判例を都合よく解釈してはいけない!

4/24 『あの『保険節税スキーム』に最高裁が待った!』において、『逆ハーフタックスプラン』と呼ばれる保険節税スキームについて話をさせていただきました。
大変ありがたいことに、セミナーの反響もあって、税理士さんや保険会社の方々と情報交換をする中で、それぞれの立場から逆ハーフタックスプランに対する見解があるものの、そこにはひとつの共通点があることがわかりました。
それは、『それぞれの立場から都合のいい部分だけを過大に解釈している』ということです。
これはちょうど長期傷害保険の取扱いが定まっていない中で、生命保険各社が売りまくったあのときによく似ています。
今年のはじめに最高裁判決が出されたことによって、市民権を得たように思われがちな『逆ハーフタックスプラン』ですが、実は多くの問題を残しています。
そこで今回は、この『逆ハーフタックスプラン』に切り込んでみたいと思います。
まず、今回の最高裁で何が争われたのか?ということです。
今回の最高裁の争点となったのは、『養老保険の満期保険金について、一時所得の計算上控除することができる保険料の範囲がどこまでか』ということです。
ただ、その一点だけが争点となり、判決が下されたものであって、それ以外の事項については何も争点になっていないということです。
つまり、死亡保険金の受取人を法人とし、満期保険金の受取人を役員又は従業員とした養老保険の保険料について、その半分を損金(保険料)とし、残りの半分を資産計上(貸付金)とした会社の処理を認めたものではないということです。
この点について、税務署が否認指摘しなかったことをもって、容認したと理解している人が多いのですが、それは明らかな間違いです。
通常のハーフタックスプラン(死亡保険金受取人:遺族、満期保険金受取人:法人)については、法人税法基本通達9-3-4において、保険料の半分が損金(保険料)とし、のこりの半分を資産(積立金)とすべきことを規定されています。
これは、養老保険は生死混合の保険であることから、一種の福利厚生の目的・性格と、資産投資の目的・性格との二面性を併せ有しており、死亡保険金に係る危険保険料部分については、受取人が被保険者の遺族となっていることからみて、法人の資産に計上することを強制することが適当ではないからです。
さらに、その場合の保険料の区分については、死亡保険金に対する危険保険料分と、満期保険金に対する責任準備金分を明確に区分すべきところですが、通常、養老保険の契約書等においては、これらが区分して記載されていません。
そこで、保険契約者において、これを区分して経理することは不可能であることを考慮し、同通達によって、便宜的にその取扱いを定めているに過ぎません。
しかし、逆ハーフタックスプランについては、実務運用上、すべての従業員を対象に契約されるものではなく、かつ、満期保険金の受取人が代表者又はオーナー親族であることからみても、養老保険契約への加入は、投資目的として課税の繰延べを意図したことが明らかであり、従業員等に対する福利厚生を目的として加入したものではないと判断できます。
以上を総合的に判断すると、死亡保険金に相当する危険保険料については、貯蓄性が高いことから、終身保険同様、『資産計上』とすべきことが妥当であり、満期保険金部分に相当する保険料は、役員等に対する『給与』と考えられます。
逆ハーフタックスプランが『租税回避スキーム』であることは誰の目から見てもあきらかである以上、税務調査によって前述のような処分がされるリスクを想定しておく必要があります。
弊社では、この点について『保険で節税をしてはいけない!』セミナーにおいて詳しく説明を行っています。
セミナーの中では、万一、税務調査においてこのような指摘がされた場合には、どれだけの損失を被ることになるのかの危険予測のシミュレーションも行っています。
法律に規定がない以上、租税回避は犯罪ではありません。
しかし、その危険性とリスクを正確に判断することなく手を出すことは破滅への一歩であると自覚してください。

『節税に強い!』という税理士について考えてみた

そもそも、『節税に強い』または『節税に弱い』という分類は存在するのでしょうか?
私はこの業界で十数年のキャリアですが、非常に疑問でした。
「節税に強い!」と叫んでいる税理士を見ると、「本気で言っているのか?」と耳を疑いたくなります。
ある意味、税理士が「オレは税理士だ!」と言っているのと同じです。
しかし、企業が税理士に不満を持つ要因の一つには“節税の提案がない”というものがあり、それに応じて“節税に強い”と叫ぶ税理士がいるのも事実です。
そこで、今回は“節税”ではなく、“節税と税理士”について考えてみます。
■考えてみた1 節税の『知識』の有無について
「節税に強い」ということをアピールする税理士がいるということは、その前提として「節税に弱い」税理士がいるということです。
節税に弱いということを、節税の『知識』がないと仮定してみます。
それでは、節税の知識がない税理士はどの程度いるのでしょう?
あくまで経験からの推測になりますが、一般的に『節税の知識がない』と分類される税理士は20%程度。
通常、税理士業務を行っていれば、耳をふさいでも『節税』という話題が飛び込んできます。当然、お客様からも相談を受けます。
ですから、税理士が節税を『知らない』ということは考えられません。
それでも『節税の知識がない』という税理士が存在するのは、実務を行っていない税理士(資格を持っているだけ、新人、隠居 等)がそれだけいるというだけです。
きちんと業務を行っている税理士が節税の『知識』がないということはありません。
つまり、節税の知識がない税理士に出会う確率はごくわずかなのです。
ただし、もし、顧問税理士が『節税の知識がない』20%に該当すると判断した企業は、早めに税理士変更を検討される必要があるかもしれません。
なぜなら、節税の知識がないということは、税法全般について疎いからです。
では、節税の知識がある税理士が大半なのに、なぜ「節税に強い!」と叫ぶ税理士がいるのでしょうか?
■考えてみた2 『特別な』節税の知識の有無について
もしかしたら、「節税に強い!」と叫ぶ税理士は、『特別な』節税の知識を持っているのかもしれません。
そうであるならば納得できます。
それでは、節税の知識がある税理士のうち、『特別な』節税の知識を持っている税理士はどの程度いるのでしょうか?
これも経験からの推測になりますが、節税の知識を備えている税理士の中の10%程度です。
確かに、『特別な』と付くと途端に数が減ります。
これは特別な知識と経験が必要とされますから、このクラスの税理士にはそう簡単には出会えません。
では、『特別な』節税にはどのようなものがあるのでしょうか?
・巨額の資金が必要となる節税スキーム
・海外法人を利用した節税スキーム
・組織再編を利用した節税スキーム etc.
途端にハードルが上がりませんか?
特別な節税というものは、それを実行する企業もかなり限定されてくるのです。
大半の税理士が口にする節税には、このような手法は含まれません。
税理士の80%は一通りの節税手法は知っており、そのうちの10%は特別な節税の知識を有していますが、その特別な節税手法を実行できる企業というのは全企業の3%程度。
日本の全企業のうち中小企業が97%と言われているので、3%ということは概ね大企業と言っても過言ではありません。
当然、中小企業でも該当する場合もありますが、1%に達するかどうか。
つまり、税理士の80%は、日本の97%の中小企業に対して使える節税手法を理解しているということになります。
『特別な』節税の知識の有無はあまり関係なさそうですね・・・。
そもそも、特別な節税の知識を有する税理士というのは、大企業をクライアントに持つ大手の税理士法人に属していたり、そこから独立した税理士のため、出会う確率自体も少ないと言えます。
そのため、『節税に強い』と叫ぶこともありません。
■考えてみた(番外編1) 節税をさせたくない税理士
少し横道にそれますが、意外と多いのが、企業に節税をさせたくない税理士です。
節税の知識がある税理士のうち20%は該当します。
「役員報酬はそんなに取れません。この取引は認められません。その保険はダメです・・・」
そして最後には、「税金を払ってください!」。
一見、税理士として真っ当なことを言っているように感じますが、「そんなことをして、税務署に何か言われたらどうするんだ・・・」という裏のメッセージが込められています。
いわゆる「税務署寄り」と言われる税理士とも重なります。
(ちなみに、税務署寄りは40%程度)
このような税理士が顧問の場合、企業は自ら節税の知識を得て判断するか、セカンドオピニオン等を利用するしかありません。
「そんなことを勝手にやって! 私は責任取りませんからね!」
と言われても、税務署寄りの税理士はいずれにしても責任は取りませんので、気にしても仕方がありません。
■考えてみた(番外編2) 節税を勧め過ぎる税理士
いわゆる節税好きの税理士ですが、節税と言っても保険等の節税商品をワンパターンに勧めてくるのが特徴です。
企業側も、「そんなに良い商品があるのなら!」と最初は喜びますが、それが何度も続くと「単に保険を売りたいだけではないか・・・」と気付き始めます。
また、節税を行いすぎると財務が痛むので、外から見ると「この会社は何がしたいのだろうか?」という決算書ができ上がります。
気付いていないかもしれませんが、意外と評価が低いのがこの手の税理士が顧問をしている企業です。
税金を払わせないという部分最適に全力を尽くすのが、税理士の役目だとでも思っているのでしょう・・・。
これは財務のアドバイスとは相反する部分につながるので、まともな感覚を持っている税理士であれば、節税の有効性を伝えつつも、過度の節税にはブレーキを掛けます。
また、企業をなるべく赤字にして、税務調査が入らないようにと画策する税理士もここに含まれます。
「節税」というキーワードを巧みに使い、さもお客様のためというアプローチですが、「赤字にしておけば税務調査に入られないし、他の部分にまずい処理があってもばれないだろう・・・」という裏のメッセージが込められているときがあります。
赤字続きの企業は税務調査が入る確率は少なくなりますが、それは“税金は払っていなくても、損をしている企業だから無視”というのが基本方針です。
そこで節税した部分は、“どこかで、誰かが、代わりに”税金を支払っています。
利益も得た上で・・・。
■考えてみた(3) 『節税の提案がない』という企業と顧問税理士
以上から、大前提として下記が挙げられます。
・『節税に強い』と叫ぶ税理士がいる
・『節税の提案がない』と不満を持つ企業がある
・通常に営業している税理士であれば、節税の『知識』は持っている
・『特別な』節税の知識がある税理士は10%もいないが、そもそもその
『特別な』節税を使える中小企業は1%に満たない。従って、『特別な』
知識を持っている税理士でも、実際に使ったことがある税理士は数少ない

それでは、実は節税の知識がある顧問税理士と、節税の提案がないと不満を持つ企業の間には何が起こっているのでしょうか?
    結論は、「何も起きていない」ということです。
     そこに『対話』が・・・。

例えば、利益は出ているが、様々な事情で節税が難しい企業があるとします。
このような企業には「節税が難しいという事実」をお伝えする必要がありますが、税理士からその事実を伝えられていない企業はどうでしょう。
企業は「節税の提案がない」とこぼすのです。
そこには対話という事実がないだけ。
つまり、『節税に強い』税理士というのは、節税の『知識』がある税理士を指すのではなく、『企業にとって必要な節税についての情報を伝えられる』税理士ということになります。
従って、「節税に強い!」と叫ぶ税理士は『対話』ができるということを言っていることになります(あくまで原則的には)。
しかし、ここで考えるべき事実があります。
近年、お客様の数を飛躍的に増やしている税理士事務所というのは、低価格路線の事務所であり、このような事務所は税理士業務のメニューを細分化し、バイキング形式でお客様に選んでいただくようになっています。
帳簿は帳簿、相談は相談、“1回会ったらいくら”というように。
『節税についての提案』も実質的にメニュー化されていると言っても過言ではありません。
このような税理士事務所は積極的に広告展開する傾向にあるので、当然のように「節税に強い!」と叫んでいます。
「節税に強い!」と叫びつつ、相談業務をぶった切ってメニュー化しているのが実態です。
何か違和感を感じませんか?
「いやいや、それを選ぶのはお客さんであって。私自身は節税の知識があるからね!」
ということなのでしょうが、こういう事務所が『特別な』節税の知識を持っているケースは少ないと考えられます。
それなりの企業というのはこういう税理士事務所にはあまり近づきませんので。
近年、『顧問』というある意味では曖昧な制度に疑問を持つ企業が増え、それに応じる形でお互いにとって無駄と思われている相談時間を排除し、「顧問料0円!」、「毎月1万円から~」という流れが拡大しています。
とはいえ、ガソリンスタンドのセルフサービスなら害はなくても、企業と税金という問題についてセルフサービスが行き過ぎると害をもたらすことがあります。
繰り返しになりますが、『節税に強い』税理士とは、『相談がしやすい』あるいは『対話を持ちかけてくれる』税理士ということです。
もし、「私はたくさんの節税手法を知っているのです!」という税理士がいたら、あまり信用しない方がよろしいかもしれません。
同時に、税理士が発する裏のメッセージを読み取り、それが企業側に立ってのアドバイスなのか、税理士の打算からくるアドバイスなのかも考える必要があります。
■結論
『節税に強い!』と叫ぶ税理士にはお気を付けください。