中小企業におけるRPAの考え方

6月にRPAについてお伝えしましたが、当社でも正式にRPAの運用を開始しました。
具体的にお伝えできる内容も出てきたため、今回はその続きです。
当社はトライアルから数週間で成果を出して導入を決めたため、提供企業の担当者も驚いていました。こんなちっぽけな会社が興味本位以外で導入することなど無いと考えていたのではないでしょうか。
ただ、当社が1カ月のトライアル期間中に成果を出せたのは本当にたまたまで、そうであるが故に90%以上での中小企業では難しいだろうなとあらためて感じました。少なくとも当面は…。
その理由は下記です。
・RPAを扱えそうなシステム担当者やExcelの関数等に強い人材がいる中小企業が少ない
・RPAを扱えそうな人材がいても、RPAに代替させる業務の担当者と異なることが多い
・RPAに代替させる業務の洗い出しと、洗い出した業務でRPAを試している時間がない(と言われる…)
・RPAのコストを回収できるほどの業務はなかなか存在しない
当社のトライアルは2ライセンス(=2部署)で行ったのですが、1ライセンスは無事導入に至り、もう1ライセンスはまさに上記理由により断念しました。
やはり1カ月のトライアルでは、簡単に判断はできません…。
RPAの運用コストは、1ライセンス当たり、パートスタッフの人件費程度です。従いまして、これぐらいのコストなら回収できなくとも、今後の効率化のための実験と考えて導入したい中小企業が多いかもしれません。
しかし、なぜRPAが大企業中心に導入が広がっているのか、RPAの展示会に参加してよく分かりました。
それは導入のためのコンサルティング費用がとても高額であり、これらの費用を支払ってまでも導入したいと考える規模の企業相手にコンサルティング会社がアプローチしているからです。展示会に出展している企業の半分以上はコンサルティング会社でした。
これらのコンサルティング会社は、現状把握から課題設定、RPAのシナリオの具体的な開発、導入前後のRPA利用者向けのトレーニング等を提供しています。RPA自体も仕入れて卸していますが、これはあくまでもサブであり、コンサルティングと開発がメインです。よって、IT系のコンサルティング会社やシステム開発会社等がコンサルティングを行っているわけです。
また、展示会で行われていたセミナーに参加していると、最終的にRPAの導入に至らなくても、RPAの導入を検討する過程に意義があるという趣旨の発言が見受けられました。
つまり、最終的にRPAを使わなくても、その結論に至るまでの現状把握や課題設定のコンサルティングを受けることが、社内業務の見直しという意味で重要だよね!ということです。
RPAを売っているのは、RPAの開発会社よりもコンサルティング会社の方が圧倒的に多いのですから当然です。その結果、コンサルティング会社にできるだけお金を払わないでRPAを導入しようと試みる中小企業は、まともに扱えずに途中で断念する可能性が非常に高いということになります。
以上を踏まえると、現状でRPAを実際に導入して具体的に大きな成果を上げている企業というのは、企業の規模にかかわらず少ないはずです。
なお、この成果というのが曲者で、最初に強調される成果は時間削減でありコスト削減ではありません。
RPAの効果測定指標としてはROI(Return On Investment:投資利益率)が使われますが、ここでいうROIは、主にRPA運用費用に対する人件費削減効果です。
このROIを具体的な例で示すと、
・RPAライセンスに支払う費用が年間120万円(初期のコンサルティング費用は除く)
・RPA導入で削減されるであろう時間が年間1,200時間(月間100時間×12カ月)
・削減できる人件費が年間180万円(年間1,200時間×時給1,500円)
*人件費月額30万円の社員が毎月200時間働いた場合の時給1,500円と仮定
ROI=150%(180万円÷120万円)
「ROIは150%です。ぜひ導入すべきですね!」という話につながります。
ただし、上記の人件費180万円を実際に削れるのかというと、現実的には難しい…。
当社がRPAを導入したのは、具体的に上記のようなROIが100%を超えたからですが、その人件費を削れるかというと1円も削れません。
固定給である社員の業務時間が削減できただけであり、その削減できた時間分の残業をしていた訳でもないので、削減する原資がないのです。単純に暇になったというとこの社員に怒られてしまいますが、実際に他にやる仕事がなければ暇になったはずです(幸い、この社員に新しい仕事が降ってきたために暇にはなりませんでした…)。
例えば、RPA導入に伴う業務削減時間が1万時間となると、4~5人分の年間の労働時間に相当するため、社内の人事異動により直接業務人員を増やして売上高増加を図ったり、あるいは削減対象となった業務人員をリストラするということができるかもしれません。
とはいえ、中小企業がRPAでここまでの削減時間を捻出できるかというと、現実的には不可能なため、仮にROIが高パフォーマンスとなっても、単純にRPAのコストが増えるということになります。
それでもRPAのコスト面に光を当てるならば、RPAのコストが増えたとしても、現在の人員で回せる仕事量が増える可能性があるため、ある程度の人件費抑制効果がでてきます。
以上、ここまで少し否定的にRPAの効果について述べてきたかもしれませんが、コンサルティング会社が狙っているように、実は中小企業にとってはRPAの導入自体が重要とは思えません。
結局は、業務の棚卸です。現場レベルでは当事者の方々が意識せず、無駄な仕事が行われています。部署間の連携が悪いために無駄な時間を使ったり、使用しているパソコンやソフトウエア、システムが古く現状に合っていないが故に、無駄な時間を過ごしている場合もあります。
これらを改善するだけで、RPAの導入以上に時間削減効果があり、コストも少なくて済む場合が多いのです。
RPAは、社員が行うのに手間がかかる業務を効率化するツールです。そうであるならば、その手間自体をなくしてしまうというアプローチが最善であるのは間違いありません。
つまり、RPAに振り回される前に、地道に現場の改善が重要ということですね。
RPAはまだまだ過渡期ですから、ここにAIが実装されてくれば、応用も利くようになるはずです。また、中小企業向けのRPAのコンサルティングが安価になってくるまで待った方がよいかもしれません。
おそらく、皆さまの会社に出入りしている事務機器会社が中小企業向けのRPAの相談相手になるはずです。