金融仲介機能のベンチマーク

以前、金融庁が金融機関の評価にベンチマークを取り入れるという内容をお伝えしました。そのベンチマークが9月に公表されておりますので、ここで改めてお伝えいたします。

まず、ベンチマーク策定の趣旨です(ベンチマーク策定の趣旨より一部抜粋。全文はこちら→「金融仲介機能のベンチマークについて

 

多くの金融機関は、その経営理念や事業戦略等において、金融仲介機能を発揮し、取引先企業のニーズや課題に応じた融資やソリューション(解決策)の提供等を行うことにより、取引先企業の成長や地域経済の活性化等に貢献していく方針を掲げている。

他方、企業からは、「金融機関は、相変わらず担保・保証に依存しているなど対応は変わっていない」といった声が依然として聞かれる。昨事務年度に実施した企業ヒアリングでは、多くの企業が、金融機関に対して、事業の理解に基づく融資や経営改善等に向けた支援を求めていることが明らかとなった。

つまり、金融機関が掲げている方針と事業の実態が異なるので、金融庁が評価のためのベンチマークを公表しますとのこと。

そして、ベンチマークの活用として、以下の三点を掲げています。
(1)自己点検・評価
(2)自主的開示
(3)対話の実施

このうち、(1)については金融機関の、(3)については金融庁と金融機関の点についてなので省きますが、(2)については、以下のように記載されています。

 

企業にとっては、自らのニーズや課題解決に応えてくれる金融機関を主体的に選択できるための十分な情報が提供されることが重要であり、金融機関においては、ベンチマークを用い、自身の金融仲介の取組みを積極的かつ具体的に開示し、企業との間の情報の非対称性の解消に努めていただきたい。

つまり、金融機関はベンチマークによって自らの取り組みを開示してね!という訳です。これが開示されると何が変わるかというと、中小企業が金融機関を評価できるということです。

いままでは金融機関が中小企業を一方的に評価して、融資条件等を決めていました。そのため、そこには情報の非対称性がありました。しかし、これが公表されることにより、「隣の銀行の方が、しっかりサポートしてくれているではないか!」と分かれば、中小企業がメインバンクを変える行動につながります。

ベンチマークの開示については、まだまだ先で、どのようになるかは分かりません。しかし、スコアが良い金融機関ほど積極的に開示していくでしょうから、金融機関間での競争につながり、中小企業にとっても良い結果につながるかもしれません。

最後に、本題のベンチマークの内容です。ベンチマークは【共通ベンチマーク】として5項目、【選択ベンチマーク】として50項目が掲げられています。さすがにこれを全部ご説明する訳にはいきませんので、気になる方はご自身で目を通していただくとして、今回は一部を取り上げさせていただきます。(全てのベンチマークはこちら→「金融仲介機能のベンチマーク

中小企業における融資において特に気にすべき点は、選択ベンチマークのうち、下記の部分です。

 

 

(2)事業性評価に基づく融資等、担保・保証に過度に依存しない融資

5.事業性評価の結果やローカルベンチマークを提示して対話を行っている取引先数、及び、左記のうち、労働生産性向上のための対話を行っている取引先数

6.事業性評価に基づく融資を行っている与信先の融資金利と全融資金利との差

7.地元の中小企業与信先のうち、無担保与信先数、及び、無担保融資額の割合(先数単体ベース)

8.地元の中小企業与信先のうち、根抵当権を設定していない与信先の割合(先数単体ベース)

9.地元の中小企業与信先のうち、無保証のメイン取引先の割合(先数単体ベース)

10.中小企業向け融資のうち、信用保証協会保証付き融資額の割合、及び、100%保証付き融資額の割合

11.経営者保証に関するガイドラインの活用先数、及び、全与信先数に占める割合(先数単体ベース)

 

つまり、融資の際の担保や保証に関する部分です。金融機関においては、当然のように物的担保を要求し、人的担保である経営者保証に関しては神聖不可侵の領域だというスタンスです。

しかし、以前にもお伝えしたように、担保や経営者保証が外れている中小企業も増えてきました。これは、業績の良し悪しにも影響しますが、やはり金融機関ときちんと対話をしているかどうかにも影響があります。

この対話というのは幅広い意味です。例えば、試算表や決算書を渡して説明するだけではなく、自社の事業を理解してもらえるようビジネスモデルを説明したり、成長可能性や経営課題を伝えて支援を求めたりといったようなことです。

ちなみに、金融機関同士を競合させるだけでも経営者保証が外れることがあります。経営者保証を外すことを嫌がるのは、既存の借入先です。営業に来た新規の金融機関に打診を行えば、意外と経営者保証無しで融資を引き受けてくれる場合もあります。一行でも経営者保証無しの融資が実現すれば、借入金における金融機関別のシェアを変動させていき、最終的に経営者保証無しの状態に仕上げるという戦略も可能です。

そして、今後、この点がベンチマークのスコアにも影響してくるのです。

「おたくの銀行は、担保や経営者保証に関するベンチマークはどのようにお考えですか?」と、担当者を牽制し始める日も遠くないかもしれません。

しかし、同時に中小企業においても求められる点が出てきます。それが、金融機関の事業性評価に対する、経営者からの開示姿勢です。

担保も無し、経営者保証も無しで金融機関が融資を行うのであれば、決算書などの財務面だけではなく、対象企業の事業を評価する必要があります。上記でお伝えしたように、非財務面である事業内容や成長性、経営者の性格、経営課題などを評価し、融資の可否や条件を決めていくことになります。

例えば、融資を引き出すことが上手な経営者は、決算書を渡すだけではなく、今後の自社の成長可能性について、経営計画と題してプレゼン資料を作成します。これは結果として、事業性評価をしてもらうための情報を金融機関に開示していることになります。

もちろん、金融機関に対してプレゼンをしてくださいとお伝えしている訳ではありません。ただ、担保や経営者保証を外していく選択肢というのは、今まで以上に重要になってきます。その際に、金融機関に行ってもらうべきは事業性評価であり、そのためには自社の過去の結果である財務よりも、現在や将来に向けての説明が重要になってくるということです。

いままで、金融機関と中小企業の関係というのは、どちらかというと一方的なものでした。つまり、金融機関が圧倒的に上から目線か、中小企業が金融機関を顎で使うか(格付けが上位の企業がですが…)の分かりやすい関係性です。

この関係性を、事業性評価の名のもとに、自社の情報を金融機関に共有するような形で対等な位置付けに持っていきます。当然狙うポイントは、融資条件の緩和です。

これに応じられないような金融機関は、結果として評価を落としていくことにつながるため、中小企業の市場から淘汰される可能性もあります。地方銀行がこの波をまともに受けたら、単独で生き残っていくことが難しくなります。つまり、中小企業から支持される有力地方銀行に吸収されていくことになります。

以上から、皆さまの会社が、金融機関に事業性評価を求めた場合の反応が、今後のメインバンクの選定にも影響してくるということが分かります。

現時点では、このベンチマークの影響が、地方銀行のさらに地方の支店にまで波及しているとは思えませんが、これから数年という期間においては徐々に浸透してくるのではないかと考えます。

今後も金融機関からの融資が欠かせないという企業においては、金融庁がベンチマークを発表した趣旨を理解し、金融機関の動向を踏まえて対応していくことが望ましいでしょう。

現場検証 ~税務調査~

「嫌な改正だな…」
10月10日付け、日本経済新聞朝刊の一面記事に、誰もがそう思ったのではないでしょうか。
『脱税、ITデータも調査 強制招集へ法改正検討』の見出しのとおり、今まで任意提出が基本だったメール履歴などが、強制収集の対象となるようです。
もちろん、改正が行われたとしても、全ての税務調査でメールの履歴を収集される訳ではありません。通常の税務調査は、脱税の摘発を唯一の目的としている訳ではなく、脱税の疑いもないのに、単純にメールの履歴を収集されることはないでしょう。
とはいえ、場合によっては税務調査で濫用される恐れもあり、今後出てくるであろう具体的な改正内容に注目が集まります。
私は、10年程前の税務調査の立会いで、調査官からメール内容の確認を求められたことがありました。しかも、特定の取引に関する特定のメールという趣旨ではなく、「少しメールを見せていただけないですか?」という要望でした。そのお客様は社長が経理を兼務していたため、社長のメールを全部見せてくれと言うのです。
もちろん、私はその必要性を認めなかったため、明確にお断りしました。
ところが!
少し興奮状態だった社長が、ご自身のパソコンをパッと調査官の目の前に差し出し、「ほら、怪しいメールなんて何もないよ!」とメールの画面をスクロールし始めたのです。
幸か不幸か、私からその社長宛に送信した「税務調査につきまして」という件名のメールが全員の目に飛び込んできました(今でもその場面が脳裏に焼き付いています…)
「そのメール、見せて下さい!」と、調査官が厳しい口調で社長に指示が飛びます。
そのメールは、数週間前のものだったので、私も本文の内容を覚えておらず、反射的に「ちょっと待ってください!」と制止しようとしました…が、見事にメールが開かれてしまいました。
メールの本文は、税務調査に対する事前準備や当日の対応などをまとめたもので、怪しい内容は含まれておらず(当然ですが…)胸を撫で下ろしたものの、「ねえ、山田さん。何も悪いことなどしていないですよね?」という社長の言葉に苦笑いしつつ、調査官に「はい、これでメールは終わりです」というのが精一杯でした。
これが私の長い業界経験の中で、“唯一の”そして苦い記憶のメール開示でした。この件以外はメール開示を求められたことはありません。
繰り返しますが、脱税と関係のないメールを開示する義務などありません。そして、法改正が行われても、上記の対応と大きく変わる訳ではないと思われます。
しかし、適正な方法と範囲で税金をより少なくするという努力は行われるべきであり、税理士とお客様がそのためのやり取りをメールで行うことは日常的です。
そして、メールの当事者は共通の理解がある中で、問題ないとして当然のようにやり取りをしている内容も、調査官がそれを確認すれば、「これって脱税の相談じゃないですか?」と主張してくる可能性は十分に考えられます。
また、皆さまも、「これは際どい取引…」と認識しているものもあることでしょう。もともときわどいと認識している取引について調査官から具体的な指摘があり、その取引についてメール以外の証拠がないところまで行きついてしまうと少し厄介かもしれません。取引自体に問題がないとしても、そこに動機やノリのようなものまで記載されていると、バツが悪いものです。
一つでも都合が悪いところが出てくれば、他のところは譲歩しようという心理も働くかもしれません。
そういう意味で、私どもも調査官に誤解を与えて、お客様を不利な状況に追い込むようなメールは控えなければと再認識しました。
ということで、最終的には改正内容が確定してからとなりますが、今からでも、皆さまも調査官に「脱税」と誤解を与えるような内容のメールは極力控えることをお勧めいたします。
ときどき、私どももびっくりするような内容(脱税ではありませんが)を、メールでご相談してくるお客様もいらっしゃいますので…

皆さんは保険にアレを付けていますか?

私がバカでした...。
危うく彼女の言葉に騙されてしまうところでした。
皆さんが私と同じ経験をしないように、今回は恥を忍んでお話いたします。
今回お話するのは生命保険契約、生命共済契約にオプション契約として付けることができる『年金支払特約』についてです。
年金支払特約とは、文字どおり年金で支払いを受ける契約です。
ナニを?
保険事故が発生した際の生命保険金をです。
例えば、代表者が死亡し、3億円の保険金を受け取ることとなったと仮定します。
この場合、死亡した日(一定の場合には通知を受けた日)において3億円全額を収益に計上しなければなりません。
これでは社長が死亡した事業年度の売上減少を補填することはできても、同時に多額の保険金が収益に計上されるため、税金により折角の保険金が社外流出してしまいます。
このような不合理を是正するため、生命保険協会は国税庁に対し、あらかじめ年金で受け取ることが約定されている保険契約の経理処理について質問をしました。
その結果、『平成15年12月15日、国税庁が各国税局及び生命保険協会へ見解を示した事務連絡』の回答がありました。
詳細は省きますが、あらかじめ『年金支払特約』が付加してあった保険については、年金を受け取る都度、その事業年度の収益として計上できることが明らかとなったのです。
これにより、先程の3億円に2000万円づつ15年で受け取る年金支払特約が付加されている場合には、15年間にわたって2000万円を収益に計上できることとなりました。
これこそが年金支払特約の付加による継続的な収益補填機能です。
ポイントは、保険事故(支払事由)発生前に、あらかじめ年金支払特約を付加してあることです。
保険事故(支払事由)発生時になってから特約を付加してもこのような処理は認められません。
ここで話はかわりますが、私がある時にお客様の保険契約の確認をしていると、この年金支払特約が付加されていない保険契約がありました。
ところが、その契約は生命保険契約ではなく『生命共済契約』だったのです。
生命共済契約とは、こくみん共済、県民共済、JA(農協)共済、コープ共済などがあり、生命保険とは監督官庁と根拠法令に違いがあります。
共済契約と言っても目的とするところは一緒なのだから、年金支払特約が付加できるものと思い、お客様の社長にお話し、契約手続きをした店舗に問い合わせていただきました。
すると、応答者より「生命共済契約については、年金支払特約は付加できない」との回答をされたというのです。
連絡を受け、私も直接話を聞いてみると、やはり同じように回答されました。
その回答を聞いて、私は、田舎の支店レベルではそのときの受付の担当者が何もわからずに適当に答えただけだろうと思い、すぐにその共済組合のホームページからお客様相談窓口の電話番号を調べ、電話で問い合わせをしてみました。
すぐに女性の相談員の方が親切に対応してくださいました。
先程と同じ質問をしてみると、「生命保険ではそのような取扱いがあることは存じておりますが、当組合の共済保険ではそのようなお取り扱いはありません。」とはっきりと即座に答えたのです。
私は、その落ち着いた口調と瞬時の返答から、この人が言うなら間違いないだろうと確信しました。
もちろん、以前から年金支払特約は付加できる保険会社と、できない保険会社があるとの情報も得ていましたので、そのときはさほどの抵抗もなく納得していました。
ところが、一年程たったあるとき、まったくの別件で生命保険を取り扱う大手代理店の方と仕事をさせていただく機会があり、そのときに以前の経験を話してみると、共済契約であっても年金支払特約はありますというのです。
後日、その方から共済契約の『約款』が送られてきました。
約款とは、契約のしおりのことで、契約の締結から共済金等の支払い、消滅までの取り決め等を記載したもののことです。
約款を見るとそこには『主契約の共済金の支払事由が発生する前に、共済契約者からこの特約を付加する旨の申出があった場合には年金支払特約を付加することができる』とはっきり記載されていたのです。
そこで、今度はこの約款を提示し、お客様相談窓口に電話をしてみました。
すると、数分は待たされましたが年金支払特約を付加することができるとの回答が得られたのです。
税金のことであれば根拠法令、根拠条文や資料を必ず確認するのですが、それが『共済保険』というだけで相手の言うことを鵜呑みにしていました。
皆さんは私と同じ失敗は絶対にしないでください。
その保険を紹介してくれた外交員さんや販売店の店員の言葉を鵜呑みにせず、ご自身の目で『約款』や『契約のしおり』を確かめ、すべての保険契約に年金支払特約を付けるようにしましょう。

現場検証 ~セカンドオピニオン~

皆さまが税理士にご不満をお持ちなのは十分に承知しております。

税理士にご不満がある場合、直接クレームを入れないのであれば、いきなり解約という方法で関係が終わることも多いのではないでしょうか。

当社は業界に先駆けて、10年以上前から「税理士のセカンドオピニオン」として相談を受け始めました。

最近では盛んに取り上げられるようになった医療のセカンドオピニオンも、当時は一般的ではなかったため、お客様にとっても「税理士のセカンドオピニオンって何?」というような状態でした。

当社が始めたサービスなので、とりあえず申し込んだだけというお客様もいらっしゃったくらいです。まず、何をどのように相談すればよいか分からないと…。

しかし、それでもご相談を受け始めると、どのお客様でも共通なのは顧問税理士に対するご不満でした。つまり、セカンドオピニオンのご相談の過半は、まず顧問税理士の不満から始まります。中には、当社も気を付けなければと考え直すようなご相談もありました。

税理士業界がサービス業として低レベルなのは、私自身もよく理解しております。まだまだ多くの税理士とそのスタッフは、法律と税務署を盾に、お客様よりも自らを守るような話し方がクセ付いております。

皆さまからすれば、そのような話し方をされるくらいであれば、税理士に相談するよりもAIに問い掛けた方が100倍マシなはずです。

とはいえ、セカンドオピニオンでお客様のお話しを伺って、ときどき気になるのは、顧問税理士から積極的な指導があって然るべきというお客様自身のスタンスです。

「税理士“先生”なのだから能動的であるべきであり、お客である自分達は受動的であって当然」というような感じです。

これは医師や弁護士に対する相談であっても同じではないでしょうか?

なぜ、セカンドオピニオンが成り立つのかというと、顧問税理士、主治医、顧問弁護士に対しては受動的でありながら、セカンドオピニオンに対してはお客様が能動的になりやすいからです。

「顧問税理士がこのように言っているのだが、納得できない。本当にそうなのだろうか?」

お客様自身が納得できない点を、本来相談すべき顧問税理士よりも、セカンドオピニオンに対しての方が話しやすい。しかも、現在の不満を最初にぶつけてくれる。それだけでセカンドオピニオンは成立します。

そして、中には顧問税理士には相談すらしていないというお客様もいらっしゃいます。もちろん理由は「相談してもムダだから」。

誤解を恐れずにお伝えすると、セカンドオピニオンでの相談内容自体は大したことがないことが多いのです。自らを守る顧問税理士と、その姿勢に不満を持つお客様との間でコミュニケーションが成立していないだけ。

顧問税理士が説明してもお客様が納得しない内容を、私どもが説明すると納得される場合もあります。

私どもがセカンドオピニオンをさせていただいても難しいと思うケースは、お客様からのご相談内容自体が曖昧で、私どもに何となく状況を説明すれば、解決策が出てくるとお考えの方です。

もちろん、ご相談内容が曖昧の場合は、私どもから具体的に掘り下げる質問をさせていただきますが、お客様自身が相談内容のゴールのイメージを持てていないため、話が進展しないケースも見受けられます。

そのようなお客様は、最後の解決策として、「では、エー・アンド・パートナーズ税理士法人と顧問契約をすればよいか?」とお言葉をいただくこともありますが、正直申しまして、このような場合は顧問税理士として契約させていただいても、解決できない問題かと考えております。

先日、当社グループの長年のお客様である高山さんが本を出版されました。

 

『治るという前提でがんになった』

治るという前提でがんになった

高山 知朗(著)

この本には、2度の「がん」を経験された高山さんの闘病記が綴られています。高山さんの闘病に対する姿勢は、経営者にとって非常に参考になると考えますので、是非お読みください。

高山さんは命を懸けて闘われました。そして、大袈裟に言えば、会社経営も、「法“人”」の命が懸かっています。しかも、法人の寿命は、人間の平均寿命よりも圧倒的に短いのです。

命がある会社の相談につき、経営者が受動的になってはいけません。皆さま自身が情報をかき集め、顧問税理士に積極的に質問と相談を繰り返し、回答に納得できなかったり、顧問税理士では役不足と判断すれば、セカンドオピニオンも利用すべきなのです。

また、このまま行くと本当に危ないという経営状態であっても、「顧問税理士の仕事には納得していないけど、付き合いがあって簡単に解約できない…」とおっしゃる方がいらっしゃいます。

もし、ご自身の命が懸かっていても、「付き合いがあるから病院を変えられない…」とおっしゃるでしょうか? 

たかが税理士です。命までは取られません。顧問税理士ときちんとコミュニケーションを取れないのであれば、セカンドオピニオンで相談をされるべきですし、顧問税理士を変えるべきです。

高山さんのような患者は、医師に「治したい!」と思わせるはずです。私どもも同じで、「会社を本当に良くしたい!」と熱意を持っていらっしゃる経営者には、より「力になりたい!」と思うのです。

税理士業界がお客様に対する姿勢を改善すべきとともに、皆さまにもより積極的にご相談いただきたいと、業界人の一人として考えております。

      

マイナス金利と相続税対策

相続税が増税されたと聞き、何とかしなければと本を読めば賃貸用不動産を建てれば相続税対策になると書いてある。日銀のマイナス金利政策の影響で銀行融資の金利は過去最低水準、聞けば借金も相続税対策になるとか。消費税だって次こそ上がるに違いない。
「金利の低い今のうちに融資を受けて、賃貸用不動産を建設して相続税対策をしないと損をしてしまう!」そんな風に考えてしまう気持ちもよく分かります。
しかし、そんな今だからこそ冷静になって欲しいのです。
8月30日の日本経済新聞の記事によれば、賃貸用不動産の建設ラッシュにより賃貸マンションやアパートの空室率は上昇し、首都圏であっても神奈川・埼玉・千葉の3県は調査を始めた04年以降、空室率は最高を更新し、東京都もアパートに限れば上昇が続いているそうです。
また、首都圏の1都3県でも中心部から外れるほど家賃相場の下げ圧力は強まっており、賃貸物件の契約更新時に、借り手にとどまって欲しい貸し手が家賃を引き下げる動きが出てきたとのこと。
しかし、人口減少が続いている現在、これらは全て当たり前のことです。人口が減っているにも関わらず賃貸物件は急増しているわけですから、需要と供給のバランスは崩れ、今後更なる空室率の上昇により家賃の下落が更に加速することだって十分にあり得るのです。
不動産経営を行ううえで最も考えなければならないのは、上記のような家賃の下落や空室のリスクですが、不動産経営を勧める住宅メーカー等の試算では、多くの場合その入居率は高く見積もられ、家賃も下がらない前提で予測されているため、安定した収益が得られると錯覚してしまいがちです。
しかし実際には、首都圏の物件であっても空室率は上昇しており、賃料引き下げの動きが出ています。人口減少を考えれば今後もこの傾向は続くでしょう。
さらにマイナス金利政策よろしく、借金をして賃貸用不動産を手にした場合において、家賃下落や空室のリスクにさらされると、賃貸収入では借金返済ができないといった最悪の事態に陥ります。
中古の賃貸物件が数多く売りに出ている現実を見れば、結局、賃貸不動産を手放さざるを得なくなった方が多く存在することが容易に想像できますが、その売却価格は、都内であれば別ですが新築時の半分以下になることも珍しくありません。
また、不動産経営にかかる費用も実は思った以上にかかります。固定資産税や管理費、入退去時の原状回復費用、賃借人を募集する広告費、さらに年数が経つにつれて増える多額の修繕費。
「賃貸物件を建てれば、相続税が減る」こと自体は決して間違っていません。銀行からの借金も債務として相続財産をマイナスする効果があります。しかし、不動産経営にかかるリスクや費用を十分検討したうえでの投資でなければ、これらの相続税の節税効果をいとも簡単に打ち消してしまいます。
不動産経営による相続税対策を行う前提条件は納税資金が確保できていること、老後資金が十分にあること、賃貸需要が見込める土地をすでに所有していることなどがあげられます。
相続税増税に消費税増税、加えてマイナス金利。不動産経営を考えている人には一見追い風に見えますが、需要と供給のバランスは明らかに崩れています。今こそ、冷静な判断が必要です。

現場検証 ~ライバル分析~

自社の業績がこの先どうなっていくのか?
そして、ライバルと目する企業がどのような業績なのか?
経営者であれば気に掛けるのは当然です。
自社の業績がこの先どうなっていくのか?という点については、経営計画を継続的に立ててみるというのが一つの方法です。
しかし、5年後の経営計画が、5年後に実際に達成できていることなど稀ですし、その計画通りに進めたが故に、違う結果が待っているということも十分考えられます。
そこで参考になるのが、5年後に“あの企業”のようになっていたいなと考える、“あの企業”の業績です。外から見て憧れる“あの企業”のビジネスモデルや印象、そして規模も、業績から分析すると大したことがないというケースが多々あるからです。
つい先日も、お客様から、ある企業のサービスの手法を取り入れるとお話を伺った際、少し引っかかった点があったため、その企業の帝国データバンクの調査報告書を取り寄せていただきました。
お客様からすれば、サービス一つの相談からその企業の調査報告書にまで話が及んで、私が何を考えているのだろうと思われたかもしれません。しかし、そのある企業については、私が別のラインからあまり良くない噂を耳にしていたため、業績はどうなのかなと気に掛かったのです。
結果としては、その企業の業績はあまり良いと言えるものではありませんでした。現状では特別悪いという訳ではありませんが、この先どのような方向性に進むのだろうか?と、こちらが心配してしまう状態でした。
その企業は多くのライバル企業からベンチマークされていたらしく、お客様は少し驚かれていました。表向きの印象からはもっと良い業績と思われていたようです。
もちろん、その企業の数あるサービスのうち、ごく一部を取り入れたからといって、その企業の業績のようになる訳ではありません。しかし、そのサービスによってオペレーションが大幅に変わるようであれば、業績に与える影響も大きくなりがちです。そして、その企業と目指す方向性が同じであるならば、おのずと財務体質も似てくるのです。
もし、ベンチマークしていた企業が、実は業績不振であったとしたら、その企業をベンチマークするのがよいのかどうかを再検討しなければなりません。
ちなみに、そのお客様は他のライバル企業の調査報告書も持ち合わせていたため、自社も含めて分析を行い、今後の方向性について考えるよいきっかけになりました。
また、別のお客様からは、自社よりも規模がかなり大きい同業者が自社のエリアに入ってきたため、その影響を検討するためにその同業者を分析して欲しいという依頼がありました。その際もお客様から受け取った資料は、その同業者の帝国データバンクの調査報告書です。
分析の結果、そのお客様は健全経営を続けているのに対し、その同業者は規模は大きいもののかなり苦しんでいるというような状態でした。つまり、苦しさゆえに単価を下げてエリアを広げているような感じで、仮に短期的にはシェアを奪われても、長期的には自滅する可能性もありました。
そのような企業に合わせて自社も単価を引き下げ、ガチンコ勝負をしても意味はありません。また、製品の品質では優っているということで、相手にしないというのが基本路線となりました。そのお客様は財務体質が強固で耐える力は十分にあり、相手はエリアを広げている分、固定費も増え続けているのです。同業者の体力がいつまで続くか見物です。
なお、自社の業績を、規模もやり方も違う他社と比較しても意味がないとおっしゃる方が多いのは事実。しかし、比較しても意味がないかどうかは、比較してみなければ分かりません。そして、業績も情報です。
自社のエリアに殴り込みを掛けてきたライバル企業が、どの程度の体力があるのかどうかを知らずして戦うというのは馬鹿正直すぎます。
戦争はロジスティクスと言われますが、ビジネスも同じです。十分な体力を有さずに勢いだけで殴り込みを掛けてきた相手なのか。それとも、十分な体力を有して、用意周到に殴り込みを掛けてきた相手なのか。これを把握せずして、いたずらに張り合うのは相手の土俵で相撲を取るようなものです。
そして、もしライバル企業が自社の業績を分析した上で攻め方を検討していたとしたら、とても嫌らしい攻め方をされるかもしれません…。
ちなみに、同業者分析を行う際、帝国データバンクや東京商工リサーチの調査報告書の質が良いかどうかの問題はあります。ただし、決算書だけでは分析データとしては足りないため、それを補足するものとして調査報告書などのデータを用いて分析するというのは有効な手段と考えます。
「ライバル企業が何をしようが関係ない! 自社が頑張れば何とかなる!」も悪くないのですが、相手を知ることによって、余計な事をやらなくて済む場合が多々あります。
自社の今後を知る上でも、ライバル企業を分析してみることをお勧めします。

現場検証 ~金融機関との関係~

皆さまとメインバンクとのお付き合いの深度はどの程度でしょうか?
最近、私どもがお客様から相談を受ける金融機関の話と言えば「金利」がほとんど。
「この金利で融資を打診されたのだが、どうだろうか?」
「他社はどの程度の金利で融資を受けている?」
「他行と競合させればもっと金利は下がるだろうか?」
今年はマイナス金利の影響もありますが、金融機関から出てくる話は「借りてください」一辺倒です。
皆さまにとっても必要があれば借りたいというは当然でしょうが、話をろくに聞かずに「借りませんか?」と打診してくる金融機関は、余りにもお粗末と言わざるを得ません。
そもそも、中小企業に対する金融機関の役割とは何なのでしょうか?
前回、金融庁が打ち出しているKPIについて触れました。
・金融機関が主力とする企業の経営改善や成長力の強化
・持続可能性に懸念がある企業の抜本的事業再生や早期転廃業等円滑な新陳代謝の促進
・担保、保証依存の融資姿勢からの転換
これは、2015年に就任した森金融庁長官が打ち出した地域金融機関に対する方針に基づいています。金融庁は、今の地域金融機関の在り方に強烈な不満を持っており、金融機関が中小企業に融資をして利ざやを稼ぐビジネスからの転換を促しています。そうでないと、金融機関自体が生き残れないぞと。
もっと中小企業の経営に積極的に関わり、支援し、地域経済の活性化を担え!
将来性のないゾンビ企業の延命に手を貸すな!
担保や保証に依存せず、中小企業に融資を行え!
何やらアベノミクスの影も見えてきそうですが、地域金融機関の本来あるべき姿としては正しいかと思われます。
以前お伝えしたように、信用保証協会の信用保証枠が下がる予定です。保証枠が下がるということは金融機関が自らのリスクで融資を行わなければならない割合が増えるということです。
「金融機関が自らのリスクで融資を行うということは、貸し渋りにつながるのではないか?」
そうお考えの方もいらっしゃるかと思われます。事実、金融機関は過去にそのような行動を取っておりました。しかし、金融庁が“いま”金融機関に求めているのは、お客様である中小企業を自らの目でよく見て、状況を判断し、積極的な支援と、場合によっては最後通告を行えということです。
このような行動を行わない限り、金融機関と中小企業との関係は、お金を貸す借りるだけの関係で終わってしまいます。逆に、このような行動を取り切れれば、金融機関は本来あるべき機能を回復するだろうと。
そして、そこまでの関係を築ければ、企業は金融機関に正確な情報を開示でき、金融機関は正確な情報を基にリスクを取ることもできるようになります。そうであれば、そもそも信用保証の必要性は薄れてきます。
また、皆さまの会社を正確に理解している金融機関からの金利が、付き合いが浅い金融機関よりも0.1%高いからと言って、皆さまは借入先を変更するでしょうか?
それでも借入先を変更するような企業は、金融機関にとっても重要なお客様ではないということになるでしょう。
さらに、金融機関が融資を行ってくれるだけではなく、財務のアドバイスや取引先の紹介等まで行ってくれれば、皆さまも金融機関に信頼を寄せるのではないでしょうか?
金融機関に対する辛辣な言葉に、「雨の日に傘を貸さない」がありますが、雨の日に傘を貸してくれる金融機関に変われば、皆さまも信頼を寄せるのではないでしょうか?
現在は中小企業と金融機関の間にこのような信頼関係がないからこそ、お金の貸し借りのみ行われている状態ということになります。
それでは、今の地域金融機関がこのような信頼を得られるような業務ができるのかというと、非常に難しいと言えます。金融庁の指導があったからといって、地域金融機関の行動が変わるかというと、これも難しいと思われます。
金融庁に言われるまでもなく中小企業の支援に積極的な金融機関もあります。また、融資さえできればよいと考えている金融機関もあります。後者が大多数の中で、いくら金融庁の指導であるからと言って、自らの体質を簡単に変えられるとは思えません。
ですが、それでも金融庁は地域金融機関の在り方を変えようとしているようです。
さて、今後どうなっていくでしょうか…。
中小企業にとって、メインバンクの選定が本当の意味で重要になってくるかもしれません。そして、もし、本当に金融機関が中小企業のアドバイザー的なポジションを担えるのであれば、税理士やコンサルタントよりも重要な相手となるかもしれません。
結局、業種にかかわらず、皆さまの話を十分に聞いてくれ、アドバイスをしてくれる相手が、中小企業にとっては必要なのですから。さらに必要な資金を貸してくれまでしたら最強ですね。
金融庁と地域金融機関の行動については、目が離せなくなってきました。

現場検証 ~成果を達成するための指標の管理~

皆さま、KPIをご存知でしょうか?

Key Performance Indiecatorの略で、『重要業績評価指標』という意味になります。

バランスト・スコアカード等で用いられるので、ご存知の方もいらっしゃるかと思われます。また、KPIで検索するとWEBサイトの解析のための説明が多いので、WEBのお仕事をされている方にとってはお馴染の指標でしょうか。

では、「KPIとは何?」に対して、単刀直入にお伝えすると、下記の図が分かりやすいか考えます。

 

図

 

これはECサイトの売上高を分解した図(KPIツリー)です。売上高を成果とし、目標とする成果を達成するために管理すべき指標(KPI)によって構成されています。

例えば、「なぜ売上高が減少しているのか?」という抽象的な問い掛けではなく、「既存客の訪問回数が減少しているのはなぜか?」など、これが改善すれば成果に直結するであろうとして設定する指標です。

当然のことながら、売上高には構成要素が複数存在します。一つの指標を改善したからといって売上高が増加するとは限りません。回数が改善しても、単価が悪化すればむしろ減少する場合もあります。そのため、構成要素を全体的に管理し、統合的なアプローチを行うためには非常に分かりやすい管理手法です。

この点、KPIなど小難しい言葉を使わずとも、皆さまが普段から思考されている内容であることは間違いありません。しかし、普段から思考されていることも、上記のようにツリー上に落とし込むことによって、より明確になります。

そして、「会社として実効性のある経営計画はどのように作るの?」とご質問があると、KPIのご説明をさせていただくことがあります(さすがに、KPIという言葉は使いませんが…)。KPIは現状分析のみならず、将来の目標設定としても利用できます。

企業の成果を売上高や利益と設定すると、KPIはその根拠となるべく指標です。その根拠となる指標は非財務的な指標となり、行動回数や割合、単価などで示されることになります。

極端な話でお伝えすれば、全ての収益及び費用項目について目標とするKPIを設定しても構わないわけです。数字だけの経営計画よりも根拠が明確になります。

では、その根拠となる指標を達成すれば、経営計画が達成できるのか?というと、当然そんなことはありません。

そもそも、成果を達成するために設定した目標となるKPIが、その成果達成のために正しい指標とは限りません。あくまで仮説ですから、KPIも適宜見直しが必要となります。また、KPIを管理するために、より具体的な行動にまで落とし込んだ下位のKPIを設定する場合もあります。

成果のみ(営業成績など)を重視するだけではなく、プロセスのみ(行動など)を重視するだけでもなく、この2つを一体として管理するということにより、目的達成の確立を上げていきます。そういう意味で、KPIは経営計画の達成度合いを視える化するための指標とし有効となる可能性があるのです。

ただし、ありがちなのが、“KPIを作って終わり”というケースです。経営計画と同じく、毎月測定し、毎月検証し、それを毎月現場にフィードバックしていくサイクルがあって初めて有効に機能します。

中小企業でKPI的な管理が行われているのは、売上高を成果とした、集客・成約関連のみと言っても過言ではありません。少しもったいない気がします。固定費が高過ぎる企業などは、”固定費を10%減少させる”という目標成果の下にKPIを設定して管理すれば、意外と問題点が明確になります。プロジェクトごとでも構いません。経営計画とKPIを無理に連携させる必要はないのです。

例えば、日経情報ストラテジー2016年7月号の記事に、パーク24のカーシェアリングサービスのKPIは『入電率』一つのみであると紹介されていました。

入電率とは「カーシェアの利用件数当たりのコールセンターへの入電数」のこと。要は1回のサービス利用で、顧客から何回電話がかかってくるかを見る指標である。

 パーク24が入電率にこだわるのは「お客様が電話(コールセンター)に頼らないと困るような、ストレスの大きいサービスを提供していること自体が"悪"と考えているため。入電率が高いうちはお客様の評価は低い」(齊藤執行役員)。

つまり、パーク24のカーシェアリングサービスのKPIは財務的な成果を達成するためのものではなく、サービスの質を計るために設けられています。

管理や指標を好む企業は、KPIを過剰に設定する場合がありますが、KPIはあくまで特定の成果を達成するためのものです。管理のための管理になってはいけません。

また、いま何かと話題の金融庁が地方銀行の取り組みを評価するために設定したKPIもあります。

・金融機関が主力とする企業の経営改善や成長力の強化
・持続可能性に懸念がある企業の抜本的事業再生や早期転廃業等円滑な新陳代謝の促進
・担保・保証依存の融資姿勢からの転換

この三つのKPIはそれだけで判断できる指標ではないので、これらを基にさらなるベンチマークが設定されました。

このKPIは皆さまもよくご確認しておいてください。実はこの金融庁が進めている地方銀行への改善要請は、その先にある中小企業の経営に大きな影響を与える可能性があります。このお話はまた後日…。

以上、皆さまも自社の計画や業務について、KPIを利用してみてはいかがでしょうか?今まで視えなかったものが視えるかもしれません。

現場検証 ~計画の共有~

前回、仮説データの検証というテーマの中で、経営計画に触れた箇所がありました。

そして、売上高は比較的読みやすいお客様でしたので、過去の実績データとヒアリング内容から、
向こう一年分の月別の予想変動損益計算書を作成しました。

ちなみに、このようなものを経営計画として用いる中小企業も多いですが、これは単なる予測表です。

中小企業では、経営計画を作成していると言っても、結局は決算予測を作成しているに過ぎないことが多いと、過去にも繰り返しお伝えしてきました。

しかし、企業規模の拡大を行わない場合や経営環境に変化がない場合は、これで十分な場合があります。すなわち、現状維持が基本路線であれば、無理に将来の計画を作らず、予測できる範囲内で予測を行い、その予測結果に基づいて事前に対策を講じるというケースです。

・売上高が少し下がりそうだから、賞与は少し抑えよう
・売上高が少し上がりそうだから、備品を買い換えよう
・得意先の一つが潰れそうだから、あそこの営業所は撤退しよう
・あの社員が辞めそうだから、代わりにパートスタッフを採用しよう

これらは数字合わせであり、もぐら叩きのようなものですが、その分、確実性は高いものです。企業経営は継続が前提ですが、成長(=数字の拡大)は前提ではありません。従って、全ての企業が成長を前提にした経営計画を作る必要はありません。

経営計画を作って管理していくべき企業というのは、やはり成長拡大を前提にしている企業です。

では、「経営計画を作れば成長拡大できるのか?」と聞かれれば、当然NOです。

特に、現状分析を伴わない単なる願望を盛り込んだ計画では、実績との間に悲劇的な乖離を伴います。悲劇的な乖離から現実を視るということも重要なので、最初はこれでもよいのかもしれません。

よく聞くお話しに、「過去に経営計画を作成していたが、全く計画通りにならず、計画は意味が無いことが分かったので、作成することを止めた」ということがあります。これは願望で計画を作成し、そのまま決算を迎えて失敗するという典型的なパターンです。

経営計画が達成されない企業の特徴の一つに、その計画内容が共有されていないという点が挙げられます。すなわち、経営計画が社長及び一部の幹部のみで作成され、それが他の社員には公開されなかったり、公開されても根拠が示されないケースです。

計画の共有については、規模の小さい企業と大きい企業では問題が異なります。

例えば、10人程度の企業の場合、情報の共有自体は比較的簡単ですが、まだまだ個人商店の域を出ないことが多いため、共有が部分的になります。具体的に言えば、役員報酬や社長経費を伏せていることが多いため、なぜそのような業績になるのかについて、社員が理解できないことが多いのです。

もちろん、10人程度の会社で役員報酬を開示するのが良いかは難しいところですが、少なくともなぜこのような計画になるのかという説明は必要です。

逆に100人程度の会社になってくれば、役員報酬や社長経費について伏せる必要が薄れてくるため、社員は自社の数字の構成について理解できるようになります。ただし、社員数が多ければ、セグメントも多くなり、他のセグメントの数字に責任を持たない社員が増えてくるため、各セグメントが分断された数字を追いかけるようなことになります。つまり、セグメントごとに計画は共有されますが、全社的には共有されていないも同様です。

例えば、「営業の実績は計画通りで良いけれど、製造の実績は計画を下回り悪い」というのは、企業全体としては意味がありません。本来であれば、これらの各セグメントの数字を統合して管理するのが経営者や幹部層なのですが、中小企業において全てに権限を持つのは経営者のみですので、管理を行わないとセグメントごとに部分最適が繰り返され、企業全体としてのバランスを崩すことが多く見受けられます。もちろん、経営者が上手く管理を行えれば問題はないのですが、管理を行うための判断材料が必要となります。

その判断材料が、経営計画と実績の差異分析となります。経営計画は、組織内における情報共有の中心として据えるべきものです。

行動を伴う計画をきちんと作成し、全員で共有し、計画の達成のためには何が最善かを常に組織で議論する。正直、これだけで計画達成は半分約束されたようなものです。

この経営計画達成の仕組みができていない中小企業が多いため、経営計画が有名無実と化しています。

なお、「社長」というセグメントがある企業というのは、社員が100人を超えても、個人商店の域を出ませんので、ご注意ください。社長が実質的に一人で計画を作るケースも同様です。結局は社長が自分の思い通りにしたいだけですので、社員と共有されているものではありません。

以前に聞いたお話しに、社長が役員報酬を「上げてもらった」というものがありました。

その企業は全ての数字がオープンで、計画も社長以外の役員や社員が作成し、社長は承認するだけ。そして、厳密に実績との差異分析を行い、その結果、業績が上がったため、社長の役員報酬を上げてくださいと進言があったそうです。

社員達からすれば、自らの給与を上げていくためには社長の給与を上げなければという打算もあるでしょうが、良いサイクルの一つであることは間違いありません。もちろん、このような事例はハードルが高すぎますが、計画の共有にはこのような効果もあります。

また、前回お伝えした仮説データのように、そもそも前提となるデータが間違っているケースもあります。しかし、間違っているデータを見て、何かおかしいと気づければOKです。これを経営者一人でやろうとしても上手くいきません。

共有されなければ、検証もされません。

最初から社員と全てを共有する必要はありませんが、せめて税理士と共有したりと方法はいくらでもあります。経営計画は、作ることに意味があるのではなく、共有することに意味があるとお考えください。

上場企業が計画を発表し、結果が伴わないときに強いバッシングを受ける。中小企業にはここまでの洗礼はありませんので、ご安心ください。

可能な範囲で共有していきましょう。

現場検証 ~仮説データによる検証~

企業における経常利益の源泉は粗利益にあるといっても過言ではありません。
従いまして、粗利益の最大化が最重要ということはご存じのとおり。
粗利益の最大化のためには、売上高を上げるというアプローチと、粗利益率を上げるというアプローチに分かれます。もちろん、両方を同時に上げるというのが理想ですが、大企業並みのスケールメリットを活かさない限り、売上高を上げると同時に粗利益率を上げるというのは、中小企業では少し難しいと思われます。
従いまして、両方を上げるという場合も、まずは売上高、次に粗利益率というように、別々にアプローチを行うというのが現実的なところでしょうか。
しかし、創業間もない会社であれば別として、10年程度経過した中小企業が、売上高を短期間に2倍、3倍と引き上げていくというのは至難の業(あるいは無謀な行動)ですので、最初に取るべきアプローチというのは粗利益率の向上が望ましいということになります。
最近、業績改善のお手伝いを依頼されたお客様でも、粗利益率の向上に取り組み始めました。
このお客様、売上高は素晴らしいペースで増加しているのですが、経常利益が伴っていませんでした。売上高が増加しているのにもかかわらず、経常利益が出ないということは、資金繰りに大きな影響があります。
つなぎ資金を先に準備しつつ、利益を出す体質にしていかなければなりません。
創業時からの顧問税理士(当社はセカンドオピニオン)に毎月試算表を作成していただいているのですが、その試算表が参考にならず、当社にてデータ分析を一から始めなくてはなりませんでした。
このような場合、当社の方で過去三年程度のデータを拾い出し、分析用のデータに組み替えます。
ただし、元となるデータそのものに信用を置けなかったため、重要な部分は社長にヒアリングを行います。
「原価率は何%ですか?」
「その原価率の構成要素はそれぞれ何%ですか?」
「試算表に計上されている原価以外で、売上に連動する費用はありますか?」
単純な質問です。このお客様の原価構成は少し込み入っていたのですが、当初は社長が原価計算を行われていたため、ご自身でスラスラ答えていらっしゃいました。
そして、売上高は比較的読みやすいお客様でしたので、過去の実績データとヒアリング内容から、
向こう一年分の月別の予想変動損益計算書を作成しました。
ちなみに、このようなものを経営計画として用いる中小企業も多いですが、これは単なる予測表です。
このお客様も経営計画をしっかり組み上げていく必要はあるのですが、その前に計画の基礎となるデータの検証が必要でした。
また、通常の会計用の試算表は、ほとんどの社長が頭に描いている数字の構成と一致していません。そのため、社長が粗利益率〇〇%と言ったら、その粗利益率がズバリ表現されている試算表に組み替えなければなりません。
実際のデータと社長のイメージが不一致であれば、検証のしようがないからです。
この時点で、過去の決算書と社長へのヒアリングを基にした仮説の決算書の間には、かなりの誤差が生じていました。
そして、1ヶ月、2ヶ月と実績と予測の差異を分析していきます。予測はあくまで仮説のデータです。実績と比べて初めて意味があるものとなります。
そして、最初から差異が大きく出始めました。
「粗利益率が明らかにおかしい…」
顧問税理士に、「社長から聞いている仮説のデータでは、このような粗利益率が出ていないとおかしいのですが…」と、しつこく内容を確認しました。
ここでまず判明したのが、社長が思い描いていた処理の方法と、顧問税理士の処理の方法が明らかに違っていたことです。この時点で顧問税理士に処理方法の変更を依頼します。
しかし、処理方法を一致させても、想定している粗利益率に5%もの差がありました。
この時点で、原価を構成する取引自体に切り込みます。
材料費や外注費等、原価を構成している取引業者と請求金額を月別の一覧にして、社長にざっと目を通してもらいました。
「分かった!この取引先からの請求金額が明らかに多すぎる」
ここから、この社長の行動は恐ろしく早かったのです。その場で業者に確認の電話を入れ、既に退職した社員にまで電話をして、現場の状況を確認していきました。
「自分が現場を離れた後、当初想定していたやり方を社員が勝手に変えていた。でも、手を打てるところは全て指示を出したので、これからは予定どおりの粗利益率が上がるはずだ」
第一回目の差異分析を行った日から数日での出来事です。
手を打たれた後のデータの検証はこれからのため、実際に粗利益率が向上するかどうかはまだ分かりません。しかし、差異が出ていたら、さらにアプローチを変えて手を打つだけです。
このお客様については、最初から実績データと仮説データをきちんと毎月比較していたら、毎年数千万円の利益を失わずに済んでいたものと思われます。
当社がお手伝いしたことは、本当に大したことではありません。しかし、その程度のことでも、大きく業績を変える可能性があるのです。
これを怠っていた社長にも責任はありますが、そもそもそのような術すらあることをご存じではありませんでした。
もちろん、実績データと仮説データを比較するだけで、全てが解決する企業は少ないと言えます。
実際に現場に足を運んで、より深く検証しなければならないケースも多いでしょう。
しかし、それはお客様ご自身で行われるべきことです。
今回のようなデータを提示しても、「なるほど。社員に指示しておくよ」と言って、改善が中途半端に終わるお客様も多くいらっしゃいます。
社長ご自身で行われるべきことを、コンサルタントなどが行っても意味がありません。それはあくまでコンサルタントのイメージであって、成果に責任を持っていないからです。言い訳は何とでも出来ます。
また、右腕という位置付けの幹部に任せる企業も多いですが、そもそも社長のイメージと右腕のイメージが一致していることなど稀です。
このお客様も、ナンバー2の幹部が、“良かれと思って”社員と取引先に出した指示が、会社の利益を大きく損なう結果となっていました。
任せるのであれば、社長と右腕のイメージを一致させ、そのイメージを継続して共有しなければなりません。
今回、イメージという抽象的に表現を用いましたが、何となく頭にあるものと現実のデータを明確に突き合わせるという作業は、業績のコントロールという意味ではとても重要なことです。
イメージできないということは、自社の実態を何も把握出来ていないと同じことです。
一時期、経営コンサルタントによる仮説思考の本が流行りましたが、難しいことではなく、この程度でも充分使えるのです。
皆さまも参考にされてみてください。