイナンバー法の厳しい規制の適用を受けることとなります。

この法律では、事業者が取得したマイナンバーは、前述の社会保障や税制度の手続き上、書類を行政機関へ提出するときにしか使ってはいけないことになっています。

従って、例えばこのマイナンバーを社員番号にしたり、番号と営業成績等を紐付けて管理したり、取引先の発注履歴と紐づけたりといったことに使用することは禁止されており、違反した場合には厳しい罰則規定が存在します。

★ 事業者がしてはいけないこと(2)
特定個人情報は、(1)と同様に、書類を行政機関等へ提出するとき以外では、第三者に提供することはできません。たとえその個人の承諾を得たとしてもできないこととなっています。

したがって、例えばグループ会社間への従業員の出向や、転籍の場合でも、グループ間で情報を共有することはできません。
転籍等の後に、改めてマイナンバーの提示を求め、本人確認を行う必要があるのです。

★ 最後に・・事業者がしなくてはいけないこと(3)
上記のような規制があることから、マイナンバー法では、個人番号や特定個人情報について、事業者に対して厳格な情報管理を求めています。

具体的には、マイナンバーを取り扱う担当者や責任者を明確にしたり、情報自体にアクセスできる制限をかけたり、その情報にアクセスした履歴を残すなど、従業員等の特定個人情報を扱う業者として、組織的に取り組む必要があります。

簡単にまとめると、上記の通りですが、まだまだ、国民への周知度も低く、具体的対応の面でも不明瞭な部分はありますが、今後の動向で、新たな情報が入り次第、またお伝えするつもりです。

しかし、マイナンバー法が実施されてからの対応では遅すぎます。
制度の情報にはアンテナを張り、平成27年10月以降、マイナンバーの収集と管理が始められるよう、今から準備することをお勧めいたします。

節税だけを目的にするとおかしなことになる

「タワーマンション節税」という言葉を新聞や雑誌、テレビなどで見聞きしたことのある方も多いのではないでしょうか。これは相続税増税を目の前にした昨年あたりから頻繁に話題に上がっている節税方法で、うまくいけば、かなりの節税を計ることができます。しかし、あくまで“うまくいけば・・・”の話です。
「タワーマンション節税」とは相続税における財産評価(持っている資産がいくら相当のものかを評価すること)方法に起因します。
相続税では「財産評価基本通達」に従って、相続した財産の評価額に税率をかけて税額を計算します。仮に現金を相続すれば、その金額そのものが相続した財産の評価額になります。これに対して不動産の場合、土地は路線価、建物は固定資産税評価額で評価します。路線価は時価の約80%、固定資産税評価額は時価の70%程度になりますので、現預金と比べると財産の評価額が低くなります。評価額が低くなれば当然、税金も安くなるというわけです。
このことは土地付き一戸建てでも同じなのですが、マンションは土地よりも建物の割合が大きいので、時価の70%程度である固定資産税評価額での評価割合が高くなり、土地付き一戸建てよりも評価額が下がりやすいのです。
しかもタワーマンションであれば1戸当たりの土地の持分が普通のマンションよりも小さいので、さらに評価額が低くなる傾向があります。しかも評価額は専有面積に応じて計算するため、所有する物件が眺望のよい高層階であっても1階であっても専有面積が同じであれば変わらないため、値崩れしにくい高層階を所有することで、財産価値を保ちつつ、財産評価額を下げられるという効果が得られます。
さらにさらに、一定の要件を満たして「小規模宅地等の特例」を適用できれば、50%・80%の評価額を減額することができてしまいます。こうなると相続税対策を考えていて、タワーマンションを買えるだけの金融資産がある方が、タワーマンションを買わないのはバカだという気さえしてしまいそうです。
でも果たして本当にそうでしょうか。
確かに机上の計算ではその通りです。タワーマンションを購入した人が、購入後すぐに亡くなり、財産評価基本通達によってタワーマンションの評価額を算出すれば、かなりの節税になるでしょう。そして相続した子供がそれを購入金額と同じくらいの金額で売却できれば、売却に対する譲渡所得税もかかりません。こうなると、節税大成功と言えるでしょう。
しかし、ことはそんなに簡単ではありません。
前述のように相続財産は基本的に「財産評価基本通達」に従って評価、税額を計算しますが、実はこの評価が、「著しく不適当と認められる」「特別な事情がある場合」には他の合理的な方式によって評価されることが許されています。
認知症を発症した父名義で約3億円のタワーマンションを購入後、ほどなくして相続発生、「財産評価基本通達」にしたがって、このタワーマンションを約6千万円で評価、申告納税。相続人はタワーマンションを相続後、すぐに約2億9千万円で売却と、絵に描いたようなタワーマンション節税を計った事例があります。
この事例では、認知症を発症した父名義で購入していることなど、節税のみを目的として購入していることが明らかであることが「特別な事情がある場合」に該当し、結果として「著しく不適当」であると判断され、タワーマンションの評価額を購入価額とほぼ同額の約3億円とする裁決がなされましたが、新聞雑誌等であまり報じられていません。
そもそも、購入者がいつ亡くなるかは誰にもわかりません。購入後も長生きし、住み続けた場合はどうでしょう?タワーマンションは高齢者にとって本当に住みやすいのでしょうか?タワーマンションの時価相場は本当にそれほど下がっていかないのでしょうか?築10年も経った頃には大規模修繕の話だって出てきます。相続税の節税効果で果たして吸収しきれるでしょうか?
東日本大震災の際にタワーマンションに住んでいた人の中には、その揺れに大いなる恐怖を感じ、引っ越した方がたくさんいらっしゃいます。その結果、空室率が増加し賃料相場が下落した事実はそれほど知られていません。
つまり、こうした節税方法は最終出口に立ってみないと本当に有効かどうかはわからないのです。
こうしたことは、何もタワーマンション節税に限りません。
「空いている土地にアパートを建てて相続税対策をしましょう!」
土地をお持ちの方の中には、不動産屋さんやハウスメーカーなどから、相続税対策のためにアパート経営を勧められたり、新聞の折り込み広告を見て、相続税対策になるならとアパート経営に興味を持ったことのある方は大勢いるはずです。
現在、たまたま持っている土地にアパートを建てて、本当に満室になるのでしょうか?
繰り返しになりますが、これらの節税方法は全て出口しだい。つまり、未来でも見えない限り、これらの節税方法が本当に功を奏すか否かは誰にも分からないのです。(アパート経営については持っている土地の場所で、ある程度の未来の予測はつきます。ほとんどの場合、うまく行かないほうに・・・)
不動産が相続税の節税対策に有効であることは事実です。しかし、一人ひとりを取り巻く状況や事情、持っている資産の内容は異なっています。だから有効な方策もケースバイケースです。節税に不動産を使うにしても、それぞれの事情にあった不動産を購入すべきなのです。節税効果だけに着眼した不動産選びは往々にして失敗します。
「できるだけ税金は払いたくない!」
誰もが考えることは同じです。しかし、こうした思いが強すぎると、“税金は減ったが、資産も減った”などという元も子もないことが平気で起きてきます。
節税は大切です。しかし節税は目的ではありません。あくまで人生の中で、経営の中での1つの要素でしかないのです。
繰り返しになりますが、これらの方法は有効な節税対策となり得ることは事実です。しかし、全ての人に有効な手段ではありません。それでもこれらの節税方法を誰彼かまわず勧める人はたくさんいます。
何故か。
もちろん勧める人の利益になるからです。
もし、みなさんがタワーマンション節税やアパート経営を勧める人に出会ったら、まずこう聞いてみるといいかもしれません。
「あなたはタワーマンションに住んだことがあるのですか?」
「それではあなたもアパート経営をされているのですね?」

新年度の計画を完了する前に…

売上の先行きが不透明な中、少しでも固定費を削減しなければとお考えの方もいらっしゃると思いますので、今回はコスト管理について一つの考え方をお伝えいたします。

コストは何のために投入するのか?

と聞かれれば、それぞれ表現は違っても「成果を上げるため」と、ほとんどの方がお答えになると思います。

しかし、最初は成果を上げるためにと投入し始めるコストも、次第に意図が曖昧になり、全体的なボリュームが出てくる頃になると責任の所在も曖昧になり、実際には管理がなされていない…というのが現実です。

コスト管理と言えば、最も割合が大きいコストについて集中的に見直しを行うべきというのは皆さまもご存じのとおり。例えば、「光熱費を節約しても意味がない。もっと重要なところを見直せ!」と号令が掛かるのはよく耳にしますが、その重要なものとして行き着く先は人件費がほとんどです。労働分配率が50%としても、固定費の半分近くは人件費が締めているからです。

それでは、人件費を管理すればよいのか?

というと、そう簡単なものではありません。

人件費を管理するとして、皆さまに共通してパッと思い付くのは下記のようなものでしょうか。

  • 余剰人員はいないか?
  • 働きが悪い従業員に高給を払っていないか?
  • 無駄な残業代を払っていないか?
  • 正社員の比率を下げ、パートスタッフで代替できないか?
  • 社会保険料をもっと削減できないか?
  • 外注できないか? さらには海外の労働力を活用できないか?

全て当然のことですが、むしろ見直しを行っていない企業の方が少なく、人件費管理となるとここまで…という感じです。

それでは、どうすればよいのだ!

と話が堂々巡りしてしまいますので、一度人件費から離れます。

話は最初に戻りますが、各々の割合が低いとはいえ、人件費以外の他の固定費もトータルでは大きな割合になります。労働分配率50%、経常利益率5%と考えても、残り45%もあります。

ここでの問題は、他の固定費を各々の割合で考えてしまう点にあります。他の固定費を一つ一つ取り上げると「これくらいを見直しても大きな効果を得られないよね…」となり、そこで話が終わります。

人件費は全体で判断する方が多いですが、他の固定費はどうしても費目単位で判断してしまいます。

この単位で判断してしまいがち

人件費の管理も困難、他の固定費も細切れで管理できない…。そうなると、考えられるのは人件費も他の固定費も一体となってコスト管理するという思考です。この場合の見直し原資は95%存在します。

この単位で判断してみる

それでは、上の図のように固定費を横断的に管理しようとする場合、どのような単位で判断するべきでしょうか?

それは企業活動です。

固定費を活動と紐づけて管理するという考え方があります。

ここで一つの結論をお伝えすると、固定費の割合が少ない企業というのは、活動数が少ない企業に多いのです。

コストは、特定の活動を行うために発生しています。そして、特定の活動が大きな単位であれば把握も管理も容易です。例えば、“支店を出す”という活動は、人件費と他の固定費が増加することを事前に予定しているため、支店を廃止した場合にはそこに掛かる固定費が削減できるということが想像できます。

しかし、従業員の日常的な活動に焦点を当てた場合、そもそも活動を把握することが難しく、活動を把握したとしてもそこに掛かっている時間まで把握することが非常に困難となります。

逆に言えば、その活動に掛かっている時間と、その活動から得られる成果を把握できれば、その活動自体をどうするかという判断が可能です。当然、その活動が成果に結びついていないとなれば、活動そのものを止めるということにつながります。

つまり、コスト管理は“人件費”や“他の固定費”という費目単位で行うのではなく、企業活動さらには従業員の日常の活動の単位で管理をすることが重要だということになります。

光熱費を20%カットしよう、広告宣伝費を10%カットしよう、事務用品費を30%カットしよう…ではなく、それらが発生する要因となる活動自体をカットしようということです。仮に、100の活動があったとして、成果に結びついている30の活動のみに集中し、残りの活動は止める。力を抜くのではなく活動自体を止めるのです。

特に中小企業は、業績を上げるために活動数・活動量を増やすことに躍起になります。その先にあるものは、人員の増加、労働時間の増加、他の固定費の増加です。また、“あれを止めるから、これを始める”というレベルでは、コストの移転で終わります。

限界利益と従業員の総労働時間の増分分析をしてみれば、ほとんどの中小企業の限界利益と総労働時間の推移に乖離が生じているのが分かると思います。限界利益の伸び率に比べ、総労働時間の伸び率が著しく大きいのです。これは成果に結びつかない活動が増えている証拠です。

活動を把握し、活動を成果と紐づくものに限定し、そこにコストを集中する。これが成果との連動性を最も高めるコスト管理になります。

このような場合、“何を始めるか?”ではなく、“何を止めるか?”という思考が先に立ちます。あるいは、この活動を始めるにはあの活動を止めなければと同時に考えます。

以上の話は机上の空論と思われる方も多いと思いますが、中小企業でも実際に行われています。それは実際に実行可能だからです。

コストの源泉は活動…。活動を管理することから始めてみませんか?

借金をゼロにする『相続放棄スキーム』の光と闇

私事ですが、最近、妻からの提案で我が家の保険を見直すことになりました。
妻 「私の保険証券が届きましたよ。」
妻 「今のところはあなたが受取人になっていますから・・・。」
この言葉を聞いて今回の原稿を思いつきました。
みなさんは『相続放棄』という手続きをご存じでしょうか?
中小企業の社長でこの手続きを知らない方はいらっしゃらないとは思いますが、念のためにご説明いたします。
相続が起こり自分が相続人となった場合に、亡くなられた方が残された財産の一切を引き継がないための手続きです。
この手続きをした者は、初めから相続人とならなかったものとみなされます。
つまり、この手続きの利用シーンは次のとおりです。

  1. 現預金や不動産よりも借金のほうが明らかに大きい。
  2. 相続の揉め事に巻き込まれたくない。

中小企業の社長は会社で行った借入金について、必ず個人保証を行っています。
民法大改正によって『個人保証は原則禁止』となった今も中小企業融資の実態は何も変わりはしません。
社長はそれでも覚悟を持って臨んでいますからいいのですが、その陰でいつも生きた心地がしていないのは奥様なのです。
あるとき、社長からの電話で私が会社を訪問すると、社長との会話の合間をみて奥様が悲痛な面持ちで私に話しかけていらっしゃったことがありました。
それはちょうど社長が多額の設備投資を決められた直後のことでした。
経営は決して順風満帆とはいえない中での社長の決断でした。
奥様としては、社長の判断を理解しながらも、
毎月返済していけるのだろうか?
返済できなくなったらどうしたらいいのか?
社長も無理をしているし、社長に万一のことがあったらどうしたらいいのか?
と、不安は尽きないご様子でした。
社長が従業員より多額の役員報酬をとり、多少の貯蓄があったとしても、数億円もの借金を個人保証しているとなれば奥様としては気が休まりません。
そこで私は少しでも気が楽になればと思い、『相続放棄』についての話をしました。
私 「社長に万一のことがあったときのことを考えると不安で仕方がないんですね?」
奥様 「そうなんです・・・。」
私 「ご安心ください。」
私 「万一のときは相続放棄をすれば、ご家族に借金がいくことはありません。」
奥様 「でも、それだと家も現金も全て相続できないんですよね?」
私 「それは、その通りです。」
私 「そのために『生命保険』にご加入いただいているんですよ。」
奥様 「保険は相続放棄しても、もらえるんですか?」
私 「はい、保険金は受取人固有の財産です。相続を放棄したからといって、もらえなくなるということはありません。」
奥様 「そうですか。それを聞いて少し安心しました。」
法人で生命保険に加入してはいるものの、個人ではしっかりとした契約のない方をお見受けすることがあります。
法人で契約している保険金は会社が受取人となっていますので、いざというときには個人のもとにお金が入らず会社に入ってしまいますので注意が必要です。
(退職慰労金の固有財産としての判断については今回は説明を割愛いたします。)
一昔前であればこれだけで奥様の不安を少しでも軽くすることができました。
ところが、その後保険法が改正され、遺言によって受取人の変更ができるようになったのです。
これによって保険会社との契約上の受取人と遺言による新たな受取人の二人が存在する場合がでてきてしまったのです。
例外はありますが、一般的に生命保険会社では、正式な婚姻関係にある配偶者がいる場合には、『愛人』または『内縁関係』にある人を受取人とする契約は結ばせてくれません。
いくつかのハードルはありますが、保険法の改正によってそれが可能となってしまったのです。
万一の時に自分と家族を守ってくれると信じていた保険が、遺言書によって他人に渡ってしまうことがあるということを覚えておいてください。
保険は互いを思いやる絆があってこそのパートナーからの『最期のプレゼント』ではないでしょうか。
万一のときの備えは大切ですが、それ以上に相手を気遣う気持ちを大切にしたいと思う今日この頃でした。