節税額40億円!!

8月23日の日経新聞に、センサーや測定器を作っているキーエンスが、あることを実行したことによって、なんと40億円の節税効果が発生する見通しとの記事が掲載されていました。果たして40億円もの節税効果が発生する、あることとはいったいどんなことなのでしょうか。
40億円の節税と聞くと、大抵の方はとんでもないウルトラCのような手段を想像するのではないでしょうか。しかし、今回キーエンスが取った方法はいたって簡単なものでした。
そう『決算期の変更』です。
税制改正により平成24年4月1日以降に開始する事業年度より、法人税率が5%引き下げられることになりました。キーエンスは3月20日を決算日としていた為に、新しい税率の適用を受けるのは平成25年3月21日から始まる事業年度からでした。
そこでキーエンスは平成24年度の決算期を変更し、3月21日から6月20日までの3ヶ月として、6月21日から新事業年度を開始させたのです。
これにより6月21日開始の事業年度は、平成24年4月1日以降に開始する事業年度に該当し、新しい税率の適用を受けることができます。事業年度を変更することにより、税制改正の恩恵を早い時期から享受し、結果として40億円のもの節税効果を得る事ができる見通しなのです。
新税率の適用を早く受けるためだけに決算期を変更する事が、良いかどうかは一概には言えませんし、これを聞いたからといって同じ手法をとる会社はごく僅かではないでしょうか。しかし、この事例を耳にしたことをきっかけにして自社の事業年度について改めて考えてみてはいかがでしょうか。
皆さんは会社設立の際に決算期をどうやって決めたか覚えていらっしゃいますか?
設立時及び事業年度開始日の資本金が1000万円未満の法人であれば、原則として1・2期目は消費税の免税事業者となります。その為、この恩恵をフルに享受しようと、たまたま設立の用意が整った設立月から12ヶ月後の月を決算期としている方がかなり多いのではないでしょうか。
もちろん、そのメリットは決して小さくありませんので、それも1つの選択肢と言えます。
しかし、そうして決算期を決めた会社であっても消費税の免税事業者でいられる期間が終わってしまっていれば、そのままの決算期に拘る必要はありません。
決算期の決定にあたっては様々な角度からの検討が必要になりますが、今回は税の観点から決算期を考えてみましょう。
経営者の皆さんは毎年、自らの役員報酬をいくらに設定すればよいのか、頭を悩ませていることだと思います。
その理由の1つとして、来期の業績予測が難しいということがあるのではないでしょうか。もし仮に来期の業績が完璧に予測できたならば、役員報酬の決定に悩む事は、ほとんどなくなるでしょう。
しかし、そんな事が不可能であることは言うまでもありません。
しかし、予測のブレを少なくすることは可能です。利益変動の大きい月を事業年度の最初に持ってくるのです。そうすることで年間の業績予測が、早い時期に精度が高いものとなるはずです。
法人税法上、役員報酬は原則として期首から3ヶ月以内に決めなければなりません。であれば、できるだけ早い時点で精度の高い業績予測をすることが出来れば、最適な役員報酬の算定がし易くなるのではないでしょうか。また、早い時点での業績予測が可能になれば、決算対策を行う上でも有利になることは間違いありません。
季節商品を販売する会社や、受験指導をする予備校、塾などを思い浮かべていただければイメージし易いと思います。受験予備校に集まる生徒の多くは4月から始まる新年度カリキュラムに合わせて3月や4月に入校します。ということは、この時期の生徒の数がわかれば年間の業績予測が立ちやすくなります。
それなのに、この会社の決算期が3月や4月であれば、利益変動の大きな時期が期末になるため、決算ギリギリまで業績予測がつきにくく、決算対策を行う時間もなければ、役員報酬が適正額であったかは最後まで判りません。
そこで決算期を2月にすれば、利益変動の大きな時期が事業年度の前半になるため、早い時期に精度の高い業績予測ができ、決算対策も余裕を持って行えます。また役員報酬の設定期限である期首から3ヶ月目の5月までには、今年度の生徒の人数も把握できることから、精度の高い業績予測を基に役員報酬を設定することが可能です。
決算期の変更は株主総会の特別決議等により定款の変更を行い、税務署等に異動届出書を提出すれば、それで終わりです。登記の必要もありません。
たったこれだけの手続きで決算期を変更することが、皆さんの会社にとって大きなメリットをもたらすことがあるかもしれません。
ただし、皆さんお分かりのとおり、会社は税金のみを考えて経営するわけではありませんので、必要以上にこだわらないようにしてください。
これを期に様々な角度から再度自社の決算期を考えてみてはいかがでしょうか。

節税の5W1H ~もっともシンプルな節税思考~

              節税
という場合、皆さんがまず思い浮かべるのは、『How?』。
つまり「どのように節税を行うのか?」という「手段」です。
極端な話、「手段」さえ知っていれば節税は誰でもできます。わざわざ税理士に相談することでもありません。
役員報酬、保険、交際費、車 etc.
あり触れたものが並びます。
しかし、誰にでも思いつくものに本来の意味での節税効果はあるのでしょうか?
           当然ながら、答えはNo
節税という言葉にクラッときてしまうため、思考マヒ状態のまま、フラフラと安易な手段の衝動買い・・・。
衝動買いのため、いつかは「しまったー!」と後悔します。
会社経営における重要な決定事項であれば、計画を立てた上で、手段の選択は最後の段階であるはず。
しかし、「節税」に関しては(重要な決定事項のはずですが)、入口の段階で「手段」に飛びついてしまう企業が非常に多いのです。
では、手段に飛びつかないためには、節税をどのように考えるのがよいのか?
実は非常にシンプルです。
英語では、5W1Hという問いかけがあるのは皆さんもご存じかと思います。
When(いつ)
Where(どこで)
Who(誰が)
What(何を)
Why(なぜ)
How(どのように)
この5W1Hの問いかけは、節税にもあてはまります。
When(いつの年度で節税をするのか?)
Which(どちらの法人で節税をするのか?)
Who(誰の所得で節税をするのか?)
What(何の所得区分で節税をするのか?)
Why(なぜ、節税をするのか?)
How(どの手段を使って節税をするのか?)
冒頭でもお伝えした通り、一般的な節税は、最後のHowがクローズアップされます。しかし、順番を見ても分かるようにHowの判断は最後です。
そもそも、節税が有効であるかどうかの検討もせずに、手段を決めるというのは無意味だということはご理解いただけるはず。
節税とは、利益が出たら行うものではなく、計画的にやるものです。
というよりも、計画的にやられていないものは、9割以上の確率で実際には税金は減っていません。
つまりはこういうことです。
■When(いつの年度で節税をするのか?)
→ 節税を行うのは節税効果を得られる年度のみです。従って、毎年絶対に実行しなければならない手段というのは、長期的な意味では節税効果が得られていない可能性が高いのです。
■Which(どちらの法人で節税をするのか?)
→ 法人が複数ある場合、一方が黒字で、一方が赤字というのは非常にもったいない状態です。利益操作はダメですが、両社の利益の規模感を近づけることです。つまり、二社でトータルの税金が少なくなるように事業を展開するのが理想です。
■Who(誰の所得で節税をするのか?)
→ 税率が高いのに、それでも特定の人の所得を高めますか?節税の基本は所得の分散です。財産が多額にあるのに、それでもその人の所得を高めますか?特定の人の財産を不必要に増やさないのも節税の一つです。
■What(何の所得区分で節税をするのか?)
→ 法人所得という区分だけでの節税効果はたかが知れています。個人所得、相続財産というように異なる税率が適用されるところにこそ節税効果は表れます。
■Why(なぜ、節税をするのか?)
→ 節税を行う意図は? 単に税金を減らしたいだけでは、キャッシュ残高が減るだけです。税金の減少が大事なのか、手元に残るキャッシュ残高が大事なのかはよく考える必要があります。
■How(どの手段を使って節税を行うのか?)
→ 上記さえ決まれば、本当に有効な節税手段など限られることが分かります。
誰でもできるものに節税効果はあるのか?ということに対して、Noとお伝えしましたが、本来のステップを踏んだ上での節税には効果がもたらされます。
それでもほとんどの場合、手段Hを用いる前の5Wの段階で、節税効果が得られてしまいます。
When→Which→Who→Whatを検討し、その上でWhyを考え、それでも必要ならばHowを用いる。
結局、有効な節税を行うための最大の手段は、節税計画です。
きちんと計画を立てておき、手段の衝動買いの誘惑に惑わされないようにする。
会社の経営計画とも連動していますが、利益を追求することと節税は裏返しの関係にもありますので、裏経営計画とでもいいましょうか。
節税を難しく考えず、手段の誘惑があった場合は、5W1Hの思考で検討してみましょう。一見効果がありそうなものでも、メッキがはがれること間違いなしです。

価格は適正値に向かう

平成26年4月から8%へと上がる消費税ですが、増税前の駆け込みとして代表的なものが住宅の購入です。
(新政権によって、消費税増税自体が凍結される可能性もありますが・・・)
3,000万円の住宅を増税前に購入すれば、得する金額は90万円です。
(3,000万円×(8%-5%)=90万円)
ただ、果たしてそのような表層的な部分だけを見て、住宅のような大きな買い物をしてもいいのでしょうか?
住宅の特需が起これば、その分、反動もくるため、国土交通省は、“住宅ローン控除”の拡充を中心に税制改正の要望を上げ、増税前後での住宅購入の平準化を図ろうとしています。
また、何も税制のような難しい話をする必要もありません。
次の表は、東証の住宅価格指数です。

住宅価格が、踊り場から緩やかな下り坂へと転じたのは、消費税が3%から5%へと増税されたタイミングです。
「消費税が上がれば、住宅は今までの価格では売れなくなる。消費者のニーズに沿った価格まで値下げしよう・・・。」
市場のメカニズムはそのように働き、価格は適正値に収斂されていったのです。
平成26年の消費税率アップを例にすると、3,000万円の住宅が、2,917万円に値下がりすれば(2.77%の値下げ)、増税前も増税後も購入価格は変わらないことになります。
(3,000万円×1.05=3,150万円、2,917万円×1.08=3,150万円)
このような話は、世の中にいくらでもあります。
■消費税増税前に金(きん)を購入し、増税後に売却すれば、消費税率分儲かる?
(→増税後に売りが集中することで価格自体が下がり、税率分の売却益はなくなる)
■エコポイントが切れる前に液晶テレビを買った方がお得?
(→価格ドットコム等で値段推移を見れば、エコポイントが切れた後の値下がりは一目瞭然)
■車を購入するなら、エコカー補助金が締め切りになる前?
(→「エコカー補助金が切れても、当社はエコカー補助金分の値下げを保証します。」というメーカーが出てきたくらい・・・)
つまり、すべての価格は需要と供給の作用によって適正値へと向かっていくため、『お得』というものは基本的に存在しないのです。
人の採用に関してもそうです。
弊社代表の岡本は、著書『稼ぐ 超思考法』において次のように述べます。
『よく、「良い人材が集まらない」と嘆いている人がいますが、それは高い給料を出さないからです。 ~中略~ 人件費にも市場価格があり、その市場価格に合わせた人がいつでもどこにでも存在しているわけです。』
「すべてが適正な市場価格!」と盲信してしまっては詐欺にあいますが、目の前の90万円に飛びつくような経営も避けたいものです。

準備はお済みですか?

平成24年も残すところあとわずかとなりましたが、
みなさんは来年から始まる『所得税増税』について
具体的な準備はできているでしょうか?
繰り返しになりますが、平成25年から増税となる内容について
確認しておきます。
・青天井だった給与所得控除が『245万円』で頭打ちとなる。
・復興特別所得税の課税が始まる(25年間)
給与所得控除については、上限が設けられるというのは大きな改正の
ようですが、1970年代のはじめまでは給与所得控除には上限額が設けられていました。
ところが、1974年の税制改正において、「給与所得者についても、
収入の増加に応じてなにがしの経費が増加する」という理屈から
『定額制』は廃止され、どんなに収入が増えても、青天井に最低
5%の控除額が保障されたのです。
つまり、高給取りには高給取りで何がしかの『交際費』がかかる
と言った理屈です(笑)
その他にも個人をターゲットとした増税案があります。
本年成立した『消費税増税法案』ですが、実はあの法案の中には
消費税の他に、『所得税』と『相続税』の増税法案が含まれてい
ました。
しかし、与党が消費税増税法案の成立を優先させるため、法案の
中から審議を遅らせる原因となっていた所得税と相続税の項目
(第四条から第六条まで)を削除し、来年度の税制改正大綱に先送
りしたのです。
その先送りした項目のうち重要な項目は次のとおりです。
・所得税の最高税率の5%引上げ
・相続税の最高税率の5%引上げ
・相続税基礎控除額の引下げ
現在、衆議院は解散総選挙の真っ最中のため、毎年12月頃に公表さ
れている税制改正大綱が、年内に公表になるかは不明ですが、いず
れにしても来年度の税制改正大綱には、先送りとなった所得税と相
続税の増税案が再び盛り込まれてくることは間違いありません。
つまり、近年の税制を議論するうえで度々登場する『所得の再分配
機能の回復』という言葉にも表れているように、この国の税制は、
『法人減税、個人増税』の方向へ舵を切ったということです。
そこで、私たちが考えなければならないことが、従来から多くの
中小企業が行ってきた役員報酬を使った『節税策』についてです。
ひとことで言うと、『会社の利益を役員報酬で全部とってしまえ』
というものです。
この節税法の前提になっているのが『会社の税金>個人の税金』
という構図です。
この構図は、幾度の税制改正を重ねる中で徐々に逆転してきたの
ですが、来年から始まる給与所得控除の改正と復興特別所得税に
よって決定的なものとなりました。
ここに、ひとつ例をあげてお話いたします。
以下のようなデータに基づいて役員報酬をシミュレーションして
みました。
≪前提条件≫
経常利益 5,000万円
現在の役員報酬(年収) 5,000万円
扶養家族 2名
つまり、『役員報酬算入前利益』が1億円という会社です。

ご覧のとおり、この会社の場合、もっとも税負担が少なくなる
役員報酬の額は『14,000万円』となります。
もしも、この会社が今までどおり50,000千円の役員報酬をとった場合には、
一年当りの税額差は 3,428千円 にもなり、5年続けば 17,140千円、10年では、
34,280千円にもなります。
以上からお分かりいただけたように、役員報酬をとって利益を潰すという
節税手法は、もはや通用しない時代に入ったと考えてください。
それでは、今後は会社に利益を残すようにすればいいのか?というと
これはこれで、社内の内部留保が膨らんでいく一方になってしまい
ますので、その後の『出口戦略』をどうするのかが重要です。
そこで、社内に貯めておいても仕方がないので、いつでも自由に使えるお金を
手元に持っておきたいという考え方もでてきます。
その場合には、一年あたり3,428千円のコストを負担して、役員報酬を
取るという選択肢もあるわけです。
いずれにしてもその選択に際し、具体的な数字の裏付けがあるのかが重要だということです。
何故なら、数字を意識して行うことで、そのあとの『結果』と『行動』は、
それを意識していないときでは、まったく別のものとなって表れてくるからです。
そこで、エー・アンド・パートナーズ税理士法人では、平成25年からの改正を踏まえて『最適役員報酬シミュレーション』ソフトと、今後の経営戦略について『中小企業節税白書 第1巻(CD音声)』を発売いたしました。
このCDには、中小企業のオーナー社長がとるべき役員報酬についての戦略を
余すことなく盛り込んでいますので、是非、今後の経営戦略にご活用ください。

『税務調査に強い!』という税理士について考えてみた

「うちは税務調査に強いよ。 国税OBの税理士がいるからね」
国税OBを抱える税理士事務所がよく使う口説き文句ですが、額面通りここには二つのアピールがあります。
・税務調査に強いというアピール
・国税OBの税理士がいるというアピール
国税OBがいなければ、おたくは税務調査に弱いのか?と突っ込みたくはなりますが、やはり企業側も気にするポイントの一つです。
「国税出身の先生はいらっしゃいますか?」
昔に比べれば国税OBにこだわる方は少なくなってきましたが、それでもときどき質問を受けます。また、税務調査に強い税理士を探すのは、企業としては当然の行動です。
しかし、私が初めて税務調査の立会いを行ったときから疑問でした。
国税OBの税理士に何かメリットがあるのか? そもそも、巷で言われている税務調査に強いとはどういうことなのか?
そこで、今回は“税務調査”ではなく、“税務調査と税理士”について考えてみます。
■考えてみた1 税務調査に“弱い”税理士
前回の「節税と税理士」の話とかぶりますが、税務調査に“強い!”という税理士がいる以上、税務調査に“弱い↓”税理士もいるということになります。
ここで、税務調査に弱い税理士とは、どのような税理士でしょうか?
A. 税理士が税務署寄りの発言をする (=企業側が悪者になる)
B. 税理士が調査官と闘ってくれない (=やる気がない)
C. たくさん税金を取られる (=申告が正確でない)
D. 調査官の言い分を全部認める (=交渉下手)
E. 調査官の圧力に屈する (=弱気) etc.
純粋な意味での“弱い”とは若干異なりますが、イメージ的には上記が該当します。
これに対して、税務調査に“強い”とは下記のイメージです。
A. 税理士が企業側に立ってくれる (=税務署寄りではない)
B. 税理士が調査官と闘ってくれる (=頼もしい)
C. ほとんど税金を取られない (=正確な申告をしてくれている)
D. 調査官からの指摘に対して、交渉して被害を抑えてくれる (=交渉上手)
E. 権威を使って調査官に圧力をかける (=半分冗談です)
あくまでイメージだけの単純比較ですが、それぞれを比較すると、税理士としての技術面でのポイントは「C.の税金をどれだけ多く取られるか否か」だけで、その他は「税理士としての税務調査に対するスタンス」としての問題になります。
税理士としての技術面については後で触れますが、基本的に「税務調査に強い!」とは、お客様のための行動を取ってくれるかどうかという単純な話です。
つまり、税務調査に強い税理士を探したければ、以下の質問を投げかければよいのです。
       「税務調査時のスタンスと、対応の方法を教えてください」
こう考えてみると、税務調査に強いというのは、それほど凄いことではなく、プロとして当然のような気もします。
また、対応能力の程度の差こそあれ、税理士の5割以上は、お客様の立場に立って税務調査の対応をしていると考えられます。
■考えてみた2 そもそも、税務調査を受ける“前”の問題
『考えてみた1』では、税務調査が始まった“後”のことを述べました。
それでは、税務調査に強いということと、税務調査を受ける“前”の問題、つまり日々の税理士業務は関連しているのでしょうか?
ここで、当然のことをお伝えしますが・・・、
       “税務調査で否認事項がないように適正な申告を行う”
というのが大前提です。
毎期適正な処理が行われていれば、税務調査が入っても何ら問題はありません。
つまり、私には、税務調査に強いという猛烈なアピールは、
     「税務調査のときには強いけど、申告の中身はちょっとね・・・」
としか聞こえないのです。
そもそも、申告自体に自信があれば、「税務調査に強い!」というアピールよりも、
     「税務調査が入ってもご安心ください。 
          否認されるような申告はしておりません」

というアピールの方が、お客様は安心します。
これが『考えてみた1』の技術面のポイントですが、問題になりそうなポイントを事前にガチガチに理論武装してしまいます。そもそも税務調査に入られる前に決着をつけているので、強いも何も、勝負にすらなりません。
基本的に税務調査自体は避けられないので、現場で税理士と調査官が揉めているよりも、穏やかに「調査の結果、御社の申告は適正でした」と言われる方が良いに決まっています。
いわゆる「申告是認」と言われるものですが、これは税務署に調査結果として記録されていくので、心証として、次回の税務調査時に偏見を持って来られるという可能性も少なくなります。
つまり、「税理士に強い!」とアピールする税理士が発する裏のメッセージは、「税務調査時に否認事項が出るのは当たり前だけど、いざ税務調査が始まったら、お客様のために働きますよ!」ということかもしれません。
「え? 最初から否認事項がないように申告してくれ? そこまで正確な申告を行うほど顧問料をもらっていませんよ・・・」
ここまでくると、本末転倒です・・・。
P.S. 申告是認で税務調査が終わるとはいえ、中身が全て保守的な処理(税制を駆使した攻めの処理をしていない)の場合には、同じ適正申告とはいえ、そもそも税務署が文句をつけない申告をしているので、これはこれで良し悪しがあるかもしれません。
■考えてみた(番外編) 税務調査は儲かる!?
ときどき耳にします。
「税務調査は儲かるんだよ!」
それはそうでしょう。
税務調査の立会いで日当をもらい、さらに修正申告を行って申告報酬をもらう。
税務調査は税理士にとってボーナスに等しいのです。
これはある一つの事実を浮かび上がらせます。
“適正申告で終わるよりも、修正申告で終わった方が、税理士の報酬が高い”
つまり、税務調査に強いとアピールする税理士ほど、税務調査から上がる売上高の比率が高いのかもしれません。
書面添付制度を利用し、税務調査が可能な限り省略されるような方針であったり、修正申告が発生しない適正申告を行っている税理士は、お客様にとっても負担が少ないと言えるのではないでしょうか。
■考えてみた3 国税OB
ここまで見てみると、国税OBのメリットについて改めて考える必要があります。
確かに、税務調査の現場を知り尽くしているという意味では国税OBには強みがあります。しかし、国税OBが調査官の手法を知り尽くしているとはいえ、そもそも適正申告を行っていれば、どんな手法を使い倒されても問題はありません。
また、税務調査時にミスや不正が発覚すれば、国税OBといえども何もできません。
こう考えると、「国税OBの税理士がいる」だけでは、あまり意味がないことが分かります。結局は、税理士としてのスタンスの問題であったり、税務調査の前の段階の問題であったりするのですから。
国税OBが税務署寄りではないは言い切れませんし(逆に話を上手くまとめてしまう・・・?)、申告実務は国税OBではない税理士の方が経験豊富です。
こうなってくると、国税OBがいるから税務調査に強いというよりも、国税OBがいるから一層適正な申告が可能となりますというようなアピールであって欲しいものですね。
逆に、国税OBがついているというのは、調査官に「何かあるのか?」と推測させるのに十分な動機を与えます。
■結論
企業側が税理士に不満をもつきっかけの中では、税務調査の対応が大きなウェートを占め、顧客獲得に奔走する税理士事務所も「税務調査に強い!」を必死にアピールします。
そこに、国税OBがいれば鬼に金棒・・・と、考える訳です。
つまり、「税務調査に強い! さらに、国税OBもいます!」は、税理士にとってのマーケティングのキャッチコピーと変わりません。
「うちの料理は上手い! さらに、素材は○○産!」とアピールする飲食店と同じなのです。しかも、飲食店は食べてみればすぐに分かりますが、税務調査はすぐに結果が分かるものではなく、それよりも大事なのは税務調査の“前”の段階だとお伝えいたしました。
“税務調査に強い”税理士を選ぶか、“税務調査の前に勝負をつけている”税理士を選ぶかは、お客様側の好みの問題になってきます。
ですが、本当に税務調査に強いをアピールするのであれば、税務調査の結果を公表していただきたいものですね。
「調査官からの1,000万円の否認指摘事項を、500万円に下げさせました!」
これを税務調査に強いというのは、何か違和感がありますね・・・。
結局は、『税務調査に強い!』と叫ぶ税理士にはお気を付けください。
としか言いようがありません・・・。

税理士の探し方について考えてみた

『税理士セカンドオピニオン』とメールマガジンのタイトルを変えてから3カ月が
経過しました。
たまにはタイトル負けしないような内容もお伝えしなければと思い、地方の方
から特にご相談が多い「税理士の探し方」について触れてみます。
とはいえ、これを真正面から取り上げても、抽象的な話で終わってしまいます。
あるいは、具体的過ぎてメルマガでは書けません・・・。
そこで、今回は都道府県別の下記データを用いて考察してみます。
(1)税理士事務所数(公認会計事務所を含む)
(2)企業等数(個人事業を含む)
(3)1税理士事務所当たり企業等数
(4)1税理士事務所当たり県内総生産
(5)1km2当たり税理士事務所数
まずは、下記表をご覧ください。

このデータから税理士の探し方の何が分かるのか?
お客様からお話を伺うと、税理士を探すポイントは大きく分けて次の3つです。
・税理士報酬は高くないか?
・頼みたい税理士事務所は近くにあるか?
・希望するサービスを行ってもらえるか?
■税理士報酬は高くないか?
どの業種においても競争相手が多いほど価格が下がるという理屈はご存じの通り。
つまり、税理士事務所が多い地域ほど、その報酬も低くなるという図式が成り立ち
ます。
税理士事務所が多い上位3地域は、東京、大阪、愛知(データ(1))。
とはいえ、この3都府県は企業等の数も上位3位を占めるので(データ(2))、一概に
税理士事務所が多いとは言えません。
そこで、企業等の数を税理士事務所数で割ったのが、「1税理士事務所当たりの
企業等数」(データ(3))。
東京、大阪、愛知は見事に下位3位に沈みました。
1税理士事務所当たりのお客様の数は少なく、それだけ競争が激しいと言えます。
ここで最初の理屈に当てはめて考えてみると、この3都府県の税理士報酬は
“意外と高くない”可能性があります。
その補完データとして「1税理士事務所当たり県内総生産」(データ(4))をご確認
ください。
県内総生産とは国民総生産(GDP)の都道府県別のようなもので、これを税理士
事務所数で割ってみました。
データ(3)と同じように、大都市地域の1税理士事務所当たりの県内総生産は下位
に沈み、お客様の数が少ないとともに、お客様の企業規模合計も少ないと推定
できます。
これが大きければ、数は少なくても比較的規模の大きな会社が多く、1企業当たり
の報酬も高いという図式が成り立つはず。
「いやいや、東京の税理士事務所の報酬は高いよ!」
という方もいらっしゃるでしょう。
当然、大都市に拠点を構える一部の大手税理士事務所は非常に高い報酬を
取っています。
こういう事務所はもともと大規模企業のお客様が多いため、人件費の高いスタッフ
を雇い、一等地に事務所を構えているからです。
もし、中小規模事業者がこのような税理士事務所に顧問を依頼すると高くつきます。
これは、企業の規模に照らして相対的にという意味です。
つまり、大都市地域の大手以外の税理士事務所は、その競合状況から、企業の
規模等に照らして報酬は低めに抑えられていると考えます。
当法人は東京と新潟に事務所があり、全国のお客様の相談を受けているので、
かなりの地域の報酬相場を把握しています。
正直なところ、大都市地域と地方の相場は同等レベルです。
例えば、東京の税理士事務所に頼むのならば“大きなところ”というのが盲点で、
地方と同じような感覚で探せば、数は多いし、報酬も変わりません。
■頼みたい税理士事務所は近くにあるか?
やはり、税理士事務所は“近くがいい!”というニーズは根強いです。
“近くがいい”だけならば問題はないのですが、これが“近くて、良い”税理士事務所
と続くので厄介です。
こうなると、大都市地域は狭いエリアに数多くの税理士事務所があるので、“近く
の”税理士事務所は探しやすいと言えます(データ(5))。
しかし、“良い”税理士事務所に巡り合えるかどうかは、“宝くじで1万円が当たる
くらいの確率”です。
当たる人には当たるけど、当たらない人には当たらない・・・。
だから、税理士事務所も当たるまで“買い続ける”のが現実的。
また、近くにないのなら、遠くに買いに行けばいいのです。
それも、隣県ではなく、思い切って大都市地域へ。
地方の方も、宝くじを西銀座チャンスセンターに買いに行くように!
そして、こういう声もよく聞きます。
「税理士が来ない」
もちろん、毎月来てくれる“近くて、良い”税理士事務所が見つかればベストです。
これが探せないのであれば、“遠くて、毎月来ないけど、満足できる”税理士事務所
を探してください。
これであれば、どこの地域の税理士事務所でも問題ないはず。
ちなみに、当法人は東京と新潟に事務所を置いておりますが、顧問契約を結んで
いるお客様の所在地域は15都府県です。
セカンドオピニオン契約を合わせると倍近くになります。
当然、遠隔地のお客様は近場のお客様に比べれば訪問頻度は下がります。
しかし、当法人を含め、遠隔地のお客様と契約しているような税理士事務所は、
訪問しなくてもサービスを提供出来るようにと工夫も行っております。
このような税理士事務所も大都市地域に多く、WEBで探しやすいはずです。
“近くて、良い”から“遠くても、良い”と基準を変えるだけで、税理士事務所の選択肢
も飛躍的に増加します。
■希望するサービスを行ってもらえるか?
昔の税理士事務所は、ほどほどの報酬で“何でも”やっていました。
しかし、近年は税理士事務所もメニュー化が進み、最小構成単位で仕事を依頼
すれば報酬は安くなります。
特に大都市地域の税理士事務所ほどメニューの細分化が図られ、少しでも報酬を
安くしてお客様を取り込もうと懸命です(東京、大阪、愛知はこの傾向が顕著です)。
これに比べ、地方の税理士事務所はまだ“何でも”の傾向が強いと言えます。
“何でも”だから、サービスが陰に隠れてしまう場合もありますので、まずは今の
税理士事務所に、「このサービスをやって欲しい」と明確にお伝えしてください。
意外とこれを言わない方が多いのも事実。
言ってダメだったら税理士事務所を変えざるを得ませんし、言うのが嫌であれば、
やはりメニュー制の税理士事務所の方が依頼しやすいのではないかと考えます。
とはいえ、気をつけなければならないのは、メニュー制を取り入れている税理士
事務所に“何でも”頼むと総額はかなり膨らんでしまうという点です。
最近は“顧問料なし”の税理士事務所も増えてきましたが、これにもカラクリが
あって、“顧問料あり”のときと同じような仕事を依頼すれば、むしろ報酬が高く
なる仕組みです。
その実態は、お客様のためというよりも、事務所の経営効率を高めるための場合
も多く見受けられます。
また、サービスメニューが多彩という事と、サービス品質が高いかどうかは別問題
です。
これも、税理士事務所という宝くじを買い続ける事によって“当たり”を探さざるを
得ません。
以上、なんだか大都市地域の税理士事務所が良いと推奨しているようになって
しまいましたが、そうではありません。
地方の方からの「良い税理士がいない」というご相談に対し、圧倒的に税理士
事務所が多い大都市地域も選択肢に入れる事によって、「税理士の探し方」に
幅が出る事をお伝えしたかったのです。
競争が緩い地方の税理士事務所は寝ている所が多く、昔からのお客様が多い
ので、口で言うほど危機感はありません。
危機感がなければお客様へのサービス向上など期待できませんので。
是非、皆さんに税理士業界をたたき起していただきたいです(笑)
【参考】
今回用いたデータは、統計局の統計データ「平成21年度経済センサス基礎調査」
です。
『政府統計の総合窓口』というサイトがあり、ここで様々な統計データを調べる事が
出来ます(URL:http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/eStatTopPortal.do)。
私も今回このデータを加工していて、この地域に新しく事務所を出したら結構行ける
んじゃないかと思ってしまいました。
エリア戦略等、使いようによってはおもしろいのではないかと考えます。

御社の金利、本当は何%かご存知ですか?

銀行から融資を受けている経営者の方であれば、他社はいったいどれ位の金利で融資を受けているのか?そもそも今支払っている金利は適正なのか?ひょっとして払い過ぎてるんじゃないか?等々、低金利時代とはいえ、会社にとって削減したい固定費の代表格ともいえる金利について考えたことのない方はいらっしゃらないでしょう。
皆さんの会社が支払っている金利が適正額かどうかは個々の会社の状況等によりますので、ここで判断することはできません。しかし、支払っている金利が表面上の金利ではなく“実質”どれくらいであるかを皆さんが計算、把握することで、銀行との金利交渉が有利に運ぶ可能性があることを、今日は知っていただきたいのです。
皆さんの会社が融資を受けることが決まると、銀行の担当者が約束の日時に現金を持って現れ・・・などということはありませんよね!?
そう、約束の日に預金通帳に数字が書き込まれるだけです。もし、その口座のお金を皆さんが全く使わず置いておいたとすれば、銀行は全くお金を動かしていない、つまり貸していないのと同じことになります。
もう少し具体的に考えてみましょう。
皆さんの会社が金利2%で3000万円の融資を受けたとします。そのうち2000万円は新商品の仕入れに使い、残った1000万円が預金口座に残っています。
ということは、前述の考え方によれば皆さんの会社が実質的に融資を受けている金額は3000万円から預金口座に残っている1000万円を引いた2000万円ということになります。
さて、では皆さんの会社が払っている本当の金利はいくらなのでしょうか?
便宜上、細かい計算は省略しますが、支払っている利息は3000万円×2%で60万円です。
残った1000万円を預金口座に入れていることによって、受取利息が発生しますが、少額ですので、ここでは無視します。
すると皆さんの会社は実質的に融資を受けている2000万円に対して60万円の利息を支払っていることになります。そう考えると、つまり60万円÷2000万円=3%の金利を負担していることになってしまいます。
金利2%で借りたはずが、実は3%で融資を受けたということになってしまうのです。
この実質的な融資の金利を「実質金利」といい、計算式は次のようになります。
    実質金利=(支払利息-受取利息)÷(借入金-預金)
ちなみに当たり前のことですが、預金残高が多ければ多いほど実質金利は上昇します。
銀行の担当者から「得意先からの売掛金入金口座をうちの銀行に指定してくれませんか」と言われたことありませんか?
その理由の1つがこの実質金利です。銀行サイドに立ってみれば、融資を実行していても自行の口座に多く預金してもらっていれば、実質貸していない部分に対しての金利をも受け取ることができる、すなわち実質金利を高くすることができるのです。
こう考えると、途端に損している気になってしまいがちですが、事業を円滑に進めるためには必要最小限のキャッシュではなく、多少のゆとりをもったキャッシュを確保しておくことが不可欠です。そのため、ある程度の「実質金利」の負担は「保険料」として割り切る必要があります。
しかし、この「実質金利」を把握することが、銀行との金利交渉において具体的な根拠として役に立つのです。
「契約上の表面金利は○%だけど、うちは取引先からの入金口座を○○銀行さんに指定しているから預金残高も多いですよね?そうすると実質金利は○%くらいのはずです。もう少し金利を下げてはもらえませんか。」といった具合です。
業績不振であったり、すでに適正金利で融資が行われている場合は交渉の余地はそれほどありませんが、業績好調にも関わらず1ヶ所の金融機関のみから、高い金利で融資を受けている場合等には積極的な金利交渉による適正金利への引き下げが可能になります。
適切な知識武装をすることで、皆さんを悩ます固定費の1つを占める金利を下げることができるかもしれません。
是非、皆さんの会社の実質金利、計算してみてください。

経営者を魅了する節税対策の罠

             『節税』
これほど魅力的な言葉はありません。
節税自体は悪い事ではありません。むしろ、積極的に行うべきです。しかし、節税を行うに際し、明確に理解しておくべき事があります。それは・・・
      “節税対策=最終的に税金が減る”ではないという事です。
そして、誤解を避けるために押さえておくべき、節税対策の基本的なパターンは以下の3つです。
■消費という名の節税
■先送りという名の節税
■利益と資産の移転による節税

特に中小企業の経営者は、この3つの違いを理解し行動する事が求められます。なぜなら、節税に対する認識のギャップを利用して行うビジネスがある以上、自己防衛の知識として節税の意味を十分理解する必要があるからです。
【消費という名の節税】
この節税は、いわゆる“モノを買う”、“飲食を行う”という消費行動によるものです。消費行動が純粋な節税と言い切れるかは議論が分かれますが、世間一般ではこれも節税と呼ばれています。
とはいえ、この節税策、その効果は節税というよりもキャッシュフローの改善という側面の方が強いのです。例えば、もともと必要な消費行動を決算日前に行うか、決算日後に行うかによって、キャッシュフローが変わってきます。
≪事 例≫
利益100万円と見込まれている3月決算法人が、20万円の備品の購入を検討(税率は40%と仮定)。
●3月に備品の購入を行った場合

●4月に備品の購入を行った場合

税金と備品を合わせた支出は、前者が52万円で、後者が60万円。つまり、必要な消費行動であれば、決算日前に行った方がキャッシュフロー上有利となります。キャッシュフロー改善の側面が強いとお伝えしたのは、税金と支出の減少額が8万円と同じという点に表れています。
しかし、これも5月という納税のタイミングで切った場合であって、翌年の納税まで含めれば、税金も支出も変わらない事になります。
【先送りという名の節税】
この節税を“先送り”とお伝えするように、結果的として税金は1円も減りません。あくまで支払うべき税金を将来に先送りしているだけ。しかし、世間一般では一番もてはやされている節税策です。
実は、この節税策を本当に税金が減るものとお考えの方が意外に多く、税金の先送りという事実に気付いておりません。
この一番誤解の多い節税策には以下の2パターンがあります。
(1)将来、お金が戻って来ない
(2)将来、お金が戻って来る
まずは(1)のお金が戻って来ないパターン。これは、例えば地代家賃のような継続的な契約の費用を1年分前払いしてしまう事です。
通常、前払い分は費用として認められません。ただし、いくつかの要件を満たした場合はその支払った金額が費用となります。ちなみに、一時的なサービスを受ける場合やモノの購入等の場合の前払いは費用となりません。
≪事 例≫
利益500万円と見込まれている3月決算法人が、家賃1年分(20万円/月)の前払いを検討(税率は40%と仮定)。
●3月に家賃1年分の前払いを行った場合

●3月に家賃1年分の前払いを行わなかった場合

上記の事例を確認していただくと、家賃1年分の前払いを行った場合は税金がかなり減っている事が分かります。
しかし、常に1年分の前払いをしている状態なので、前払いを止めた年度は一切費用にならず、逆に税金が増えます。ですから、結果としては前払いを止めるまで、税金の先送りをしているだけにすぎません。
また、1年分の支出が先行するため、当然にキャッシュフローは悪化する事になります。
次に(2)のお金が戻って来るパターン。これは生命保険を使った節税が典型です。多額の保険料を経費に落とす事により税金が劇的に下がるため、経営者を魅了し続けます。
しかし、(1)と異なり、生命保険の解約時にはお金が戻って来ます。前払いが1年分であるのに対し、戻って来るお金は支払年月に比例し、戻って来たときに掛る税金も比例して増加します。
ここで、生命保険を利用した節税策のメリット・デメリットを簡単にまとめます。
【メリット】
A.税金の支払いを先送り出来る
B.退職金対策等に用いる場合、一時的に発生する費用を相殺する機能がある
【デメリット】
C.長期間に渡り支出が先行し、手元資金が減少する
D.保険会社に支払うコストが高く、節税だけを考えた場合は損をする
上記のうち、AとCは今までのご説明でご理解いただけると考えます。そして、この中で一番重要なのはDについての理解です。
生命保険による節税策の最大のポイントは解約返戻率です。節税で用いる保険契約は途中解約が前提となるため、解約した時にどのくらいの保険料が戻って来るかが全てと言っても過言ではありません。
例えば、毎年100万円の保険料を30年支払い、解約時に2,700万円戻ってきた場合、保険会社に支払うコストは300万円(解約返戻率90%)。
要は、最終的な税金が変わらないにもかかわらず、先送りをするために300万円というコストが必要になります。
もちろん、このコストは保険という保障を買っているために発生するものですが、そもそも保険を契約した動機が税金対策であるため、保障としてのコストとしては割に合わないのです。
しかも、長期間に渡り支払いを続けない限り解約返戻率は低いまま。同時に、長期間に渡り黒字を続ける事が出来る企業はごくわずかという絶対的な事実が存在します。結局、どこまで節税の効果(先送りの効果)を受ける事が出来るかは、誰にも分からないのです。
最後はBの機能についてです。現在の経営環境を考えると、より重要性が高いのはこの機能かもしれません。
例えば、毎年300万円の利益が出ている企業が、役員退職金3,000万円の支払いを検討しているとします。ここで問題になるのが業績に与える影響。
単純に考えれば、退職金の支払い年度は2,700万円の赤字。当然、経営者であれば銀行の評価が頭をよぎります。役員退職金という特別な費用という事は銀行も十分理解しますが、1年間で2,700万円の純資産の減少は財務評価に大きな影響を与えます。
そこで、この節税策の解約時の処理が役立ちます。解約による保険料の戻り分があれば、その全部または一部の金額が収益となり、役員退職金による費用計上額が相殺され、業績に与える影響を最小限度に抑える事が出来るのです。
この節税策を銀行対策と位置付け、保険会社に支払うコストも許容出来るとおっしゃる企業も少なくありません。
とはいえ、そもそも節税策にこだわらない企業は、退職給与引当金という会計上の処理を使って、退職金の為の将来の費用を毎年計上しています。このような処理を使えば、無理に生命保険を用いる必要もありません。
以上が、生命保険を使った節税策のメリットとデメリットです。要点は、目先の税金の支払いを回避したいか否かです。節税策を用いればキャッシュフローが悪化しますし、高いコストも支払わなければなりません。
それでも、緊急用資金を外部留保しておいた方が安心という企業や、解約時に上がる収益を赤字の補填に使うためのコストと割り切っている企業もあります。
【利益と資産の移転による節税】
こっちで税金を払うと税率40%。
あっちで税金を払うと税率20%。
では、どっちで税金を払いますか?
極端な話、税金が実際に減る節税というのはこのケースのみです。税率が高いものから税率が低いものへと利益や資産を移転し、その税率の差を利用します。
この節税の代表例は以下の通り。
(1) 法人利益 → 役員報酬
(2) 高い役員報酬の人 → 低い役員報酬の人
(3) 法人利益 → 役員退職金
(4) 個人資産が多い人(祖父母、父母) → 個人資産が少ない人(子、孫)
まずは(1)。日本の中小企業の多くが個人事業主としてではなく、法人という組織形態で事業を行うのも、給与所得という税率が低い所得を利用出来るからです。
もちろん、給与額によって税率が変化するので、無制限に上げればよいというものではありません。ですので、ご自身の役員報酬をいくらにするのが税金上最も有利なのかにつき、シミュレーションを行う必要があります。
次に(2)。当然ながら、給与所得が高ければ税率が高く、低ければ税率が低くなります。例えば、1社から家族数人で役員報酬を受け取っている場合、節税上で理想的なのは全員の役員報酬が同額という状態です。もちろん、職務権限上、同額とはいかないケースがほとんどですが、お互いの役員報酬を可能な限り近付けると、トータルの税金は減る事になります。
言わずと知れた(3)。退職金というのは、税金上“圧倒的に有利な”所得です。だからこそ、生命保険を中心とした様々な“退職金対策”が提案されます。生命保険等の手段を用いるかどうかは別として、退職金での節税が可能であれば積極的に行うべきです。
しかし、保険の売り手の言うままに退職金対策を行うのは危険です。この節税を企業側の財務戦略も含めてアプローチするのと、生命保険の売り手の常套句でしかない“退職金対策”で勝手にアプローチされるのでは、全く意味も効果も異なります。きちんとした節税を行いたいのであれば、税金や企業財務も考慮した上での対応が求められます。
最後に(4)。こちらは相続の問題になります。そもそも相続税が発生しないのであれば、節税自体が必要ありません。しかし、相続税の発生が見込まれるのであれば、事前に対策を行っておくか否かで税金が大きく変わります。
そして、相続税対策の中でも一番有効なのは、資産自体を移転してしまう事です。資産自体が減少すれば、課税財産のみならず、相続税率も下がる場合があります。単純な贈与や、スキームを組み込んだ対策、個人の相続税対策においては生命保険を使った資産の移転も有効です。
以上、実際に税金が減る節税とは、税率の差を利用して所得を右から左に移すだけなのです。実は、これだけをきちんとやっている方は、色々な節税策をせっせとやっている方よりも、最終的には有利であったりするという皮肉な結果が生じます。
以上、今回は、節税策自体ではなく、節税策の仕組みをお伝えしました。理解をされている方からすれば、何をいまさらと思うことでしょう。しかし、本当のところを理解されている方が意外に少ないというのが実感です。
ご紹介した3パターンの節税策のうち、消費と先送りの節税はお金を支払えばよいという簡単なものです。しかし、“実際に税金が減る”という、本来皆さんが求めている機能を果たしているかどうかについてはお伝えした通り。また、誤解をしている人が多いように、この誤解を狙うビジネスも存在します。
そして、実際に税金が減る節税策は、利益や資産を移転すればよいという非常に単純なものですが、詳細なシミュレーションや対策が必要となります。
結局、どのビジネスにも当てはまりますが、効果が高いものは手間が掛り、効果が低いものは手間が掛りません。しかも、飛びつきやすいのは手間が掛らない方です。
また、今回ご紹介した節税策以外にも、大小含めて様々なものが存在します。ただ、税理士も含めて節税策を売りにする話が氾濫している以上、その節税策がどのパターンに属し、最終的に税金が減るか否かについて判断する基礎知識だけは身に付けていいただければと考えます。
税理士ですら節税について誤解している場合もあるくらいですから・・・。

モラトリアム終了後の世界

「今まで返済を猶予しておりましたが、明日から約定どおりに返済してください。」
来年の4月以降、金融機関から、このようなセリフが聞こえてくるかもしれません・・・。
経営状況の厳しい中小企業に対して、返済を一定期間猶予する『金融モラトリアム法』が、来年の3月で期限切れとなります。
今まで猶予を受けていた中小企業にとって、返済の再開は死活問題であり、『円滑化法終了後の出口戦略』が様々な媒体で取り上げられています。
しかし、モラトリアム法が切れた途端に、金融機関が約定どおりの返済を求めてしまっては、中小企業の倒産件数が急増してしまいます。
そのような懸念を受けて、金融庁は11月初旬、「返済を猶予されていた中小企業でも、経営改善の余地があれば、その企業向けの融資を不良債権とは見なさない。」との見解を公表しました。
不良債権として見ない、ということは、金融機関サイドからすれば貸倒引当金を積む必要がない(または、多額に積む必要がない)ため、経営が圧迫されず、無茶な貸し剥がしには走らない、ということです。
望みがあるのであれば、ギリギリまで支援し、少しでも損失を抑えたい、というのが金融機関の本音でしょう。
「これで、猶予されていた中小企業もひと安心だ・・・。」
・・・とはいきません。
あくまでも、経営改善の見込み、が条件ですから、それを担保するため、金融機関は必ず『経営改善計画』の提出を求めてきます。単なる数字遊びの経営計画では通用しません。
私も仕事柄、金融機関と経営者との『経営改善計画』策定の会議に、取引のない第3者として、オブザーバー出席を求められることがあります。
やはり返済猶予を受けていた経営者だからでしょうか・・・、金融機関とのやりとりを見ていても、具体性に欠ける答弁が続きます。
金融機関「人件費の削減計画を教えてください。」
経営者「人件費は年間で10%カットいたします。」
金融機関「10%と言っても、どのようにして?」
経営者「パート従業員の仕事繰りを改善し・・・。」
金融機関「もう少し、具体的に・・・。どのように改善するのですか?」
経営者「厨房で余っている人間を、清掃担当にし、掃除のスピード化を図ることで(担当する人は増えますが)総人件費を下げます・・・。」
金融機関「いつからですか?」
経営者「・・・まだ体制が整っていませんので、それが整備でき次第・・・。」
金融機関「そうですか・・・、それでは体制が整いましたら、具体的な計画を教えてください。」
私「ちょっと待ってください。体制が整っていないとは?」
経営者「掃除の人間を増やすということは、新しい掃除道具が必要になります。それが揃い次第、ということになります。」
私「社長、掃除道具は今日買って帰りましょうよ。高価なものではないのですから。」
経営者「・・・まぁ、そうですね。」
私「それで、明日にでも、新しい人への掃除のレクチャーと担当割をリーダーが行い、実際に時短になるのか測定してくださいよ。」
金融機関「そうですね、1週間後の面談の際に、結果を教えてください。」
大前研一氏は、著書の中で、「問題解決手法(イッシュー・ツリー)の最終段階は、人の手の下せる、しかも効き目のたしかなものになっていなくてはならない」と述べます。

                      (参考文献:企業参謀)
これは当然のことであり、具体性に欠ける計画など、それこそ単なる数字遊びでしかないのですから・・・。
来年の4月以降、中小企業、及び、(我々も含めた)その周辺ブレインの真価が試されます。
モラトリアム終了後の世界がどのように変わるのか、注目していきましょう。

判例を都合よく解釈してはいけない!

4/24 『あの『保険節税スキーム』に最高裁が待った!』において、『逆ハーフタックスプラン』と呼ばれる保険節税スキームについて話をさせていただきました。
大変ありがたいことに、セミナーの反響もあって、税理士さんや保険会社の方々と情報交換をする中で、それぞれの立場から逆ハーフタックスプランに対する見解があるものの、そこにはひとつの共通点があることがわかりました。
それは、『それぞれの立場から都合のいい部分だけを過大に解釈している』ということです。
これはちょうど長期傷害保険の取扱いが定まっていない中で、生命保険各社が売りまくったあのときによく似ています。
今年のはじめに最高裁判決が出されたことによって、市民権を得たように思われがちな『逆ハーフタックスプラン』ですが、実は多くの問題を残しています。
そこで今回は、この『逆ハーフタックスプラン』に切り込んでみたいと思います。
まず、今回の最高裁で何が争われたのか?ということです。
今回の最高裁の争点となったのは、『養老保険の満期保険金について、一時所得の計算上控除することができる保険料の範囲がどこまでか』ということです。
ただ、その一点だけが争点となり、判決が下されたものであって、それ以外の事項については何も争点になっていないということです。
つまり、死亡保険金の受取人を法人とし、満期保険金の受取人を役員又は従業員とした養老保険の保険料について、その半分を損金(保険料)とし、残りの半分を資産計上(貸付金)とした会社の処理を認めたものではないということです。
この点について、税務署が否認指摘しなかったことをもって、容認したと理解している人が多いのですが、それは明らかな間違いです。
通常のハーフタックスプラン(死亡保険金受取人:遺族、満期保険金受取人:法人)については、法人税法基本通達9-3-4において、保険料の半分が損金(保険料)とし、のこりの半分を資産(積立金)とすべきことを規定されています。
これは、養老保険は生死混合の保険であることから、一種の福利厚生の目的・性格と、資産投資の目的・性格との二面性を併せ有しており、死亡保険金に係る危険保険料部分については、受取人が被保険者の遺族となっていることからみて、法人の資産に計上することを強制することが適当ではないからです。
さらに、その場合の保険料の区分については、死亡保険金に対する危険保険料分と、満期保険金に対する責任準備金分を明確に区分すべきところですが、通常、養老保険の契約書等においては、これらが区分して記載されていません。
そこで、保険契約者において、これを区分して経理することは不可能であることを考慮し、同通達によって、便宜的にその取扱いを定めているに過ぎません。
しかし、逆ハーフタックスプランについては、実務運用上、すべての従業員を対象に契約されるものではなく、かつ、満期保険金の受取人が代表者又はオーナー親族であることからみても、養老保険契約への加入は、投資目的として課税の繰延べを意図したことが明らかであり、従業員等に対する福利厚生を目的として加入したものではないと判断できます。
以上を総合的に判断すると、死亡保険金に相当する危険保険料については、貯蓄性が高いことから、終身保険同様、『資産計上』とすべきことが妥当であり、満期保険金部分に相当する保険料は、役員等に対する『給与』と考えられます。
逆ハーフタックスプランが『租税回避スキーム』であることは誰の目から見てもあきらかである以上、税務調査によって前述のような処分がされるリスクを想定しておく必要があります。
弊社では、この点について『保険で節税をしてはいけない!』セミナーにおいて詳しく説明を行っています。
セミナーの中では、万一、税務調査においてこのような指摘がされた場合には、どれだけの損失を被ることになるのかの危険予測のシミュレーションも行っています。
法律に規定がない以上、租税回避は犯罪ではありません。
しかし、その危険性とリスクを正確に判断することなく手を出すことは破滅への一歩であると自覚してください。