限界利益率のトレードオフ

一部の業界、一部の企業を除き、売上高が上がりにくい状況が続いています。
一時的な事象ではなく、継続的な事象であることも間違いありません。

パイの奪い合いに勝てるのであれば別ですが、そうでない場合の業績改善の選択肢は限界利益率の増加と固定費の減少のみです。

これまで繰り返しお伝えしてきたように、限界利益率を上げるには以下の3パターンしかありません。

  • 変動費を変えずに売上高を上げる(値上げ)
  • 売上高を変えずに変動費を下げる(原価低減)
  • 売上高を上げて変動費を下げる(値上げ&原価低減)

これを1つの商品に置き換えると分かりやすく、その場合は数量もセットで考えることになります。例えば、販売単価を上げるのは経営者の意思決定一つでできますが、販売数量が下がる可能性があります。従って、実際には意思決定ができない経営者がほとんど。

販売単価にかかわらず販売数量が変わらないのであれば、品質に応じた販売単価を設定すべきです。圧倒的に多く見受けられるのは、品質よりも単価が低いケース。“良いものを安く”という日本企業特有の傾向であり、最近ではこの点について取り上げられることも多くなりました。消費税率が海外主要国よりも低いのは同様の理屈です。

しかし、値上げではなく原価低減であれば販売数量が下がらない…それができるのであればどこもやりたいことでしょう。原価低減は以下の選択肢が主になります。

  • 材料費の単価低減
  • 材料費のロス削減
  • 外注費の単価低減
  • 外注費の内製化

単価低減で考えられる方法は「仕入先の変更・集中」「大量仕入・期間仕入量の約定」。仕入を外注と置き換えても同じです。

ただし、原価低減にもトレードオフがあります。以下、ワークマンの記事です(日本経済新聞電子版2021年8月6日付)。

『PBの粗利益率は40%程度でNBに比べて3~4ポイント高い。ニーズも素早く反映できる小売りには都合の良い商品で21年3月末の商品数は1700と2年で7割も増えた。

ただ、PBは価格を抑えるために委託先に大量発注する必要があり、「段ボール1箱単位で注文できるNBより在庫が膨らみやすい」(同社)。21年6月時点のPB商品数は1年前から1割削減した。19年秋冬に前年比約2倍生産し過剰在庫を抱えたため、21年秋冬商品の生産量は前年比10%増に抑える。』

ご存じのように、ワークマンは低価格・高機能のPB商品の大量投入でブームを迎えました。利益率の高いPB商品を生み出すためには大量仕入れが必要であり、それにより過剰在庫・在庫破棄の危険性が高まります。

原価低減の一つ、「外注費の内製化」も同様で、社内人員に置き換えれば確かに限界利益率は高まるのですが、上手く内製化できなければ固定費の負担増で終わってしまいます。

逆に言えば、トレードオフで起こりうるデメリットを折り込んで対策していければ改善の連鎖が続きます。

なお、ワークマンはこの状況を踏まえて、現在では在庫問題が改善されつつあるとのこと。需要予測システムの導入等も進んでいるようですが、システムの導入で在庫管理を適正水準に保つため、多大な投資が必要になるはず。これもトレードオフ。

この需要予測システムが上手く機能するのかは分かりませんが、この流れでDXが進められている限りは理にかなっていると考えます。

「この作業が大変だからシステム化しよう」、「古くなったシステムを入れ替えよう」は本来の意味でのDXではありません。DXはメリットだけではないため、トレードオフの連鎖の一つとして捉えなければなりません。

絶え間ない改善の連鎖で有名なのはトヨタですが、中小企業の悪いところは一つの改善で止めてしまうことです。改善がトレードオフである限り、連鎖を止めることの方が危険です。

以上、今回は限界利益率のお話から展開しましたが、会計データは“全ての出口”です。

出口から遡って改善の糸口を探るのは有効ですので、トレードオフの連鎖で改善点を導き出してみてください。

その結果、売上高まで上がることは、よくあることです。

生きるための対策

このところ相続、贈与に関するご相談が増えています。最近特に多いのが、お付き合いのある銀行、保険代理店、証券会社などから提案される、信託、生命保険、不動産など、それぞれが扱っている商品を利用した対策に関するものです。

状況に適した商品を適切なタイミングで選択すれば効果的な対策を取れることがあるのは事実ですが、残念ながら提案の多くが、その方にとって本当に必要かつ有効であるとは思えないものばかりです。

それもそのはず、「相続税の申告が必要なくらい財産を持っている」ことだけを知っている人が、「自社が扱っている商品」を売りたくて勧めているだけですから当たり前です。

私が積極的に相続対策を勧めるのは、何も対策しなければ納税に困るケースや争いに発展するケース、1億円以上の預貯金を保有する富裕層で既にご高齢なケースなどに限られます。

理由は明快です。

平均寿命が80歳を超え、特に女性は90歳から100歳くらいまで生きることを前提に考える必要がある現在、生きている間お金の心配をしなくて済むこと、愛する子や孫たちに金銭的な負担をかけないように備えておくことのほうが、後の税金対策よりも重要だと考えているからです。

長く生きれば病気をして入院することや、施設に入ることだってあるかもしれません。いつどれだけのお金が必要な状況になるかわからないのですから、お金はいくらあっても邪魔にはなりません。優先すべきは十分な手元の預貯金確保です。

そう考えれば「特別なことはせず、お金を減らさない」ことも立派な対策なはずですが、それでは商売にならない人が、相続税対策を理由に預貯金を流動性の低い他の資産に姿を変えさせてしまいます。

人生においても経営においても選択肢が多い方が有利なこと、手元の預貯金こそが選択肢を広げてくれることは、コロナ過を経験した皆さんには言うまでもないことです。

高い手数料を支払うことになる相続対策商品や、特例的な税制を駆使して贈与を実行していく必要があるようなケースはごく一部であり、そうしたものに頼らずとも愛する子や孫への感謝の気持ちや想いを形にする手段はあります。

まずは、ご自身と配偶者が幸せに長く生きていくための対策を第一に考えていきましょう。

重点配分

東京オリンピックにて熱戦が繰り広げられていますが、日本のメダルラッシュが注目を集めています。

もちろんホームでの開催という最大のメリットはあるのでしょうが、競技強化費の重点配分も取り上げられていました。

同庁は各団体の強化策や大会成績をもとに競技団体を5段階評価。最上位のSランクは約30%、Sに次ぐAランクは約20%強化費を上積みする方針を示した。リオ五輪後の16年にまとめた「鈴木プラン」で示した選択と集中を具現化した。Sランクには柔道や体操など5競技。Aランクにはスケートボードやソフトボール、スポーツクライミングなど10競技が選ばれた。


~中略~

英国と異なるのは幅広い競技に配慮した点だ。強化費を支給しない競技もある英国と異なり、柔道や体操などの「お家芸頼み」脱却を目指す日本は、最上位の水泳と最下位のゴルフの格差を10倍以内にとどめ幅広い分配に取り組んだ。

(日本経済新聞:2021年7月30日)

重点配分は行いつつ、公平性にも配慮するというのが日本らしいですが…結果を求めるためにはリソースの重点配分が必須なことが分かります。

話は変わりますが、一年掛けて募集している事業再構築補助金。苦しんでいるが、やる気がある中小企業に重点配分しようという補助金です。しかし、採択された案件を見ても、「本気か?」というような内容が数多く見受けられます。補助金を目当てに、逆に負債を抱えたと言わざるを得ません。つまり、「その事業、絶対にやってはダメでしょ!」という案件がとても多い印象です。強みを強化するどころか、借金して不足しているものを必死に埋めようしています。

また、近年急速に進むDX。強みを強化するという観点よりも、効率化に重点が置かれているように思われます。もちろん、強みに対してDXが不要であれば別ですが、よほど俗人的なサービスでない限り、不要ということはないでしょう。

そして、DXが目的となり、その前段階の現状把握と課題設定が不明確。導入したら大混乱、想定外のことも起こって、むしろ手間が掛かっているということが少なくないはずです。

公平性や効率化より、中小企業が勝ち残るためには「強み」です。そもそも強みが分かっていなければ重点配分もできません。

何を伸ばし、何を切り捨てるのか…。選択と集中、重点配分…。
言葉としては理解していても、実際に行動に移せる方は多くありません。

スタートラインに立つ前に、そしてお金をかける前に、自らを理解して臨まなければなりません。

「その強み、むしろお金を掛ける必要すらないよ!」というケースもあるくらいですから。

知らないと受けられない「固定資産税ゼロ税制」

現在、一定の要件を満たす新規の設備投資に対して固定資産税が3年間ゼロとなる制度があることを、皆さんはご存じでしょうか。

設備導入に伴う固定資産税ゼロの措置を実現した市区町村(2021年3月末現在)
【中小企業庁HP】

この制度、コロナ過にありながら設備投資を行う中小企業を支援する目的で、拡充・延長がされていますので改めて制度の概要を確認し、知らなかったせいで優遇を受けられなかったなどということがないようにしましょう。

制度の概要をまとめましたので表をご覧ください。

生産性向上要件を満たすことについて証明書が取得可能な設備であれば、多くの種類の設備が該当し、合計300万円以上の先端設備を稼働するために新築する事業用家屋についても対象となります。適用を受けることができれば減税額は決して小さくないことが分かります。

最大のポイントは、設備を取得する前に「先端設備導入計画」の申請・認定を受けておかなければいけないことにあります。

計画を策定・申請し認定を受けるまでには、ある程度の時間を要しますので、逆算して設備導入時期に余裕をもって手順を踏まなければなりません。
設備投資を検討した時点で、皆さんがやらなければいけないことは2つです。

  • 設備投資の検討時点で顧問税理士に共有、優遇税制の適用有無について確認・相談する
  • 対象設備について工業会等の証明書が発行されるか購入先に確認する

繰り返しになりますが、検討時点での情報共有が重要です。購入した後ではもちろんのこと、「来月、機械を購入します」でも遅いのです。

設備投資に絡む優遇税制については、5年ほど前から事前に申請・認定が必要な制度へとシフトされてきています。

そのため顧問税理士にタイムリーな情報共有ができていなければ、本来受けられるはずの優遇が受けられないということが容易に起きてしまうのです。

「設備投資、検討時点で税理士へ」

ぜひ頭に入れておいてください。

税務調査もDX

コロナ禍において、税務調査の件数が激減しました。
そのため、より確実に申告漏れを指摘できる先を調査対象として選定しているとのこと。

ご存じのように、税務調査はとてもアナログです。電子帳簿が増えてきたとはいえ、まだまだ少数派。帳簿や請求書・領収書などの紙の資料をひたすら手作業で確認し、現場で使用するのは紙とペンと電卓。調査官はパソコンを持ち込めないのでExcel集計などの作業もできません。

事前に精査を行うとはいえ、現場(皆さまの会社ですね)に足を運び、書類をめくりながら、経験と知識が物を言うアナログ行政…。調査官も大変でしょうが、調査を受ける企業も大変です。なかなか改善されない調査環境に、コロナ禍がダメ押しとなりました。

そんな折、国税庁から「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」なる資料が公表されています。

これまでの方針のアップデートであり、取り立てて注目すべき内容は含まれていません。しかし、税務調査も本格的にデジタル化されるという方針が具体的に示され始めました。

【課税・徴収の効率化・高度化】

  • 申告内容の自動チェック(申告内容と各種データのマッチング)
  • AI・データ分析の活用(高リスク対象の分析・抽出・結果の活用)
  • 照会等のオンライン化(金融機関への預貯金のオンライン照会)
  • Web会議システム等の活用(リモート調査)

『より効率的に、より高度に』、『誠実に納税を行っている多くの方々が不公平を感じることのないよう』という方針のもと、国税庁の基幹システムを令和8年にリプレース、最新の分析ツールなどを用いて調査を行っていくとのこと。

この流れがどこまで成果を上げるかは分かりませんが、適正な申告納税を行なっている企業としては調査のDX化、および効率化は大歓迎のはず。

そもそも、税務調査は黒字企業が対象とされやすいのですが、赤字企業といえども怪しい形跡があれば調査対象として選定されます。逆に、どれだけ長期間黒字を継続していても、税務調査の対象先として選定されにくい申告書類の作成の仕方もあります。これは当社も実践している技術です。

税務当局のみならず、私ども専門家も、特定企業の数年分の申告書類一式に目を通せば、怪しい数字の構成や動きを把握できます。これを機械学習で日本全国の企業のデータをマッチングしながら分析を行えば、どのような結果になるかは想像に難くない…。

つまり、今後は税務調査の対象先と選定されやすい企業に効率よく調査が入り、調査が入った時点ではデータのマッチングにより裏取りも終わっている可能性がある。また、怪しいとは言い切れないものの、曖昧な感じの申告書類を提出している企業は、AIがうまく判定できないが故に調査対象として選定される可能性がある(後ろめたいと曖昧になるのは皆さまもご経験があるのでは…)。

この「怪しい」はロジックですので、データの蓄積が進めば進むほど精度が上がります。

その結果、近い将来、税務調査は定期的に行われるものではなく、クロ、またはグレー判定されている企業に集中的に行われるということになると考えられます。

企業がどんなに真面目に活動を行っていたとしても、税理士の申告書類の作成の仕方が甘ければ狙われやすく、逆もしかり。調査が継続して行われるということは、そもそもどこかに問題があるとみなされているということになります。

税務調査のDX化はまだ先ですが、昨年から今年に掛けて税務調査が入った企業、そして税務署の事務年度が替わる今月から来年に掛けて税務調査が入る企業はお気を付けください。

税務調査が絞られている中で、それなりに怪しいとみなされている可能性がありますので。

もらえる金額、もらいたい金額

コロナ過における売上減少やコスト増、原料価格の高騰などをうけて、値上げに踏み切る企業が増えてきました。

新型コロナの出現から1年以上がたった今、改めて値付けについて考えてみたいと思います。

ある中小企業経営者とおこなった、先日のお打ち合わせでのことです。

新商品(サービス)についてのお話しが出たため、想定している価格設定をお聞きしたところ、直感的に私が考える価格の約4分の1の金額で答えが返ってきました。

この金額のズレがどこから来ているのかは、話していてすぐにわかりました。
この経営者はお客様から「もらえる金額」を基準に、私は「もらいたい金額」を基準に考えていたのです。

もちろん「もらいたい金額」がもらえるとは限りませんし、業界やお客様の動向をよく知る、この経営者が考える「もらえる金額」に近い金額が正解なのかもしれません。

しかし、問題は値付けを考える際、常に「もらえる金額」を基準にして考えるクセがついていることにあります。この経営者に本当に「もらいたい金額」はいくらなのかと尋ねたところ、倍の金額で答えが返ってきました。

役務提供では特に、「もらえる金額」を基準にしてしまうと、価格が価値を大きめに下回る状態、つまり安売りになってしまいがちであることを認識していなければなりません。

値付けの際には、本音で「もらいたい金額」を明確にしておくべきです。この時点では「もらいすぎかな」とか「お客様が減ってしまうかも」とかは考えてはいけません。

もし、現状では「もらいたい金額」での値付けが難しいと判断したのであれば、それには何が足りないのか、どれくらいの時間をかけて、どうやって「もらえる金額」を「もらいたい金額」に近づけていくかを考えたうえで、今回の値付けをおこなえばいいのです。

「もらいたい金額」を基準にした値付けは現場に緊張感を生み、良い仕事へつながる一方で、「もらえる金額」を基準にした値付けでは、無意識が自らに言い訳をしがちです。

ワクチン接種が広がり、世の中の動きが元に戻ったとき、その景色は以前とは大きく変わったものになっているかもしれません。

改めて自社にとっての「お客様」を定義するとともに、「もらいたい金額」に向き合った値付けを考えてみてください。

求められる付加価値額

コロナ禍での企業経営において、助成金・補助金というファクターが強く認識されるようになりました。

飲食店を中心に受給している「営業時間短縮等に係る感染拡大防止協力金」等は少し毛色が違うものですが、大手でも各種支援金の受給により、むしろ黒字化しているケースがあるという事実も見逃せません。補填と改善が組み合わさると強力であり、最たる例のサイゼリヤは減収でも黒字予想を出しております。

もともと助成金・補助金はリーマンショックやコロナ禍、そして業績にも関係なく、地道に申請する企業のみが受給していたものでした。

受給するために手間が掛かるのは当然ですが、最初のハードルだけ乗り越えた後はパターンです。そして、一部の企業だけ繰り返し受給していたというのが現実です(収益面への貢献も地味に効いてくる)。

コロナ禍にて、中小企業が助成金・補助金の申請に強制的に慣らされたという点はとても大きなポイントです。また、一度慣れれば、誰もが他にもないかと探し回るのは当然のこと。

今後、減税では恩恵を受けにくい経営環境ですので、国も当面は助成金・補助金で対応していくということが想定されます(Go Toキャンペーン事業も実質的に補助金でした)。

ただし、予算が決まっている補助金は、すべての企業が受給できる訳ではありません。あくまで「この先も見据えて経営しているよ!」と宣言できる企業が対象です。その宣言のために求められるのが『付加価値額』という指標。

前置きが長くなりましたが、今回は今後の補助金の申請でも求められるであろう『付加価値額』という指標について説明いたします。

ちなみに、付加価値額の定義は一つではありません。
使い方によっても変わります。

企業経営において一般的に使われている付加価値額とは『粗利益』や『限界利益』を指すことが多く、私どもも普段は付加価値額=限界利益の意味でお伝えしています。計算式は以下のとおりであり、外部購入価値とは外部に支払う原価(材料費・外注加工費等を指し、社内人件費や減価償却費等は除く)のことです。

付加価値額 = 売上高 - 外部購入価値

また、中小企業庁が統計などで用いている付加価値額の計算式は以下となります。

付加価値額 = 営業利益 + 人件費 + 支払利息等 + 動産・不動産賃借料 + 租税公課

上記の算式は少し複雑になり面倒なのですが、同じく中小企業庁が取り仕切っている事業再構築補助金では以下の計算式が採用されていました。

付加価値額 = 営業利益 + 人件費 + 減価償却費

付加価値額は利益を直接的に表すというよりも、人件費や設備費等を包括した事業活動上の原資を表しています。そのため、事業活動を行っている以上、赤字でも付加価値額は発生します。

そして、補助金の申請上は「赤字でも付加価値額を増加させていくよ!」と宣言できればOKです(黒字なら尚良しです)。以下の表は事業再構築補助金の申請で用いられるフォーマットですが、計画といってもこの程度のレベル。

今回は赤枠の付加価値額について、年率平均3%以上の増加を求められました(総額、または従業員一人当たりのいずれか)。

規模の拡大を目指すのであれば付加価値の総額を増やしていく必要があり、収益性を重視するのであれば従業員一人当たりの付加価値額を増やしていく必要があります。

現状維持が困難な経営環境ですので、いずれかの方向で計画を立てていかなければなりません(補助金の申請に関わらず必要なことですね)。

なお、3%以上の増加を達成できなくても事業再構築補助金の返還は求められません(IT導入補助金など、必須項目が未達の場合には返還を求められるケースもあります)。

補助金を受けるためには計画を立てる必要があり、その計画の中では付加価値額の増加を求められます。補助金によって求められる内容は若干異なりますが、付加価値額の増加のために、労働生産性または人件費の増加も用いられます。

逆に、計画を立てられる企業は補助金も申請できるということになります。実際、補助金は困っている企業だけが受給するという訳ではありません。むしろ、余力がある企業が、さらに強化するために用いられています。

補助金という言葉自体に抵抗がある方もいらっしゃるかもしれませんが、補助金とは国の『予算』です。

ミラサポplusでも補助金を検索できますので、皆さまも是非ご活用ください。

 

やらないリスク

先月末、(株)インフォディオが源泉徴収票の情報を認識処理する機器の開発を国税庁から受託したとのプレスリリースがされました。

これは、源泉徴収票をスマホで撮影・アップロードすることで、源泉徴収票に記載された金額等の数値をOCR機能で読み取り、確定申告書の作成を自動化する仕組みを同社の独自開発製品である「スマートOCR」を使って実現するもので、2022年1月に始まる確定申告から運用開始予定とのことです。

正直、特に驚きはありませんが、事務作業的な税理士の仕事が無くなっていく速度が増していることが改めて実感されます。

こうなっていくであろうことは、10年前には分かっていたことで、特にここ5~6年でその勢いが増した感があります。

このことを見越して早くから動いてきた税理士は、事務作業に時間が取られなくなることを喜び、漫然と従来の作業的な仕事を中心に請け負ってきた税理士は、仕事が減っていくことを憂いています。

こうしたことは皆さんの業界でも必ず起こります。

ITやAIの進化に加えて、新たな生活様式。
スーパーやコンビニ、ファストフードのレジ一つをとってみても、急速な変化が起きていることは誰もが感じていることです。

今はまだある仕事が将来無くなる前提で今からこれをやめ、それに代わる新しいことに挑戦するのはとても勇気のいることです。多くの場合、人は変化と失敗を恐れ、新たな取組みを「やった場合のリスク」を過大に評価しがちです。

しかし、リスクを正しく評価するには必ず「やらない場合のリスク」も計算し、長期的な視点で「やった場合のリスク」と「やらない場合のリスク」を天秤にかけて判断しなければいけません。

どんな業界でも必ずある「そのうち無くなる仕事」が実際に無くなっていく速度が増しています。

「今はまだある仕事」は「今のうちからやめなければいけない仕事」のはずです。

実際に仕事が無くなってから新たな挑戦をしたのでは遅すぎることは言うまでもありません。

「やった場合のリスク」と「やらない場合のリスク」。両方に向き合ってみてください。

価格表示は経営の入口

消費税の総額表示義務化が始まって1カ月が過ぎました。

表示上の話ということもあり、必要以上に大きく取り上げられることも、混乱もありませんでした。

いまだに中小零細企業では総額表示未対応を見かけますが、罰則がある訳でもないので「忘れてました」、「変更作業中です」で通用してしまいます。

また、業界によっても対応はさまざま。
一番分かりやすいのがスーパーで、以下のような表示が王道です。

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、イオンは一部店舗で『レジゴー』というスマートフォン端末により、商品のバーコードを自らスキャンし、無人レジで会計するサービスを導入しています。しかし、端末に表示される会計金額ですら以下のようになるという徹底ぶり。

これに対して、総額表示義務化に先駆けての値下げが話題になったユニクロの表示は以下のとおりシンプル。

そして、ユニクロは購入品の自動スキャンと無人レジ(まさにDX)にいち早く対応しています。

消費者がどちらを支持するかは一目瞭然ですが、こういうところに経営力が出てきます。

少し古いですが、以下は平成23年経済センサスの業種別1人当たり付加価値額データ。

【従業者1人当たり付加価値額(労働生産性)】

よくご確認いただくとお分かりのように、1人当たり付加価値額が低い順に本体価格を強調しがちな業種です(卵が先か鶏が先か…)。同時に、コロナ禍でダメージが大きい業種の順とも言えるのではないでしょうか。

平成23年と言えば今から10年前、まだ消費税率が5%の時期でもあります。つまり、消費税率10%(あるいは8%)も、コロナ禍も関係なく、当時から付加価値額が低い業種が今まさに苦しんでいるというのが現実です。

薄利多売で利益の蓄積が伴わず、財務は脆弱で、DX投資も遅れがち…。そこに天災でも人災でも禍が起きれば、結果は誰の目にも明らか。

もちろん、小売業がダメ、飲食サービス業がダメという訳ではありません。特に販売量に限界がある中小企業が、本体価格を強調せざるを得ないビジネスモデルを展開している時点で将来の見通しが悪過ぎるということです。

業種ごとから、さらに各企業ごとに焦点を当てるとピンキリであり、ユニクロなどは小売業の中でも異例ではあることは間違いありません。

そして、ユニクロに限らず、各業種で強烈な存在感を放つ企業は、経営者自信が強烈な存在感を放っているように感じるのは私だけではないはず。まさに中小企業的。

業種ごとの典型的なビジネスモデルに左右されず、経営者が強烈にけん引してこそ、その企業の強みが活かせるのだと考えます。

たかが消費税の総額表示の問題かもしれませんが、それこそが皆さまの会社のビジネスモデルを表しているかもしれません。1円でも安く見せなければならないという経営を続けていては、コロナ禍の次の禍には対応できないことでしょう。逆に1円でも安くしても十分な利益を出せるのが経営力です。

BtoBの価格に総額表示は関係ありませんが、お客様に価格を提示するという意味では同じです。お客様が求めていないムダな値引き、無理がある価格提示を行っていませんか?
無理に求められているのであれば、それは皆さまの本当のお客様でしょうか?

価格表示は経営の入口です。

相手に提示する価格が、皆さまの本来の価値を損ねている可能性があります。

ハイエナ

先月半ば、大手生命保険会社4社が金融当局に呼び出され、国税庁が経営者向けの定期保険の課税について見直しを検討していることを伝えられたそうです。

見直しが検討されるのは、いわゆる「名義変更プラン」と呼ばれる節税商品です。

これは、契約当初は解約返戻金が低く抑えられているものの、一定期間経過後、急激に解約返戻金の金額が大きくなる低解約返戻型保険と呼ばれる商品を利用するスキームです。

解約返戻金が低い期間については会社が保険料を負担し、解約返戻金が大きくなる前に契約者を会社から個人(経営者)へ名義変更します。

名義変更の際には解約返戻金相当額で評価されるので、会社が支払った保険料に対して、極端に安い金額で個人(経営者)に保険契約を譲渡することが可能となります。

その後、解約返戻金の額が急激に引き上げられるタイミングで保険を解約し、個人で解約返戻金を受け取ることで会社の利益を経営者個人に移転させることができるようになります。

もちろん解約返戻金を受け取った際に個人に税金がかかりますが、「一時所得」となるため、1/2課税が適用され、役員報酬などでもらうよりも大幅に節税できることになるわけです。

今回、国税庁が見直しを検討しているのは、名義変更時の評価額です。
具体的には「名義変更時に解約返戻金が保険積立金として資産計上した金額の70%未満となるような低額の場合には、帳簿上の保険積立金資産計上額で評価する」改正を見込んでいるようです。

しかも、この見直しについては、2019年7月8日以降に締結した契約について、今回の改正日後に名義変更を行った場合に適用する方針であるとの情報が流れているのです。
異例の遡り適用ということになります。

名義変更プランを勧めて加入させた保険営業は、これをどのように経営者に伝えるのでしょうか。

さまざまなリスクと守るべき多くのものを抱える経営者にとって、生命保険、損害保険はなくてはならないツールです。問題は提案する側の人間にあります。

「社長、こんなに税金払ってちゃいけませんよ!」

生命保険に限ったことではありません。多様な節税商品を手に、皆さんの会社のことなど「これっぽちも」考えていない人たちが、ハイエナの如く狙いを定めて近寄って来ます。

税金を減らしたい、払いたくない気持ちはよく分かります。
しかし、節税商品によって得をするのは皆さんではなく、それを売る人たちです。

改正リスクがつきまとうだけではありません。仮にその時はうまく行ったとしても、経営本来の目的や道筋を外れた行為によって利益を得ると、やがて平均へ回帰するどころか、それ以下のところに戻ろうとする力が不思議と働きます。

もっとも、経営者からすれば「へぇ、合法的に節税できるそんなにいい商品があるなら、やろうかな」くらいの比較的軽い気持ちで節税商品に手を出しているケースがほとんどです。

もう一度言います。

こうした節税商品を勧めてくる人たちは皆さんの会社のことなど「これっぽちも」考えていません。

「そんなに、いい商品なら○○さん(の会社)も、それ、やってるんだよね?」
ぜひ、そう聞いてみてください。

「いやいや~、私(の会社)は、社長のところみたいに儲かっていませんから~」

自分がやっていないことを他人に勧める人の言うことを信じてはいけないのです。