隠された大増税

「まったく同じ物でも、どの会社から買うかで御社が納める税金額が異なります。」
「まったく同じ仕事でも、どの会社に依頼するかで御社が納める税金額が異なります。」

これを読んでみなさんはどう思われたでしょう?

「そんなわけないでしょ。」

ほとんどの方はそう思われたはずです。

今のところ、まだあまり話題になっていませんが、昨年12月に公表された税制改正大綱には、この税制がしっかりと書かれています。言葉だけは聞いたことがあるのではないでしょうか。

【インボイス方式】。

そうです、消費税に関する改正事項に関することなのです。実施されるまで、まだ少し時間がありますが、とても重要な内容になりますので、しっかりと理解しておきましょう。

インボイス方式の完全導入は平成33年4月以降とされており、その前には経過措置も設けられる予定ですが、今回は経過措置には触れません。あくまで平成33年4月以降の完全導入にスポットを当てます。

まず「インボイス」とは、消費税の適用税率や税額など、法律で定められている記載事項が記載された書類をいいます。消費税が10%に上がるタイミングで一部の品目に軽減税率(8%)が導入されることによって、税率が混在する消費税の額を明らかにするために、この「インボイス」なるものが必要となるわけです。これは軽減税率対象品目を取り扱っていない事業者も同じです。

そして「インボイス方式」とは消費税の計算において「課税事業者が発行するインボイスに記載された税額のみを控除することができる方式」をいいます。

消費税の納税額は、基本的に売上時に預かった消費税額から仕入時に支払った消費税額を差し引いて決定します。つまり、「インボイス方式」によれば、この差引く仕入時の消費税額は「インボイス」に記載された税額になります。

「うん?今の請求書と何が違うんだ?」

違いはこうです。

現行法では、たとえ請求書・領収証を発行する側(売る側)が消費税の納税義務がない免税事業者であっても、代金を支払う側(仕入れ側)は支払った消費税相当額を仕入控除として預かった消費税から差し引いて計算、納税することができます。つまり、仕入先が課税事業者であろうと免税事業者で、関係なくどちらでも同じ納税額になるのです。

しかし「インボイス方式」は違います。預かった消費税から差し引ける支払った消費税額は「適格請求書発行事業者」に登録された「課税事業者が発行するインボイスに記載された税額のみ」なのです。課税事業者から仕入を行えば現行法と結果は同じです。

(図)

しかし、インボイスを発行できる「適格請求書発行事業者」に登録していない免税事業者は、そもそもインボイスを発行できません。もうわかりましたよね。そう、免税事業者から仕入れた場合には消費税相当額を支払っても消費税の納税額計算上、差し引くことができないのです。

(図)

結果、冒頭の

「まったく同じ物でも、どの会社から買うかで御社が納める税金額が異なります。」
「まったく同じ仕事でも、どの会社に依頼するかで御社が納める税金額が異なります。」

が起きてしまい、残るキャッシュに差が生じてしまうのです。

(図)

こうなると当然、仕入側としては「消費税の免税事業者とは基本的に取引をしない」ということになるでしょう。

また、消費税の免税事業者は、自社が取引から排除されることを避けるために、課税売上高が1000万円以下で消費税の納税義務がなくても「適格請求書発行事業者」の登録申請を行い「消費税の課税事業者」を選択せざるを得ないケースが多いでしょう。

課税事業者になれば、当たり前ですが消費税を納めなければなりません。
国は本来、課税事業者になる必要のない事業者までを、この改正により課税事業者になるべく誘導しているのです。しかも、あたかも自分で選択して課税事業者になったかのような体をとっているところが悪質と言わざるを得ません。現在の免税事業者にとっては、隠された大増税といっていいでしょう。

経営者の中には複数の会社を有し、消費税のメリットを出すために売上高を1000万円以下に抑えた免税事業者を所有しているといったケースも少なくありません。

国のやり方は頭にきますが、文句を言っても始まりません。税制の変化に合わせて、今から戦略を考えておく必要があることは言うまでもないでしょう。