何もしないという対策

相続税増税により、相続税に対する注目度は高くなる一方です。なんとかして相続税を減らしたいと考えている方、相続した資産を運用して増やしたいと考えている方に、一つの考え方として知っておいていただきたい対策法があります。
それは、あえて「何もしない」という対策です。
私たちは基本的に自分が稼ぎ出した資産の範囲でしか資産の運用はできないものだということを知っていただきたいのです。それは、つまりこういうことです。
会社経営者が一生をかけて3億円の資産を蓄えることができたとします。ということは、この経営者が資産を運用できるのは3億円までなのです。当たり前過ぎてピンと来ないかもしれませんが、それがこの経営者の実力という意味です。
もちろん上手くいくケースもあるでしょう。ただそれはあくまでたまたま。不思議と多くは自分の稼いだ範囲での運用しか、うまく行かないものです。繰り返しになりますが、何故ならそれが“実力”だからです。
しかし、こうしたことは実際に自分で経営をして実力で稼いできた経営者はなんとなく肌で分かっているものです。実力以上の投資をしたりは、あまりしないものなのです。
気を付けなければいけないのは、相続により財産を手にした人。つまり、実力以上の資産を、ある日、相続という原因により手にした人なのです。夫である経営者が実力で稼ぎ出した3億円の資産を相続する妻や、その子供たちに3億円を運用できる実力はありません。
相続税を減らすために、または、相続した資産を増やそうと、相続した土地に借金をして賃貸物件を建設しようと考えている方。もちろん有効な節税方法の一つであることは事実ですし、上手くいけば資産を増やすことも可能でしょう。
通常、相続した土地に借金をして賃貸物件を建てようと計画する場合、その投資判断基準の一つとして誰もが利回りを考えます。ここで自分の実力とは関係なく、相続により土地を手にした人は、土地代を考慮することなく建築にかかる費用のみで利回りを考えがちです。これが大きな間違いであること、皆さんはおわかりでしょうか。
たとえ土地を相続で手にしたとしても、利回りについては土地を時価で購入したとものとして投資判断をしなければならないなのです。なぜなら、その土地建物を将来売却することになった時、その土地建物を購入するかどうか検討する買主は土地建物の金額で利回りを計算し、投資判断を行うからです。
実際に売却するか否かは問題ではありません。投資判断として当たり前のことなのです。土地を相続で取得したからといって、建物への投資金額だけで利回りを計算した物件は、まず、土地建物で利回りを計算して投資判断を行った他の物件にかないません。
実力で資産を手にした人は、こうした判断間違いはあまりしないものです。もちろん、頼りになる専門家を味方につけていれば、実力外で資産を手にした方もこうした間違いをせずにすみます。
ただ、考えていただきたいのです。「手にした資産と、その投資・運用は、ご自身の実力の範囲内なのか。」
実力を超えた投資・運用は多くの場合、資産を実力の数値まで目減りさせます。
何もせずに資産を蓄えておく。これだって場合によっては立派な対策の一つなのです。