知っていますか?「経営力向上計画」

平成29年3月31日をもって終了した「生産性向上設備投資促進税制」。

一定の生産性向上要件等を満たす設備投資をおこなった場合、工業会等からその証明書の発行を受け、税務申告書に添付することで即時償却や取得価額の10%の税額控除が受けられる、中小企業にとって、とてもありがたい税制でした。

この税制、今年の3月末でいったん終了となっていますが、実は4月以降、設備の価額要件などが、より拡充されたものへと生まれ変わっています。

ではまず、対象設備と要件を簡単に確認しておきましょう。
下の表の対象設備のうち、【1】一定期間内に販売されたモデルで【2】経営力の向上に資するものの指標が旧モデルと比較して年平均1%向上している設備が対象になります。
(【1】【2】の要件を満たす場合、工業会等から証明書を取得します)

 

ツールサンプル

 

ご覧になっていただいて分かるとおり、中小企業が行う設備投資において、かなり多くのものが対象設備に該当するのではないでしょうか。

ただし、問題はここからです。即時償却又は税額控除を受けるには、工業会等から証明書の発行を受けるだけでは足らず、原則、事前に(設備取得後60日以内も可)業種ごとに管轄する経済産業局などに「経営力向上計画」を提出し、経営力向上計画の認定を受ける必要があるようになってしまいました。

要するに、即時償却又は税額控除を受けるのに面倒な手続きを踏まなければいけなくなってしまったのです。

しかし、この税制、即時償却や取得価額の10%の税額控除が行えるのに加えて、別要件を満たせば固定資産税が3年間にわたって2分の1に軽減されたりもしますので、設備投資を行う中小企業にとって適用漏れに気を付けなければならない、非常に重要な税制となっています。

経営力向上計画については、関東経済産業局などではエクセルのフォーマットが用意されていますので、記載例を確認しながら作成すればそれほど難しいものではありませんが、申請件数が増加しているとみえ、認定にあたっては、制度開始当初よりも計画の精度が低いと突き返されてやり直しさせられる事例が増えてきていますので、期限に余裕を持って申請を行うことをお勧めします。

この税制の一番の問題は、設備取得後60日以内(原則は事前)に経営力向上計画を受理されている必要があることです。

毎月の月次監査を受けている企業ですら、顧問税理士が設備取得に気が付くのは、早くて取得から1ヶ月程度です。月初に購入して翌月末に月次監査を行った場合、限りなく60日に近づいてしまいます。まして、2カ月に1回程度の監査頻度の場合、気が付いた際には既に手遅れ・・・という事態が容易に起こり得ます。

ポイントは、こうした税制があることを皆さん自身が認識し、設備購入前に顧問税理士に相談することにあります。

「先生、今度○○円くらいする××を買おうと思ってるんだけど、何かしなきゃいけないことある?」

設備投資をする際には、必ずこう顧問税理士に聞いてみましょう。
それが税金を減らすコツです。

限界利益率は高ければ良いのか?

もちろん、限界利益率(粗利益率)が高ければ良いのは間違いありません。
限界利益率が高まれば、少ない売上高でより多くの利益が出るようになります。
それでは、全ての状況において限界利益率が高ければ良いのでしょうか?
売上高は変わらない、
限界利益率は高まっている、
経常利益も増加した。
これなら収益性の管理はOK。
しかし、貸借対照表を確認してみると在庫が積み上がっている。
その在庫は、限界利益率が低い商品である…。
複数市場、複数商品を扱う場合、売上高に占めるその割合によって限界利益率が変化します。ここにおける限界利益率の上昇は、限界利益率が低い市場や商品の販売比率が減少していることによって生じます。
そのため、限界利益率の上昇を追えば追う程、必然的に限界利益率が低い市場や商品の販売比率が下がることになります。
そのため最終的には、限界利益率が低い市場、商品から撤退するという「合理的な選択」につながります。それにより在庫も設備投資も不要となります。
ここで皆さまもご存じの『イノベーションのジレンマ』。
自社が収益性の低い市場から撤退し、より収益性の高い市場へと上がることによって、撤退した市場で破壊的イノベーションを起こしたプレイヤーの成長を許し、そのプレイヤーが再度自社がいる市場に進出して来る…。
破壊的イノベーションを起こすプレイヤーは、限界利益率が低くても事業が回るコスト構造にあります。従って、まともに戦っても勝てる訳がありません。後出しジャンケンが勝つのと同じ理屈です。
つまり、自社の限界利益率を高めるという一点だけに気を取られていると、在庫にゆがみが生じたり、他の企業が自社の市場に進出してくることを許し、自社は市場からの撤退を迫られる可能性が高まります。
中小企業の多くは、破壊的イノベーターとしての優位性を持って既存市場のシェアを獲るわけですが、規模が大きくなればなるほど持続的イノベーターのポジションに落ち着いてしまいます。
そして、新たな破壊的イノベーターが自社の市場に参入して来る頃には、万全の業績管理ができるようになっており、合理的な判断の下に収益性の低い市場から撤退します。
自社としては収益性の低い市場から喜んで撤退していると思いきや、実は撤退させられていたり、収益性は高いが狭い市場に追いやられている可能性があります。そして、どんどん上の市場に追いやられて最後に行き場がなくなる…。
収益性の高い市場の中で自社のシェアが低い場合は、まだ奪う側に回れるので気にする必要はないかもしれませんが、いわゆる地域一番店と呼ばれる中小企業であれば、既に一方的に奪われる側に追い込まれている可能性があります。
当然、撤退の判断が全て悪い訳ではなく、他に獲るべき市場があればそこに参入すれば良いのです。中小企業は資源が限られていますので、戦力は集中すべきです。その場合は素直に譲りましょう。
しかし、これからシェアを高めようとしている市場が、バラ色の市場であることなどめったにありません。そんな市場は既に他のプレイヤーが牛耳っています。実は撤退した市場の方がまだまだ魅力的だった可能性もあります。
また、既に破壊的イノベーターが自社の市場に進出しており、シェアを明け渡し続けているのにもかかわらず、限界利益率に象徴される「率」にこだわって、本来上げられるべき「額」を失っている場合もあります。
破壊的イノベーターに対抗できる限界利益率で利益が上がらないとしたら、そもそも自社のコスト構造がその市場に合わなくなっているということです。この場合は迅速に他の市場を探すか、傷が浅いうちに自社の身の振り方を考えなければなりません。
なお、クリステンセンが『イノベーションのジレンマ』で主張したように、破壊的イノベーターに対抗するために、独立した別ブランドで自社も破壊的イノベーターになる選択肢もあります。
現時点で、皆さまの会社が魅力的なポジションにいらっしゃるのであれば、必ず破壊的イノベーターはやってきます。そのときにどのような行動を取るべきか…。
今回は以上となりますが、最近、お客様と過去からの限界利益率の推移のお話しをする機会が多かったため、復習を兼ねて限界利益率の構造の問題を取り上げました。
10年程度の自社の限界利益率の推移と市場でのポジションを重ね合わせると、結果として、どのような戦略を採用してきたかがたどれるはずです。そして、今後はどこに向かうのかを検討しなければなりません。
中小企業の業績管理も画一的ではなく、部門別管理や商品別管理により、現状を多角的に捉え、部門や商品によって方針を変える必要があります。
限界利益率の高さは、売上高とトレードオフとの関係にあるということも頭に入れておきましょう。

やめる

8月14日の日経新聞に、こんな記事が大きく掲載されていました。

【年末調整 ネットで完結 企業・会社員の負担減】

財務省と国税庁は年末調整の手続きについて2020年をめどにインターネットで完結できるようにするとのことです。

現在は郵送など紙で受け取っている年末調整に必要な書類が、今秋から稼働するマイナンバーの個人サイト(マイナポータル)に金融機関などから送られてくるようになり、私たち給与所得者はそのデータを勤務先に転送し、企業もネット経由で税務署に提出する流れになるようです。

実現すれば企業の事務負担コストは大きく軽減されることになります。
おそらく年末調整は報酬を支払って税理士に依頼しなくても容易に自社で完結できるようになるでしょう。

こうなるであろうことを予測していた当社では、数年前から年末調整業務を積極的に受けることはせず、できるだけお客様の方でおこなっていただくようにしながら、年末調整業務の受託そのものをやめることを検討していました。

実際には、現状自社ではなかなかそこまで手が回らないお客様からのご要望が根強く、年末調整業務の受託をやめることはしていませんでした。

しかし、行政が企業の利便性を高めるこうした取り組みを実行に移す以上、そこに私たちがすべき仕事はありません。いよいよ本気で年末調整業務からの撤退実行を検討する時が来たといっていいでしょう。

今まで何十年と当たり前に行われてきた税理士業務のメインの1つを「やめる」決断をすべき時が近づいているのです。

さて、この「やめる」です。

私たちはセカンドオピニオンなどで、業績が芳しくない企業様からの依頼により、業績立て直しのお手伝いをさせていただくことがあります。

業績立て直しのお手伝いといっても、何か特別なことをするわけではありません。

まずは、毎月次の試算表の数字を事業ごと、もしくは部門ごと、必要に応じてさらに細かく分解してもらい、それぞれの事業ごと、部門ごとの損益構造を把握していただくことで、どこに問題があるのかを一緒に考えていきます。

そうすると、多くのケースでは、ある特定の事業(部門)の業績が極端に悪く全体の利益を押し下げているか、そもそも全体的に値段設定に問題があることに気が付きます。

問題点に気が付いたところで、当然、値段およびコストの見直しを徹底的に行い、実行していただきます。

しかし、検討していく中で、値上げもコスト削減も難しく、業績改善が望めない事業が存在することが明らかになることがよくあります。
そうなると何か別の事情がない限り、残された道は一つ。撤退、「やめる」です。

経営者にとって、今まで続けてきた事業をやめる決断をするのは簡単なことではありません。
仮にその事業(部門)の業績が他事業に比べて悪いにしても、多少なりとも利益を出しているとなれば、なおさらです。

しかし、多くのケースでは、不採算事業を「やめる」決断をし、残す事業について値上げやコストダウンを通じて利益構造の改善を実行することで、業績を回復することが可能です。
中には脅威のV字回復を遂げたお客様も実際にいらっしゃいます。

もともとチャレンジ精神旺盛な経営者にとって、新しい何かを始めることは心理的なハードルを含め、それほど難しいことであはりません。

しかし、「やめる」こと、しないと決めた仕事を「しない」ことは意外と難しく、それでいて、それが経営において大きな大きなポイントでもあります。

皆さまも自社にとっての「やめる」「しない」を、今一度考えてみてはいかがでしょうか。

税務調査がスマート化?

毎年この時期になると同じことをお伝えしているような気もしますが…7月に国税の事務年度が替わり、税務調査も本格化している時期となります。

この点、税務調査の件数が少なくなってきているためか、一昔前に比べると税務調査関係のご相談もかなり少なくなっています。

少し前になりますが、6月に国税庁ホームページで「税務行政の将来像~スマート化を目指して~」という資料が発表されており、税務調査の件数が少なくなっている点についての記載がありました。

平成元年と平成27年を比較し、個人は申告件数、法人は法人数が増加しているにもかかわらず、税務調査が行われている比率(実調率)が減少している点が報告されています。

 

「税務行政の将来像」の概要:5ページより引用)

もちろん、実調率の低下は書面添付が徐々に増加していることも影響しているのでしょうが、国税職員の定員も減少しており、今後ますます実調率が低下していくように思われます。これらは皆さまにとってうれしい情報であることは間違いありません。

しかし、そのままで終わらないぞとの意気込みが「税務行政の将来像」には記載されていました。いわゆるICTやAIの活用です。

もともと日本の税務行政は他の先進的な国々に比べて電子化等が遅れており、電子申告や電子納税、電子手続きの統計データは悲惨な結果になっています。従いまして、税務行政の人員が削減されていく中で、数年前から急ピッチで電子化を進めていくという「意気込み」は伝えられていました。

そして今回の発表です。10年後を目途として、とにかくICTをやり切ると宣言をしたいようです。

その中で皆さんがご興味があるであろう税務調査関係については、下記の記載がありました。

  • 申告内容と財産所有情報等の自動チェックによる申告漏れ等の迅速な把握
  • AIを活用したシステムによる
    • 精緻な調査必要度判定、納税者への最適な接触方法と要調査項目の提示
    • 納付能力の判定、優先着手滞納事案の選定及び滞納状況等に応じた滞納整理方針の提示
    • 滞納者情報と国内外の財産情報等の自動マッチングによる差押財産等の迅速な把握

今回の発表だけでは実際にどのようなことが行われていくかは分かりませんが、税務行政はICTやAIとは相性が良いと考えられ、まだまだ先が見えないマイナポータル等と併せて、個々の納税者(法人も含め)の動きは確実に補足されていくように感じます。

そして、より集中的に狙われるのは富裕層や高額納税法人であり、重点課題としてもこれらに対する「適正課税」を確保すると記載があります。

税務調査では今まで調査官がパソコンを持ち込むことなどはありませんでしたが、この点についても具体的な取り組みとして挙げられています。調査の現場でデータを検索・閲覧だそうです…。

アナログ的な面が面白い税務調査ではありますが、デジタル的にやっていかなければ税務行政が破綻するのでしょう。

個人の納税者や法人の処理もデジタル化が急速に進んでいますから、この5年から10年で、税務調査の環境が大幅に変わっていくのは間違いありません。

従って、まだ慌てる必要はありませんが、デジタル武装された税務行政に翻弄されないよう、皆さまもデジタル防衛を検討していかなければならないかもしれません。

これについては指導すべき税理士の方が遅れているという側面は否めませんが…。

 

現金最強

デフレ経済の今、最も有利な投資資産の1つとは、はたして何でしょうか?
それは現金です。
私は新規に顧問をさせていただくようになったお客様には、経営において現金を多く持つことの重要性を必ずお話しさせていただきます。
なぜなら経営において起こる問題の多くは、お金があれば解決できることだからです。
そのため、この超低金利時代にあっては、多少多めに融資を受けて現金を蓄え、不測の事態に備えてもらうようにアドバイスしています。
金利は会社経営のための保険料と考えれば良いのです。
さて、話しは変わって相続対策です。
ここでも私は資産を現金で保有することの重要性をお話しさせていただきます。
世の中には不動産を使った相続対策などが、あちこちで説かれています。
これは不動産の相続税評価が時価よりも低くなることを利用して相続税を減らす効果を狙うことが目的の1つとして考えられます。
しかし、本当に効果はあるのでしょうか?
バブルの時代ならいざ知らず、今は不動産の価値は上がっていきません。
上がらないどころか、多くのケースでは毎年その価値を下げていきます。
相続税評価が下がるのは事実ですし、相続対策として実に上手く機能することもあります。
しかし、多くの物件は相続の評価が下がるように、実際にその価値も下がっていくのです。
もちろん東京圏の好立地にある物件など、ごく一部には価値が下がらない、若しくは上がっていく、相続対策に持って来いな不動産もあるにはあります。
しかし、残念ながらこうした本当に相続対策に有効な不動産の情報は、ちょっとやそっとのお金持ちのところには降りてきません。
ごく一部の本当の富裕層を顧客に持つプロにしか情報は回らないのです。
さて、そこで再び現金のお話しです。
現金で持っていれば、相続税の納税に困ることは決してありません。遺産分割も容易です。
確かに不動産と違い、その相続税評価は1円たりとも下がりません。
1億円の現金の財産評価は1億円です。
しかし、デフレ経済下にあっては、現金は常にその価値を上げていることを忘れてはいけません。
物の値段が上がらないか、下がっていくのがデフレ経済です。
物の値段が下がっていくことは、これすなわち「お金の価値が上がる」ということです。
つまり、デフレ下においてはお金を使わず、手元に持っているほど、その価値は上がってくることになります。
不動産が毎年値上がりしたバブル期と違い、資産を現金で持っているということが非常に有利に働く時代なのです。
経営においても相続においても、有効な対策、セオリーは時代背景によって大きく変わっていきます。
このことを理解しないで行う経営や相続対策は、時代遅れで的外れなものとなりかねず、その先には地獄が待っているかもしれません。
覚えておいてください。
デフレ経済の現在は「現金最強」なのです。

あー、ロカベンね

ロカベンとは、ローカルベンチマークのことを指します。国までロカベンと略して使用していますので、この呼び名が一般的になると思われます。

まず、ローカルベンチマークの説明を経済産業省HPより引用します。

 ローカルベンチマークは、企業の経営状態の把握、いわゆる「健康診断」を行うツール(道具)として、企業の経営者等や金融機関・支援機関等が、企業の状態を把握し、双方が同じ目線で対話を行うための基本的な枠組みであり、事業性評価の「入口」として活用されることが期待されるものです。

 具体的には、「参考ツール」を活用して、「財務情報」(6つの指標※1)と「非財務情報」(4つの視点※2)に関する各データを入力することにより、企業の経営状態を把握することで経営状態の変化に早めに気付き、早期の対話や支援につなげていくものです。

(※1)6つの指標
1.売上高増加率(売上持続性)、2.営業利益率(収益性)
3.労働生産性(生産性)、4.EBITDA有利子負債倍率(健全性)
5.営業運転資本回転期間(効率性)、6.自己資本比率(安全性)
(※2)4つの視点
1.経営者への着目、2.関係者への着目、3.事業への着目
4.内部管理体制への着目

 

そして、ローカルベンチマークのツールサンプルがこちら。

ツールサンプル

 

詳しくは経済産業省のHPにてご確認ください。
ロ―カルベンチマークの参考ツールもダウンロード可能です。

現在、国から金融機関への「強い」指導により、中小企業に対してローカルベンチマーク(以下「ロカベン」)を用いた事業性評価が進められています(建前上では…)。

例えば、金融機関は貸出先である各中小企業につき、このロカベンでのスコアを算定し、これを基に各中小企業と「対話」を行おうという趣旨です。その対話により、融資やコンサルティング等の可能性を模索します。

ロカベンは中小企業に対する事業性評価による融資を行う「能力、あるいは気がない」金融機関を指導するために、そのきっかけとするツールという点に意味があります。従いまして、そのような金融機関及び直接の担当者は、このロカベンを振りかざしてくる可能性があります。

皆さまの会社のスコアを上げてもらうために、「これをしたらどうか…、あれをしたらどうか…」という具合です。もちろん、的確な指導をしていただけるのであれば好ましいのですが、的確な指導が出来ないがためにロカベンを与えられた訳で、金融機関の自己都合でロカベンが使われる可能性が大いにあるでしょう。

また、このロカベンは経営力向上計画の申請に組み込まれていたりと、金融機関のみならず、国に対する申請や補助金にも影響してきます。なお、会計ソフトにもロカベンが組み込まれて来たりと広がりも見せていますので、是非一度自社のスコアを算定されてください。

今後、ロカベンについては何も知らないという訳にはいかないと思いますが、使いこなせないであろう金融機関が振りかざすロカベンに振り回される必要もありません。

実際、あるお客様のスコアを算定した際、Aランクだろうなと思っていたところ、結果はBランクにとどまったケースがありました(ランクはA~Dの4段階)。

このお客様は、数年前から意識的に売上高を減少させており、3年前に比べて20%以上減少していました。そのため、売上増加率の指標が最低の1となり、Aランクまで若干届きませんでした。

しかし、売上高の減少に合せて限界利益率は10%以上増加、固定費も減少しており、他の指標は高スコアです。つまり、意図的に筋肉質な状態にするケースですが、このようなケースではロカベンの財務情報のスコアは本来の姿よりも低めに抑えられてしまう可能性があります。

売上が増加していれば良いということではない典型的なケースですが、スコアに置き換えると違う結果が出てしまうのです。

ロカベンを理解することは自社を理解することにもつながりますし、まさに自社がベンチマークする企業と比較することも可能です(面白い結果が待っています)。

皆さまも、金融機関がロカベンの話をしてきたときに、「あー、ロカベンね」と切り返せるくらいになると良いですね。金融機関からもっと融資を引っ張りたいなと考えている場合には、自社で作成したもの説明するという利用の仕方も可能ですので。

税制改正が株価を大きく変える

平成29年度税制改正大綱に取引相場のない株式の評価方法の見直しが盛り込まれていたことは、皆さま既にご存じかと思います。
税制改正大綱発表から約半年、パブリックコメント制度(意見公募手続制度)を経て、国税庁は5月15日に取引相場のない株式等の見直しを盛り込んだ「財産評価基本通達の一部改正」を公表しました。
これにより平成29年1月1日以後に相続や贈与などで非上場株式を取得した場合の、その株式の評価方法が変わることになりました。
私は、今回の改正を受けて早速お客様のA社で評価の比較検討を行ってみることにしましたが、その影響は思っていたよりも大きなものでした。
改正の内容を簡単に説明しておきますと、まず計算に用いる自社と事業内容が類似している上場会社の株価について、上場会社の株価の急激な変動を受けづらくするため、2年間の平均株価が加わることになりました。
また、自社と事業内容が類似している上場会社の3つの批准要素である1株当たりの配当金額、利益金額、簿価純資産価額の比重が1:3:1から1:1:1へと変わり利益金額の要素が下がることになりました。
さらには、評価方法に影響を与える会社区分(大会社・中会社・小会社)の判定基準も変わり、株価が下がりやすい大会社及び中会社の適用範囲が拡大されました。
これらの改正が株価に与える影響については個々の会社の状況によって異なりますが、どの企業にも少なからず影響があることだけは間違いありません。
では、私が比較検討をおこなったA社についてお話しします。
平成28年の8月時点での株価が、1株50,000円ほどであったA社について、まずは、改正後の計算方法で平成29年2月時点での株価を算定してみることにしました。
本来は類似業種批准方式に用いる数字などについては評価時期である平成29年2月のものを使用しますが、まずは前回評価(平成28年8月)の数字を使って計算し、純粋に改正による影響がどれほどのものなのかを知ろうとしました。
すると、A社の株価は7500円ほど下がり、1株42,500円ほどとなりました。これは非常に大きな影響と言えます。
計算に使用する数字は1株50,000円と算定された前回と同じですので、今回の計算方法の改正でこれだけ下がったのです。
A社の株式総数は6,000株ですので、なんと会社全体に与える株価の影響は
△4,500万円です。
ただし、これはあくまでも改正の影響だけを知るために行った架空の前提による比較計算ですので、実際にはこの評価額は使用できません。
次に、類似業種批准方式に用いる数字などは評価時期である平成29年2月時点のものを使用し、正しく平成29年2月時点の株価を計算することにしました。
結果、株価は前回評価の約50,000円から、なんと約13,000円下がって1株当たり約37,000円の株価となりました。
先ほど申し上げたように、A社の株式数は6,000株ですので、なんとなんと株式総数全体に与える株価の影響は△7,800万円です。
これは計算方法の改正に加え、A社の事業内容が類似している上場会社の株価が昨年よりも100円ほども下がっていることが大きく影響していますが、純資産価額の計算に使ったA社の決算数値は前回評価と同じです。
つまり、わずか半年、評価時期をずらしただけで株価が勝手に7800万円も下がったのです。
もちろんこの結果を受けて私は、次の決算を待たず、このタイミングで株式の贈与を行うことを提案させていただきました。
繰り返しになりますが、今回の改正が株価に与える影響については個々の会社の状況によって異なりますし、類似業種の株価の影響もありますので、株価が下がる企業もあれば上がってしまう企業もあります。
事業承継を睨んで、株の異動を行っている企業は、改正後の評価方法によって早めに株価評価をおこなってみることをお勧めします。さもなければ、株価移動の好機を逃してしまうことになってしまうかもしれません。
中小企業にとって株式の承継は経営にも相続にも大きな影響がある超重要事項です。
毎年のように株価評価を行っている企業も、そうでない企業も、改正後の評価方法によって株価評価を行い、今回の改正が与える自社の株価への影響をいち早く把握し、来たるべき事業承継に早め早めに備えていきましょう。

弁護士もセカンドオピニオン

近年、中小企業においても弁護士に相談する機会が増えていると思われます。
私どももお客様と相談の上、弁護士に協力を依頼するケースが多くなりました。
さらに、依頼する弁護士によって「結果」が大きく変わるため、どの弁護士を選ぶかが重要なのは言うまでもありません。
今回は、中小企業が弁護士へ依頼する際、最低限気を付けるべきことを経験則からお伝えいたします。
まず、私どもはセカンドオピニオンを主たる業務の一つとして行っていますが、そもそも税理士は継続的にお付き合いがある顧問契約がベースとなっています。
どの税理士に依頼するかで中小企業の数字の結果も変わると言えますが、それは長期的な観点に近いです。
これに対して、顧問弁護士がいる中小企業はごく少数ですから、弁護士への相談はスポット案件がほとんどのはず。
従って、スポットで、短期に、結果を出していただかなければならないのが弁護士です。この時点で弁護士はとてもハードルが高いです。とりあえず近くの弁護士、知り合いの弁護士に相談するなんてことは危険極まりない…。
そして、税理士の場合、代表税理士が直接お客様の担当をするという事務所は概ね個人事務所であり、組織として活動している税理士法人等では、税理士資格を有していないスタッフがお客様の担当として付くケースがほとんどです。
担当は有資格であるのに越したことはありませんが、勉強した分だけ税法の知識が多いという程度で、単純に有資格であるから優秀という図式には当てはまりません。税法の知識は経営のアドバイスの一要素でしかないからです。税法に偏った知識が邪魔をして、経営の総合的なアドバイスが出来ない税理士が多いというのも現実です。
しかし、弁護士に相談する場合は、当然有資格者が相手になります。弁護士事務所に相談に行って、弁護士以外のスタッフが相談を受けるという事はあり得ません。そして、弁護士=優秀という図式が当てはまらないことは繰り返す必要さえありません。
個人の弁護士事務所に相談に行ったら相談すべき弁護士は一人しかいない訳ですが、組織として活動している弁護士事務所の場合は、担当がどの弁護士になるかで結果が全く異なります。
これは知人から紹介を受けた有名な弁護士事務所に相談に行っても同じです。税理士事務所同様、弁護士事務所も徐々に大規模化が進んでおりますが、そうであるが故にペーペーの弁護士が担当に付く可能性があります。
当然、各弁護士も専門領域がある訳で、「勉強のためにお前が担当してみろ」という事も多いことでしょう。
これが顧問契約となれば別ですが、スポット、かつ、一般的な案件であれば、代表を含めたエース弁護士が担当することはほとんどありません。
私どもも様々な弁護士の仕事を見てきましたが、依頼する弁護士によってこれほどまでに結果が変わるのかと不思議になるほどです。素人の私が対応しても何とかできそうな案件を、弁護士の対応のまずさで大きな損害を被ったケースも少なくありません。
その場合には弁護士は決まってこう言います。
「このようなケースでは、いつも同じような感じなので今回は仕方がありません」
そうであるならば、最初にこのように言ってくれる弁護士に依頼するべきです。
弁護士に依頼する以上、ある程度損害の可能性がある訳で、弁護士の対応次第でその損害が最大となるのか、最少となるのかが変わります。損害が確定しているのであれば、損切りのための対応を検討すべきであって、弁護士に依頼したが故に損害が未確定のままになってしまうことは避けなければなりません。
以上、経験則から弁護士選定の基準をお伝えすると下記になります。
・企業間の取引に関連する争いの場合、ビジネスを理解していない弁護士や
企業法務に詳しくない弁護士に依頼するのはNG!
→何の商売でも同じです。専門外の依頼を受けてしまう弁護士は論外です。
・対応が遅い弁護士は絶対にNG!
→トラブルの解決はスピードが命です。初動が遅れると損害は大きくなります。
メールおよび電話でその弁護士の対応スピードは測れます。
・代表弁護士が話を聞いてくれるのは最初だけで、その後は全てペーペーの弁護士が
対応するだけという場合はNG!
→全てについてエース弁護士に対応してもらう必要はありませんが、ペーペーの
弁護士だけが対応して良い結果が得られる可能性は低いと言えます。
・無駄なことは無駄とはっきり言ってくれる弁護士に依頼する!
→時間を浪費させる弁護士は厄介です。結果として費用も高くつきます。
・一度依頼した弁護士も、ダメだと思ったらすぐに他の弁護士に相談に行く!
→弁護士もセカンドオピニオンが重要です。スピードが重要である以上、
弁護士を変えることに躊躇してはいけません。
つまり、弁護士だからといって、何か特殊な条件がある訳ではなく、弁護士の選定もビジネス上の取引基準と全く同じです。
低価格で気軽に弁護士に相談できるサービスも増えてきましたが、力のある弁護士がわざわざこのようなサービスで回答することは少ないのではないかと考えます。緊急を要する場合に、このようなサービスで解決しようなどと考えてはいけません。
もし、損害額が大きくなることが予測されるトラブルが発生したら、弁護士費用は惜しまず、良い弁護士を探してください。それが最終的な損害額と時間の浪費を最小化してくれます。
税理士同様、「弁護士先生」と敬う時代は終わりました。弁護士もサービス業ですので、サービス業を意識させる弁護士を選ぶようにしてください。

会計業務クライシス

『法人税 電子申告を義務に』4月20日付の日経新聞の一面に、こんな記事がデカデカと掲載されていました。ご覧になった方も多いのではないでしょうか。
記事によれば、納税手続きをめぐる事務作業の効率化を狙って、早ければ2019年度から法人税と消費税の税務申告について電子申告を義務化する方針とのことです。
国税庁の発表によると、2015年度の電子申告の利用率は、法人税が75.4%、消費税が73.4%となっていますが、記事では大企業の電子申告率は約52%であることが伝えられています。
大企業の方が電子申告の利用率が低いということを意外に感じるかもしれませんが、これには理由があります。
大企業の場合、自社に合わせた独自の経理・会計システムを構築していることが多いことに加え、確定申告書の作成自体も税理士に依頼するのではなく、社内で行っていることが多いため電子申告を使わないのです。
これに対して中小企業の場合、多くは確定申告書の作成、申告を税理士に依頼しますので、結果的に電子申告を利用している率が高くなっているというわけです。
皆さまの会社の申告書は電子申告されていますでしょうか?
セカンドオピニオンなどで顧問先様以外の申告書を見させていただくと、紙で提出しているケースがまだまだあります。
中小企業で電子申告が利用されていない場合、それはほぼ例外なく申告を依頼している税理士の問題です。
いまだに電子申告を利用していない税理士は概ね高齢か、そうでなければ極端にIT音痴であることが考えられます。
そして、中小企業の場合、顧問税理士がIT音痴であれば、必然的に経理周りのIT化は進みません。企業側が効率化を目指してクラウド会計の導入などを望んだとしても、税理士が使い慣れたソフトの使用を強要したりするのだから困ったものです。
しかし、IT音痴の税理士に合わせて経理のIT化に遅れを取っている場合ではない事態が、実は迫ってきていることを、多くの方はまだ気が付いていません。
消費税の改正です。
2019年10月1日以降、消費税は10%に上がり、飲食料品などには軽減税率が用いられます。ご存知のように、同じ食事でも、店で食べるのか、テイクアウトなのか等によって税率が異なってきます。
個人はもちろん、企業でも日々、打ち合わせで飲食店を利用したり飲食料品を購入したりします。
想像してみてください。
経理担当者が1枚1枚レシートを確認して税率が10%なのか8%なのかを確認して会計ソフトに入力をする姿を。
言うまでもなく、おそろしく非効率です。
この作業は、クラウド型の会計ソフトを導入して、レシートをスキャンして自動で仕訳を起こしてしまえば、解決してしまいます。
現状は開発途上ということもあり、まだまだな部分もありますが、2年後までにはさらに精度も上がり、かなり使い易いものに進化しているはずです。
多くの中小企業の場合、2年後に法人税の電子申告を義務付けられたとしても、それは顧問税理士の問題なので影響は特にないでしょう。
しかし、繰り返しになりますが顧問税理士がITに疎ければ、そのクライアント企業のIT化は遅れがちです。そうなれば、時代遅れな非生産的な業務に追われることになり兼ねません。
今ならまだ全然遅くありません。
2019年10月1日、消費税改正まであと2年半を切りました。
経理・会計業のIT化が遅れている企業も、そろそろ真剣に考えなければいけない局面かもしれません。

事業承継、補助金、事業承継…。

先月、毎年恒例の中小企業白書が公表されました。内容は2016年版に引き続きという感じですが、「事業承継」に割かれているページ数が年々増えております。

事業承継という場合、後継者の有無に焦点が当たりますが、後継者が決定してもその企業で働く従業員が減少してしまえば、企業の存続には赤信号が灯ります。

一昔前までは、中小企業経営者の一番の仕事は資金繰りと言われていましたが、現代では人繰りが一番の仕事と言っても過言ではありません。

人材不足は今に始まったことではありませんが、より規模の大きい企業で働く労働者の割合が急激に増加していることからも、中小企業の事業承継がより困難な状況に向かっています。

従いまして、中小企業の事業承継は、後継者不足と従業員不足の二つの人材難の解決が必須となります。

まだまだ若いオーナー企業のM&Aが増加しているのも、資金面のみならず、より大きい規模の企業の傘下に入り、人材確保の道を切り開きたいという想いもあるのでしょう。

そのような最中、いきなり「事業承継補助金」なるものが登場しました。

概要は以下のとおり(経済産業省WEBサイト参照)。

「事業承継補助金」は、
(1)地域経済に貢献する中小企業による、
(2)事業承継をきっかけとした、
(3)経営革新や事業転換などの新しい取組を支援する補助金です。

【補助率】2/3
【補助上限】
 ・経営革新を行う場合 200万円
 ・事業所の廃止や既存事業の廃止・集約を伴う場合 500万円

補助対象者や事業承継についての考え方は以下のとおりです。
1.地域への貢献
   他社との取引関係や地域の需要に応える商品・サービスの提供、雇用の維持・
   創出によって地域に貢献している中小企業が補助の対象です。
2.事業承継
   平成27年4月1日から、補助事業期間完了日(最長平成29年12月31日
   )までの間に事業承継(代表者の交代)を行った又は行う必要があります。
3.新しい取組

概要は以上となりますが、この補助金は従業員の人件費に対しても対応しており、事業承継を進める中小企業の人材確保も考慮されているのでしょう。

募集期間は平成29年5月8日(月)から平成29年6月2日(金)と短くなっており、もしご興味のある方はこちらをご確認ください。この手の補助金のハードルは意外と高くはありません。なお、今後も定期的に募集される可能性もあります。

それにしても、事業承継にまで補助金が出るようになるとは驚きです。国としては補助金を出してまでも事業承継を進めて欲しいというサインになりますが、中小企業の事業承継が後手後手に回っていることも事実です。

実際、当社にてご相談を承っているセカンドオピニオンでは、ここ数年は半分程度が事業承継関係です。

事業承継の相談内容数に順位をつけると…
 1位・・・高額な自社株式の異動方法
 2位・・・そもそも事業承継をどうすればよいか分からない
 3位・・・M&A

これから時間を掛けて進めたいとご相談に来ていただける方はまだ良いのですが、今まさに事業承継を行いたいと駆け込んで来られる方も多くいらっしゃいます。

当社の顧問先様の事業承継でも規模に関わらず最低3年から5年は準備をして進めますので、セカンドオピニオンでいきなり解決しようとしても、ウルトラCは出てきません。

特に、事業承継関係の税金については、法人税、所得税、相続税、贈与税と幅広い税金が関係してきますので、上手に進めないと合計数千万円から数億円の差が生じるケースがほとんどです。

中には、自社は小規模だから税金はあまり関係ないとお考えの方も多くいらっしゃいますが、それでも最低数百万円は変わってきます。

事業承継は、後継者の有無、従業員の年齢構成、経営状況、業界を取り巻く環境、退職金の支給予定額、株式の構成割合、関係者の理解等が複合的に絡み合い、顧問税理士一人がトータルでアドバイスできるケースが少ないと言えます。

なお、事業承継は具体的に決まってから考えようとされる方が多いのですが、事業承継についてどうしようかと思い始めた段階で顧問税理士等にご相談されるのが一番好ましいです。従いまして、事業承継の方向性を模索するのに経営者の年齢はあまり関係がありません。事業承継の検討が遅れることにより、競合企業に差を付けられる可能性だってあるのです。

皆さまも事業承継適齢期を待たずに、ご自身の人生と自社(法人)の人生を逆算的に考え、事業承継の検討を始めるのも良いのではないでしょうか。

(山田 拓巳)