本業と副業

会社員にも副業を認めるというような風潮が広がっています。
今までも会社に黙って何かしらの副業を行っていた方は多かったのでしょうが、今回は会社側が副業を奨励するという感じなので、時代は変わったなと皆さんもお考えのはず。

社員の副業を奨励するといっても、本業に悪影響があったら実際には困るわけで、本業と副業の管理がとても重要になることでしょう。

と、会社員の副業の話から始めましたが、本題は会社の副業です。

従来どおり、本業一本の会社が大多数であるのは間違いありませんが、本業の他に副業が複数ある会社(いわゆる部門制、事業部制)も増えてきました。このような場合、例えば3つの部門があるといっても、3部門の業績が横並びというようなことはごくまれで、本業と副業という表現の仕方が実態にあっているのだと考えます。

また、会社設立当初の本業とその後に始めた副業が逆転し、本業がいつの間にか副業に成り下がっている場合もあります。

結局、本業と副業という認識の差は、会社における収益貢献が主か従かということに尽きるように考えます。

ところで、この本業と副業、管理方法によって業績がまるで変わることが多いという事実にどれだけの方がお気付きでしょうか。

そもそも、社内において本業と副業を分けて管理していないのは論外です。ただし、部門別管理等を行っている場合でも、売上高や原価の部門別管理に止まり、人件費をはじめとした固定費は共通であるため、部門本来の業績を把握できていないという中小企業はまだまだ多いようです。

このような状態の場合、副業は永遠に副業のままであり、会社の業績に貢献しているどころか、赤字を垂れ流しているだけという場合も少なくありません。逆に、実は本業が赤字であり、ボリュームが少ないはずの副業で上げる利益が会社を助けているなんて場合もあります。

一つの会社の中で本業と副業の明確な業績管理がされておらず、実態すら把握できていないというのが正直なところではないでしょうか。

もちろん、あえてそのような管理方法にして、問題にふたをしている…。というケースも多く見受けられますが…。

その副業、今のままでよいのでしょうか?

本業と副業といえども、一社の中で行っている場合と、会社を分けている場合があります。会社を分けているのに副業という表現はおかしいのですが、オーナーも経営者も同じで、本業を完全に他人に任せられるというような状態ではないことを考えると、やはり副業という表現の方が正しいのではないでしょうか。

この点、一つの会社内で本業と副業を持つのではなく、別々の会社として管理している場合には業績管理も明確になることが多いかと考えます(スタッフの人件費等、全てのコストを明確に分けていることが前提条件です)。

当然、別会社として管理することにより管理コストは二重で発生する場合があります。ただ、そうであるが故に、事業の収益性は明確になり、これは先行投資なのか、将来の可能性無きただの自己満足なのかの事実を突きつけられることにもつながります。

なお、日本経済新聞電子版2018年4月18日付コラム『赤字200億円「アベマTV」支える子会社』ではサイバーエージェントの子会社についての記事が掲載されていました。以下、長いですが引用します。

 


 

『技術革新の激しいネット広告業界。サイバーは新たな広告手法や技術が出るたびに子会社を設立する「分社経営」を推進。高い専門性と、権限委譲によるスタートアップ並みの素早い意思決定で市場の変化にいち早く対応する。
(中略)
専門子会社を次々生み出す分社経営の狙いは何か。本体で広告事業を統括する岡本保朗専務は「人材の育成と、各分野に特化することによるスピード感にある」と語る。

 とはいえ、単に子会社を次々と設立するだけでは、事業領域が重複するなど無駄が発生する可能性もある。サイバーでは撤退基準や順位付けも明確にし、緊張感を持たせている。比較的新しい子会社は3四半期連続で粗利が減少するなど成長が見込めなければ撤退。黒字化している子会社では2四半期連続で減収減益になると撤退か、事業責任者を交代する。

 実際、これまで清算などに踏み切った子会社は56社に上る。子会社にも厳しさが求められるが、サイバーゼットの市川取締役は「組織が小さくトップと現場の社員と距離が近いため、大きな決断でも理解が早く決済しやすい」と実感している。』

 


以上、サイバーエージェントの例は極端ですが、極端であるが故に分かりやすいのではないでしょうか。

当然ながら、副業を別会社にしたからといって成功する訳ではありませんし、推奨する訳でもありません。しかし、一つの会社の中でダラダラと副業を行うよりも、事業の継続性を判断する上では分社化の方が明確になります。結果として、短期的な判断が可能となるため、無駄なコストも排除される可能性もあります。

結局は責任の所在の明確化であり、ひいては経営者の最終判断を促す役割も担います。

もし、皆様の会社に中ぶらりんの副業があるようでしたら、管理の方法にお気を付けください。

社員が会社に黙って副業を行っており、ノー管理であれば、いずれ退職の可能性も強まるかと考えます。会社の副業も、そういう意味ではリスクは同じではないでしょうか。

ヤマトに学ぶ値上げの効果

宅配最大手のヤマト運輸は値上げ交渉を行った結果、大口顧客の4割がヤマト運輸との取引を解消したことを明らかにしたという記事が1月31日の日経新聞に掲載されていました。
過剰ともいえるサービス提供を背景に、現場の労働環境の過酷さや人手不足による人件費の高騰による収益悪化についてマスコミをうまく使ってアピールし、多くの人に短期間で「値上げは仕方なし」と感じさせた戦術は見事としか言えませんが、そこはさておき、今回注目したいのはヤマト運輸が実行した【値上げの効果】です。
大口顧客1100社のうち値上げを受け入れて契約を継続した6割の顧客の平均値上げ幅は15%を超え、その結果、一定量の荷物が減るものの業績は改善し、連結純利益が従来予想から25億円上振れることを記事は伝えています。
中小企業経営においては特に、そもそもの値付けを誤っているケースが多く、収益の改善には適正な値上げが最も効果が高いことは言うまでもありません。
しかし、値上げを実行すればヤマト運輸の例と同じように、値上げを受け入れてくれない顧客が必ず現れ、顧客を失えば売上高は当然下がります。
経営者の多くは売上高が下がることを恐れますので、値上げの決断を下すのは簡単なことではありませんが、適正な値上げであれば一定の顧客を失い、売上高が下がったとしても収益が改善することは経験上間違いありません。
そして多くの場合その裏には、見逃せない事実が潜んでいます。
値上げに応じてくれない、ある意味価格の安さにのみこだわる顧客の多くは、生産性を悪化させている要素があることが非常に多いのです。
顕著なケースにおいては、値上げまでしなくても価格の安さにのみこだわる顧客の契約を断るだけで生産性は向上し、収益が改善します。
きっと皆さんにも、いっそ取引を止めた方が、収益が改善するのではないかと思い当たる取引先の1社や2社は必ずあるはずです。
ヤマト運輸の宅配サービスが同業他社に比べて質が高いことは、皆さんがご存じのとおりです。
今回、ヤマト運輸の値上げ交渉に応じなかった4割の大口顧客は、ヤマト運輸のサービスの質よりも価格を優先させる判断をし、今後は同業他社のサービスを利用することになります。
もうお分かりでしょう。
ヤマト運輸との契約を解消した4割の顧客を受け入れることになる同業他社は、安さにこだわり収益を悪化させるかもしれない「ババ」を引いてしまう可能性があります。
今回ヤマト運輸は、巧みな情報戦術を駆使した値上げ交渉によって、生産性を悪化させる可能性のある低収益顧客に自ら契約の継続解消を決断させ、人手不足と相反して増え続ける荷物の量を抑制し、収益を改善させることに成功したのです。
適正な値付けや値上げは、売上高や収益を増加させる大きな要因であることはもちろん、それ以外にも、企業側が意図的に顧客を選択する「フィルター」の役割にもなり得ることを、私たちは認識しておかねばなりません。
今回のヤマトの値上げ、私たち中小企業にも学ぶところが多いのではないでしょうか

年の初めに貸借対照表を眺める

貸借対照表よりも、損益計算書をよく見る。
貸借対照表の中では、現預金のみを見る。
売上高や利益が気になるのですから、当然と言えば当然です。
そして、手持ち資金が重要な訳ですから、これも当然です。
極端なことを言えば、これだけ見ていれば何となく会社の状態が分かるのだと思います。これは皆さまが数字以外の事も含めて、自社の全てを把握しているからこそ問題がない訳です。
しかし、これらを外部の人間が見るとしたらどうでしょう?
貸借対照表と損益計算書のどちらを見たいかと言われたら、もちろん貸借対照表です。
現預金は当然としても、それ以外の構成がとても気になります。他に知りたい情報があればWEBサイトを確認します。
貸借対照表を見れば、その会社と経営者の基本的な性格が分かります。
WEBサイトにはそれを補足するような情報が記載されています。
私どもはセカンドオピニオンとしてのご相談を多く受けているため、顧問契約を結んでいるお客様以外の決算書を拝見する機会が多いのですが、特に気になるのが貸借対照表です。
第三者目線からすると、歪んでいる貸借対照表が非常に多いのです。思わず「この先どうされるおつもりですか?」と質問したくなる場合があります。
「将来的には会社を売却することも考えている」と回答されたら、まず貸借対照表の歪みを正していくことをお伝えします。
例えば、ご自宅を売却する際に、荒れ放題の状態で内見してもらうのと、ちょっとした手直しやハウスクリーニングを行った状態で内見してもらうのでは、売却額に影響するはずです。これは会社でも同じことです。
そして、同じ目線で金融機関も税務署も見ています。帝国データバンクや東京商工リサーチ等の信用調査会社も見ています。
貸借対照表の歪みを探し、皆さまの会社の不利となるような点を突いてきます。
このような歪みも金融機関等は継続的な取引の中で説明が可能な場合もありますが、会社を売却するとなれば話は別です。単なる言い訳になってしまい、売却額に影響が出てしまいます。
会社売却時での例は極端とも言えますが、いつ何が起こっても外部の人間に貸借対照表の歪みを突かれないような状態にしておくことはとても大切です。
貸借対照表は皆さまの会社のこれまでの地層のようなものですが、将来に向かっての準備を表すものでもあります。損益計算書ではその準備は分かりません。
貸借対照表の構造はそれぞれなので具体的にはお伝えできませんが、将来に向かっての準備が出来ているか、年の初めに貸借対照表を改めて眺めていただくことをお勧めします。

隠された大増税

「まったく同じ物でも、どの会社から買うかで御社が納める税金額が異なります。」
「まったく同じ仕事でも、どの会社に依頼するかで御社が納める税金額が異なります。」

これを読んでみなさんはどう思われたでしょう?

「そんなわけないでしょ。」

ほとんどの方はそう思われたはずです。

今のところ、まだあまり話題になっていませんが、昨年12月に公表された税制改正大綱には、この税制がしっかりと書かれています。言葉だけは聞いたことがあるのではないでしょうか。

【インボイス方式】。

そうです、消費税に関する改正事項に関することなのです。実施されるまで、まだ少し時間がありますが、とても重要な内容になりますので、しっかりと理解しておきましょう。

インボイス方式の完全導入は平成33年4月以降とされており、その前には経過措置も設けられる予定ですが、今回は経過措置には触れません。あくまで平成33年4月以降の完全導入にスポットを当てます。

まず「インボイス」とは、消費税の適用税率や税額など、法律で定められている記載事項が記載された書類をいいます。消費税が10%に上がるタイミングで一部の品目に軽減税率(8%)が導入されることによって、税率が混在する消費税の額を明らかにするために、この「インボイス」なるものが必要となるわけです。これは軽減税率対象品目を取り扱っていない事業者も同じです。

そして「インボイス方式」とは消費税の計算において「課税事業者が発行するインボイスに記載された税額のみを控除することができる方式」をいいます。

消費税の納税額は、基本的に売上時に預かった消費税額から仕入時に支払った消費税額を差し引いて決定します。つまり、「インボイス方式」によれば、この差引く仕入時の消費税額は「インボイス」に記載された税額になります。

「うん?今の請求書と何が違うんだ?」

違いはこうです。

現行法では、たとえ請求書・領収証を発行する側(売る側)が消費税の納税義務がない免税事業者であっても、代金を支払う側(仕入れ側)は支払った消費税相当額を仕入控除として預かった消費税から差し引いて計算、納税することができます。つまり、仕入先が課税事業者であろうと免税事業者で、関係なくどちらでも同じ納税額になるのです。

しかし「インボイス方式」は違います。預かった消費税から差し引ける支払った消費税額は「適格請求書発行事業者」に登録された「課税事業者が発行するインボイスに記載された税額のみ」なのです。課税事業者から仕入を行えば現行法と結果は同じです。

(図)

しかし、インボイスを発行できる「適格請求書発行事業者」に登録していない免税事業者は、そもそもインボイスを発行できません。もうわかりましたよね。そう、免税事業者から仕入れた場合には消費税相当額を支払っても消費税の納税額計算上、差し引くことができないのです。

(図)

結果、冒頭の

「まったく同じ物でも、どの会社から買うかで御社が納める税金額が異なります。」
「まったく同じ仕事でも、どの会社に依頼するかで御社が納める税金額が異なります。」

が起きてしまい、残るキャッシュに差が生じてしまうのです。

(図)

こうなると当然、仕入側としては「消費税の免税事業者とは基本的に取引をしない」ということになるでしょう。

また、消費税の免税事業者は、自社が取引から排除されることを避けるために、課税売上高が1000万円以下で消費税の納税義務がなくても「適格請求書発行事業者」の登録申請を行い「消費税の課税事業者」を選択せざるを得ないケースが多いでしょう。

課税事業者になれば、当たり前ですが消費税を納めなければなりません。
国は本来、課税事業者になる必要のない事業者までを、この改正により課税事業者になるべく誘導しているのです。しかも、あたかも自分で選択して課税事業者になったかのような体をとっているところが悪質と言わざるを得ません。現在の免税事業者にとっては、隠された大増税といっていいでしょう。

経営者の中には複数の会社を有し、消費税のメリットを出すために売上高を1000万円以下に抑えた免税事業者を所有しているといったケースも少なくありません。

国のやり方は頭にきますが、文句を言っても始まりません。税制の変化に合わせて、今から戦略を考えておく必要があることは言うまでもないでしょう。

 

ストレスチェック

12月から従業員の「ストレスチェック」制度が始まりました。

従業員50人未満の企業は努力義務ですので、中小企業では実施されないケースが多いかと思われます。

「従業員のストレス度が高いと業績も伸び悩む」と言われることもあるので、チェック自体は有用かもしれませんが、その結果が会社にフィードバックされる制度ではないので、管理は難しいところ。

そうであれば、当社でも提供している「CUBIC」の現有社員用などでチェックした方が、従業員のストレス傾向は把握しやすいかもしれません。

しかし、従業員のストレスチェックまで義務化とは、えらい時代になりました…。
対象となる中小企業は淡々とこなすしかありません。

と前振りしましたが、今回話題にしたいのは従業員のストレスチェックではなく、企業のストレスチェックです。

今年も大企業の不祥事が相次ぎました。
東芝、東洋ゴム、マンション問題の関係会社…etc.

当然ながら、これらの企業は業績が急転直下、赤字転落となるのがお決まりのパターン。そして、これらのニュースを見聞きする度、「うちは大丈夫だろうか?」と不安がよぎる方も多いはず。

大企業が不祥事を起こせば、経営陣が辞任。新しい体制の下で、信用と業績回復を目指すということになります。トカゲの尻尾切りみたいな…。

しかし、経営者がオーナーである中小企業では、不祥事から社長が辞任することはほぼあり得ません。唯一あり得るとしたら子への社長交代などですが、あくまで身内ですから、経営体制の刷新というレベルではありません。同族で責任を持って経営を続けるしかありません。

中小企業の場合、問題は業績に与える影響…。

そこで、皆さまにお考えいただきたいのが、自社のストレス耐性です。

つまり、自社にて考えられる不祥事が発覚した場合、業績に与える影響は「何が、どの程度か?」ということです。

一番分かりやすいのは売上の激減。ここでよく言われるのが「売上が0円になっても、従業員の給料を何か月分払えるお金を持っているか?」という基準です。売上減少の幅が読めない以上、0円と仮定するのが最も安全な考え方であり、影響を受ける期間が読めない以上、どの程度の期間の給料を払えるのかを把握しておくのは重要です。

例え売上が0円でも、従業員の給料1年分くらいのお金を持っていれば、ひとまず安心というところ。それが内部留保によるお金であれば好ましいのですが、その裏付けが借入金であったとしても、実際にお金があるのであれば、何とかしのぐことができます。

つまり、不祥事が起こった際、お金を持っているかどうかというのはとても重要なこと。そして、不祥事が起こった後に、資金の工面をしようと考えるのはとても甘い考えです。

借入れを嫌い、ギリギリでも自己資金で経営をされている企業を見受けますが、このような企業は、自社のストレス耐性をよく考えておく必要があります。金融機関が不祥事に気付き、企業の先行きに危険性を感じれば、融資に応じてくれない可能性もあります。

もちろん、借入金は少ない方が好ましいに決まっています。しかし、それよりもお金が多い方が絶対的に良いに決まっています。

借入金が少ないけれどお金も少ないという会社は、会社に大きなストレスが掛かった場合、売上も激減するし、融資も受けられないし、給料を支払うお金もないという危機的な状況に陥る可能性があるということです。

資金繰りで重要なのは、お金を可能な限り多く持っておくという一点に尽きます。借入金の額の問題ではありません。

もちろん、不祥事の種類、影響の程度によって、どの程度のお金が必要になるかは変わってきますが、考えられる事は全て想定しておくのが好ましいです。想定さえしておけば、事前に対策も可能ですから。

なお、お客様への返金ということが生じ得る場合は、有効な損害保険などに加入しているかということも検討しておく必要がありますのでご注意を。

そして、お金だけではなく、従業員の相次ぐ退社ということも頭に入れておかなければなりません。「不祥事により先行き危うい会社にいられるか!」と、労働力不足に陥る可能性は十分あります。

従業員が何割減少しても大丈夫か…。あまり考えたくないことですが、考えておいた方がいざというときに慌てないで済みます。

これが経営者自身による不祥事ではなく、また日頃から会社や従業員の事を第一に考えている経営者であれば、従業員が一丸となって支えてくれるという展開も考えられますが、自信を持って「うちの従業員はそうだ!」と言い切れる経営者は少ないのではないでしょうか…。

以上、従業員のストレスチェックとなると、辞めるリスクや他の従業員に悪影響を及ぼすリスク、そして生産性が著しく落ちるリスクを計る必要がありますが、会社のストレスチェックとなると、会社の継続性を計る必要があり、そのためにはいざというときのお金を“既に”確保できているかどうかという点が重要となります。

当社も例にもれず、「不祥事か!?」と冷や汗をかいたことは何度かあります…。実際には不祥事までに発展したことはありませんが、そのときにいつも頭に浮かぶのは、「預金残高いくらだっけ?」。そして「まあ、大丈夫か…」と腹をくくるという感じです。

従業員だけではなく、経営者にとっては定期的な会社のストレスチェックというのも重要となりますので、毎年1年の最後くらいには考えておく必要があるかもしれませんね。

 

社員を鍛える補助金?

皆さま、『ものづくり補助金』というのはご存知ですか?

経済産業省管轄の補助金で、「国内外のニーズに対応したサービスやものづくりの新事業を創出するため、認定支援機関と連携して、革新的な設備投資やサービス開発・試作品の開発を行う中小企業を支援します。」という目的の下に、最大1,000万円を補助(補助率:3分の2)してくれるものです。

詳しくはこちら>>ミラサポ 未来の企業★応援サイト『ものづくり補助金』

27年中に採択された、26年度補正予算の第一次、第二次公募の結果は下記のとおり。

【第一次公募】申請:17,128件 ⇒ 採択:7,253件(採択率:42.3%)
【第二次公募】申請:13,350件 ⇒ 採択:5,881件(採択率:44.1%)

最大1,000万円の補助金が出るのに、こんなに採択率が高いのか?と驚かれる方も多いのではないかと思われます。

ただし、『ものづくり補助金』の存在を知ってチャレンジしようと思われる企業は申請数の数倍はあるでしょうし、申請書の作成中に断念された企業も申請数の二倍は下らないと思われます。

実は、この申請書を提出レベルに持っていくのは結構大変な作業です。

私も、第一次公募の際にお客様から依頼がありお手伝いしました。申請額は700万円ほど。
結果としては採択されたのですが、「あぁ、大変だったな…」と(苦笑)。

新しいサービスの創出ということでお客様と一緒に申請書を作り上げましたが、最初の「補助金をもらうための」という目的から、このサービスを実際にリリースするための企画書を作成するということに目的が変わってきました。その企画書を補助金の申請書のフォーマットに当てはめたというイメージです。

お客様も、「実際にこれが採択されなくても、この申請書の作成過程でサービスの企画ができあがったので良かった。これをそのままパンフレットにもできる。」とおっしゃっていました。

中小企業においては、企画をプレゼンして採用してもらうようなビジネスをしている企業を除き、サービスや商品の企画書を社外で審査してもらうという機会は滅多にありません。

もちろん、『ものづくり補助金』の場合は審査が公的機関なので、民間企業とは少し基準が違うかもしれませんが、民間企業で採用されるレベルの企画書であれば、少なくとも申請レベルまでは持っていけます。申請レベルに持っていければ、採択率は4割越え。

また、『ものづくり補助金』の申請書は、経営計画や財務、組織体制や人員まで盛り込む必要があるため、トータルで考える訓練にもなります。

会社全体の経営計画を作るのは、なかなか骨の折れる作業です。また、中小企業では経営者や幹部以外が計画や企画に携わる機会は少ないと言えます。

しかし、『ものづくり補助金』であれば、社員に任せて企画書を検討させることができ、社内の活性化にもつながるのではないかと考えます。申請書と言っても、数十ページも必要な訳ではなく、重要な部分は10ページ前後あれば十分です。

個人的には、補助金を受け取るために何かをするというのはあまり好きではありませんが、社員にやらせてみるという視点で『ものづくり補助金』に取り組むというのは、中小企業にとってはイベントのようなものなので、是非お勧めしたいです。ただ、これを経営者が全部やってしまうと、今までと何も変わりません…。

採択されなくてもリスクは何もありませんし、再チャレンジも可能です。補助金はもらえたらラッキーくらいに考えることができます。

「うちの社員は、今後のことについて改善や提案をしてくることがなくて…」とお嘆きになられている経営者の方であれば、「やってみろ!」と丸投げしてしまうのもよいかもしれませんね。

26年補正予算の第一次公募開始は27年の2月であったため、来年もその頃に開始されると思われます。ご検討される中小企業は今からご準備を!

 

【要注意!】マイナンバーに踊らされるな!!

皆さまご存じのとおり、来月から各個人の住所にマイナンバーが届きます。
昨年から「マイナンバーどうする??」と大騒ぎしていたところ、とうとう本番がやってきます。

しかも、皆さまのお手元に届く前から、消費税の食料品などの軽減分の還付にマイナンバーを使うなどの話が飛び出したりと、今後は困ったら“何でもマイナンバー!”という流れが構築されつつあります。

今までマイナンバーにほとんど興味がなかったであろう従業員の方々も、「消費税の還付に必要」という話を聞けば、「うちの会社は大丈夫なのか?」と気になり始めるはず…。

実際、マイナンバーは、皆さまが報道で見聞きしている以上の用途が検討されており、マイナンバーがないと何もできないという世界が遠からず到来することが想定されています。

私どもは職業柄、様々な媒体から情報を得ていますが、「マイナンバーの利用拡大が進むと、税理士事務所の仕事がなくなるよね…」と話題になります。

しかし、実際そのとおりで、マイナンバーと学習機能を備えたクラウドベースのシステムの発展により、私どもが今まで行ってきた仕事がなくなっていくのは間違いありません。

それほどマイナンバーは重要な制度であり、それ故に取扱いには注意が必要ということになります。

まず、企業にとってマイナンバーが重要な意味を持つのは、従業員の「扶養控除等申告書」や「源泉徴収票」に記載が必要なため、少なくとも従業員全員分のマイナンバーを預かる必要があるからです。

実際に預かると言っても、罰則があるとか、セキュリティを厳重にしろとか、事務所のレイアウトを変更しろとか、皆さまを不安にさせるような情報ばかりが強調され、「実際どうなの?うちは中小企業だよ…」という声が聞こえてきます。

マイナンバーをビジネスチャンスと鼻息が荒くなっている事業者以外の専門家にしてみれば、「実際はこれだけ対応すればいいので、そんな大げさな話ではない…」となりますが、これを大声で言ったところで、「罰則がー!!」などの声にかき消され、自らのお客様に対してだけお伝えするということになります。

また、冒頭でも触れたように、今後は従業員もマイナンバーについて気にされる時期です。中小企業と言えども、マイナンバーについて最低限の対策をしておかなければ、さらに採用が困難になってくる可能性もあります。

「中小企業はマイナンバーのセキュリティがずさんそうで入社したくない…」と。

さて、ここからは宣伝になります。

当法人では、「中小企業は、これだけ知って、このような対応をすれば、セキュリティ面も含めて十分」ということをお伝えするためのDVDを制作いたしました。

もちろん、そのためにはマイナンバーの最低限の知識も必要ですので、その知識もサラリとご紹介しつつ、セキュリティ面も考えると中小企業にとってはこれが一番簡単というレベルの内容となります。

まだマイナンバーの対応が決まっていないという方のみならず、既に対応を始めているが、ここまでする必要があるのかと疑問をお持ちの方は、是非ご覧ください!

『中小企業のための最も簡単なマイナンバー対応』DVD

 

これもフリーか

以前、ご紹介したことがある『クラウド会計ソフトfreee』。
この運営会社が、先月『会社設立freee』というサービスを開始しました。
その名のとおり、会社設立支援のためのサービスですが、ここを利用するだけで会社設立に必要な手続き全般が完了できます。利用料はfree。
会社設立というと、自身で手続きを行うか、司法書士か税理士に依頼するというのが一般的です。自身で行うには手間が掛かるし、司法書士や税理士に依頼すると費用が掛かる。また、設立後の諸手続きも時間とお金が掛かります。
また、税理士が会社設立を低額又は無償で請け負うこともありますが、引き続き顧問契約という流れが待っているので、事前割引のようなものです。
しかし、この会社設立freeeは、自身で手続きを行っても、最も費用と時間がカットできるサービスと言えるかもしれません。そのままクラウド会計ソフトfreeeを利用するのであれば、税理士に仕事を依頼する前に事前準備は完了し、ついでにfreeeを扱える税理士まで探せるという段取りの良さ…、よくできています。
当社グループは、組織再編の関係で今年の一月に会社を一つ設立しました。仕事柄、設立事務には慣れているので、必要情報を司法書士に連絡して書類の作成と登記を依頼。当社スタッフに印鑑の準備、銀行口座の開設、税務署等への提出書類の作成などを指示して速やかに設立しました。
面倒だなと思ったものの、迷うこともなく指示も一方通行で済むので、ほぼ最少ステップで設立していると思われます。
しかし、この会社設立freeeを実際に使用してみると、「こっちで設立した方が早いし、楽だな…。あと半年早くリリースされていれば!」と、素直に感じました。税理士が、お客様の代わりに会社設立freeeを使って設立手続きすることも多くなりそうです。
もちろん、こだわりのある定款を作りたいなどの要望があれば別ですが、定款などは後からいくらでも変えられます。費用を掛けず、シンプルに設立するということであれば、理想的なサービスと言えます。
司法書士にも聞いてみましたが、司法書士泣かせのソフトだと申しておりました。
ちなみに、freeeは給与計算やマイナンバーのサービスも提供しています。
会計は税理士泣かせ、給与やマイナンバーは社会保険労務士泣かせ、設立は司法書士泣かせ…。次は弁護士でも泣かせてくれるのでしょうか 笑
freeeは士業を泣かせる気はないのでしょうが、税理士や司法書士などの専門家は複雑でテクニックを要したものを好む傾向があり、実際問題としては必要がないことを行うことが多い。
“悪貨が良貨を駆逐する”ということわざがありますが、freeeの場合は逆かもしれませんね。士業のサービスの過剰さ、複雑さを駆逐していただきたいです。
もちろん、ソフトに全面的に委ねることはあり得ませんが、会社設立freeeのようなサービスが、税理士や司法書士などの本来の専門家からではなく、ソフトの開発会社から提供されるところがポイントです。そもそも、ソフトとサービスの垣根がなくなっています。
税理士内で、得意業務を分業していくことがありますが、今後はfreeeのようなソフトと分業していくことになります。あるいは、税理士などの士業がソフトやクラウドサービスの下請けと化すのか…。
当社は既存サービスのうち、いくつかを止めることを決定しました。freeeのようなサービスと勝負する気にもなりませんので、非収益事業と化す前に撤退します。こだわりは全くありません。
そんな最中、アマゾンがリフォームの定額販売に参入しました。今回は、積水ハウス、大和ハウス、ダスキンの大手が出店していますが、これもある意味、アマゾンの下請け化と捉えられます。水回りリフォームなどを得意としているリフォーム会社はどのように対抗するのでしょうか…。
業務を複雑にしてきた専門家が、シンプルさとスピードで勝負するサービスに、どこまで抵抗できるのか。税理士などの士業にとどまらず、このような波があらゆる業種に迫っている、あるいは既に飲み込まれていることを自覚していく必要があります。
降参して軍門に下るか、徹底抗戦するのか、ブルーオーシャンを切り開くのか、いずれにしても考え時ですね。
P.S.
最後にお断りをしておくと、私はfreeeの回し者ではありません。お金を支払って利用している一ユーザーですし、他のクラウド会計ソフトも複数利用しています。念のため…。

シャープの減資

先月、シャープの減資が話題となりました。

シャープの現状を考えれば、減資自体は不思議なことではありません。今回は資本金を1,218億円から5億円にまで減資することになったようです。

減資の目的は多々あるのでしょうが、批判を受けたのは、資本金を1億円にまで減資して、中小企業並みの優遇税制を受けるという話が強調されたためです。

ベンチャー企業は、資金確保のためにベンチャーキャピタル等から出資してもらい、ドンドン増資することがあります。最近ではクラウドワークスなどがよく取り上げられますが、売上よりも資本金の方が多くなることも珍しくありません(このような状態の場合は、ほぼ赤字です)。

資本金を1億円以下に抑えれば優遇税制が受けられるのに、なぜ増資?? と思われる方も多いかもしれませんが、大雑把に言えば、返済義務のない資本金として資金を集めるか、返済義務がある借入金として資金を集めるかの資本政策による違いです。

従って、増資を続けるベンチャー企業にとっては優遇税制等どうでもよいことなのです。むしろ、そのようなことを気にしていては資金を集められません。斬新なビジネスモデルがあっても、実績のない会社に金融機関はお金を出してはくれませんので…。

また、上場・非上場にかかわらず、有名企業でも資本金が1億円以下の企業は珍しくはありません。資金を出資で集める必要がなく、資本金を高額にする必要がないのであれば、優遇税制を受けられる方が良いに決まっています。それが日本の税制です。そういう意味では、Googleやアップルが会社をアメリカ以外の海外に置いて節税している手法と、大きな違いはありません。

それだけ優遇税制のインパクトが大きいということです。

私も何度かお客様の減資をお手伝いしたことがあり、今回のシャープのように1億円超から1億円に減資したこともあります。

「なぜ、資本金2億円なのですか?」と確認させていただくと、

「資本金は多い方が良いと思って…」という回答、

「資本金1億円以下では、このような優遇税制がありますよ」とお伝えすると、

「では、資本金を1億円にしたい」という結論。

中小企業の出資者は、ほぼ例外なく親族のみです。つまり、誰にも遠慮する必要がありません。資金が必要なら、オーナーが貸し付けるか、金融機関からの借入で十分です。

では、そこまで話題になる優遇税制の内容は何か?
代表的なものを簡単にお伝えすると…

  • 税率が低い
  • 設備投資を行った場合の特別償却(減価償却を早めてくれる)
  • 設備投資を行った場合の税額控除
    (投資額の数%を税金から控除してくれる)
    *ただし、資本金3,000万円以下の企業のみ
  • 雇用者数が増加したら税額控除
  • 欠損金の100%が繰越控除(資本金1億円超は欠損金の80%のみ)
  • 法人事業税の外形標準課税が適用されない

お読みいただいている方のほとんどは資本金1億円以下の中小企業と思われます。従って、お馴染の制度ばかりですが、法人事業税の外形標準課税はご存じない方も多いでしょう。これは、赤字でも発生する税金のことです。支払っている給料や利子、家賃などにより税額が決まります。

シャープの減資による税制面での目的は、この外形標準課税の回避と欠損金の100%繰越控除が大きかったと言われています。資本金1億円以下の企業が赤字の場合、法人住民税の均等割しか掛かりません。

つまり、とにかく税額を抑えたいのであれば、資本金は1億円以下が絶対です。税額控除のことを考えれば、ベストは3,000万円以下。ちなみに、売上高が7,000億円程度のヨドバシカメラの資本金は3,000万円です。

ただし、資本金が1億円以下の中小企業でも稀に見受けられるのが、本来適用できる優遇税制が適用されていないという事実です。これは、ご相談者の確定申告書を確認させていただいて我々も気付きますが、ご相談者は気付いておらず、単純に税理士の怠慢処理か税理士も気付いていないのです。優遇税制の多くは勝手に適用されるものではなく、自ら申告しなければなりません。ご注意ください。

そして、今回話題になったシャープの減資は、一つのターニングポイントになる可能性があります。

現在、日本の税制は主に資本金で中小企業と大企業を分けています。しかし、今回問題になったように、「資本金だけで中小企業と大企業を区分してよいのか?」という話は元々ありました。中小企業の中でさえ、資本金1,000万円の10人の企業と資本金1,000万円の100人の企業では、規模と活動内容の次元が違うことはお分かりだと思います。

それが、一民間企業の資本政策に政府が苦言を呈したくらいですから、税制に反映されていく可能性は十分にあります。

つまり、資本金が1億円以下でも中小企業とみなさない税制が導入される可能性があるということです。こうなってくると、中小企業の皆さまも無関係ではありません。

外形標準課税に関しては以前から適用拡大が検討されていますし、現在の政府が行っている法人税改革は大企業への影響が中心で、中小企業はほぼ無関係です。ですから、様子を見ながら、中小企業に対しても課税ベースを拡大してくる可能性は十分にあります。

「企業の大小を分ける基準に、資本金だけというのはやめよう」

という、本来当然でもある事が現実になったら、影響を受けるのは資本金1億円以下の企業です。中小企業の概念を資本金で判断しなくなったら、それは中小企業への課税強化の第一歩です。

資本金1億円以下という今まで当然のように存在した基準を変更するのは、国としても非常に困難な作業ですが、シャープの減資のように世間を賑わせ、「それは当然だよね」と世間が思い始めたときに手を打つのは簡単です。

それでも資本金での判断基準が全くなくなるということは考えられませんが、このようなタイミングで自社の資本金を含めた資本政策を再検討しておくというのは必要かもしれません。何事も、ムダに大きいということはコストが掛かるということです。

利益を削るだけが節税ではありません。「資本政策もあるのだよ」という教訓を改めてシャープは教えてくれたのではないでしょうか。

【追記】
『中小企業の税制優遇基準「資本金1億円」見直し』との記事が日本経済新聞に掲載されました(6月17日朝刊)。資本金に比べて操作しにくい売上高や所得を新たな指標にする案が出ているとのことです。早ければ2017年度にも変更されるようです。シャープ、やってくれましたね…。

新年度の計画を完了する前に…

売上の先行きが不透明な中、少しでも固定費を削減しなければとお考えの方もいらっしゃると思いますので、今回はコスト管理について一つの考え方をお伝えいたします。

コストは何のために投入するのか?

と聞かれれば、それぞれ表現は違っても「成果を上げるため」と、ほとんどの方がお答えになると思います。

しかし、最初は成果を上げるためにと投入し始めるコストも、次第に意図が曖昧になり、全体的なボリュームが出てくる頃になると責任の所在も曖昧になり、実際には管理がなされていない…というのが現実です。

コスト管理と言えば、最も割合が大きいコストについて集中的に見直しを行うべきというのは皆さまもご存じのとおり。例えば、「光熱費を節約しても意味がない。もっと重要なところを見直せ!」と号令が掛かるのはよく耳にしますが、その重要なものとして行き着く先は人件費がほとんどです。労働分配率が50%としても、固定費の半分近くは人件費が締めているからです。

それでは、人件費を管理すればよいのか?

というと、そう簡単なものではありません。

人件費を管理するとして、皆さまに共通してパッと思い付くのは下記のようなものでしょうか。

  • 余剰人員はいないか?
  • 働きが悪い従業員に高給を払っていないか?
  • 無駄な残業代を払っていないか?
  • 正社員の比率を下げ、パートスタッフで代替できないか?
  • 社会保険料をもっと削減できないか?
  • 外注できないか? さらには海外の労働力を活用できないか?

全て当然のことですが、むしろ見直しを行っていない企業の方が少なく、人件費管理となるとここまで…という感じです。

それでは、どうすればよいのだ!

と話が堂々巡りしてしまいますので、一度人件費から離れます。

話は最初に戻りますが、各々の割合が低いとはいえ、人件費以外の他の固定費もトータルでは大きな割合になります。労働分配率50%、経常利益率5%と考えても、残り45%もあります。

ここでの問題は、他の固定費を各々の割合で考えてしまう点にあります。他の固定費を一つ一つ取り上げると「これくらいを見直しても大きな効果を得られないよね…」となり、そこで話が終わります。

人件費は全体で判断する方が多いですが、他の固定費はどうしても費目単位で判断してしまいます。

この単位で判断してしまいがち

人件費の管理も困難、他の固定費も細切れで管理できない…。そうなると、考えられるのは人件費も他の固定費も一体となってコスト管理するという思考です。この場合の見直し原資は95%存在します。

この単位で判断してみる

それでは、上の図のように固定費を横断的に管理しようとする場合、どのような単位で判断するべきでしょうか?

それは企業活動です。

固定費を活動と紐づけて管理するという考え方があります。

ここで一つの結論をお伝えすると、固定費の割合が少ない企業というのは、活動数が少ない企業に多いのです。

コストは、特定の活動を行うために発生しています。そして、特定の活動が大きな単位であれば把握も管理も容易です。例えば、“支店を出す”という活動は、人件費と他の固定費が増加することを事前に予定しているため、支店を廃止した場合にはそこに掛かる固定費が削減できるということが想像できます。

しかし、従業員の日常的な活動に焦点を当てた場合、そもそも活動を把握することが難しく、活動を把握したとしてもそこに掛かっている時間まで把握することが非常に困難となります。

逆に言えば、その活動に掛かっている時間と、その活動から得られる成果を把握できれば、その活動自体をどうするかという判断が可能です。当然、その活動が成果に結びついていないとなれば、活動そのものを止めるということにつながります。

つまり、コスト管理は“人件費”や“他の固定費”という費目単位で行うのではなく、企業活動さらには従業員の日常の活動の単位で管理をすることが重要だということになります。

光熱費を20%カットしよう、広告宣伝費を10%カットしよう、事務用品費を30%カットしよう…ではなく、それらが発生する要因となる活動自体をカットしようということです。仮に、100の活動があったとして、成果に結びついている30の活動のみに集中し、残りの活動は止める。力を抜くのではなく活動自体を止めるのです。

特に中小企業は、業績を上げるために活動数・活動量を増やすことに躍起になります。その先にあるものは、人員の増加、労働時間の増加、他の固定費の増加です。また、“あれを止めるから、これを始める”というレベルでは、コストの移転で終わります。

限界利益と従業員の総労働時間の増分分析をしてみれば、ほとんどの中小企業の限界利益と総労働時間の推移に乖離が生じているのが分かると思います。限界利益の伸び率に比べ、総労働時間の伸び率が著しく大きいのです。これは成果に結びつかない活動が増えている証拠です。

活動を把握し、活動を成果と紐づくものに限定し、そこにコストを集中する。これが成果との連動性を最も高めるコスト管理になります。

このような場合、“何を始めるか?”ではなく、“何を止めるか?”という思考が先に立ちます。あるいは、この活動を始めるにはあの活動を止めなければと同時に考えます。

以上の話は机上の空論と思われる方も多いと思いますが、中小企業でも実際に行われています。それは実際に実行可能だからです。

コストの源泉は活動…。活動を管理することから始めてみませんか?