「コスト削減」に取り組んだことのない会社はないでしょう。しかし、多くの場合それは「見えるコスト」の削減にとどまり、結果として思うような効果を得ることができないばかりか、従業員の士気を下げてしまっただけなどということが少なくありません。
ここで言う「見えるコスト」とは損益計算書上に計上される消耗品費や接待交際費などの販売費及び一般管理費と呼ばれるものです。
これに対して「見えないコスト」とは損益計算書上に載ることのないコスト、一言で言うと「ムダ」です。つまり「見えないコスト」の削減は複雑で非効率的な業務をシンプルにしたり、または思い切って業務自体を無くしてしまうことにより「ムダ」を削減し「見えない人件費」を減らそうとするものです。
私たちが行っている業務の一つに経理事務の効率化のお手伝いがあります。弊社にいただく新規の顧問契約についてのお問い合わせの中には経理事務の効率化を求めていらっしゃる方も、そうでない方もいらっしゃいます。そうでない方の中には、既にしっかりとした効率化された事務を行っている会社と、非効率的な事務を行っているが、それが非効率的であることに全く気が付いていないといった会社があります。
そして、実際に経理事務の中身を見せていただくと、非効率的な経理事務を何年もの間、何の疑問も持たずに続けている会社が少なくないことに正直驚かされます。
例えば非効率的な事務の一つとして“経費精算”があります。経費精算についてルールが定められておらず、毎日のように経費精算を現金で行っている中小企業も珍しくありません。はっきり言ってムダです。この毎日の経費精算、年単位で考えると経理担当者が割く時間はかなりの量になっているはずです。これこそ「見えないコスト」の典型であり、今すぐ削減すべきです。
まず、経費精算は原則として月1回にします。また、その精算方法は現金ではなく給与と一緒に振り込みにします。方法は簡単です。社員には毎月1回、月末締めで、領収書を貼付した経費精算書を提出してもらいます。経理担当者は1ヶ月分の経費をまとめて確認し、給与と一緒に振り込めばそれで終わりです。
経費精算を月に1回にすると、経理担当者の業務を減らすことができるのと同時に、誰が毎月何にいくら使っているのかがはっきりするため、ムダ使いを発見することができます。
従業員が一時的に経費を立て替えることの金銭的負担について心配する経営者の方もいらっしゃいますが、実際に1ヶ月分の経費を立て替えることができないと言って、従業員が不満を漏らしているといった話は、ほとんど耳にしたことがありません。
ただし、遠方への出張などで立て替え金額大きくなってしまう時には、ルールを決めて、仮払いしてあげるなどの措置を採ってあげるようにしましょう。
他にも使用する預金口座の本数を減らす、ネットバンキングを利用して実際に銀行に足を運ぶといったことを無くす、など「見えないコスト」の削減チャンスはあちこちにあります。預金口座をたくさんもっている会社は本当に多いのが実態です。経費の引き落としがいくつもの口座に分散されていれば、毎月残高を気にして、資金移動する時間と手間が本当にムダです。
確かに預金口座を1本にできない様々な理由があることはよくわかります。しかし、その場合でも、できるだけメインで利用する預金口座を決めて、売上の回収と支払を集中させてください。そうすればメインの預金口座を見れば会社のお金の流れが一目で分かるようになります。前月に比べてお金が増えているのか減っているのか、儲かっているのか、そうでないのかが帳簿を見なくても分かるようになるのです。
経営において最も重要と言っても過言ではない“キャッシュ”が通帳を見るだけで、ある程度把握可能となるのです。
今回ご紹介した「見えないコスト」の削減例はほんの一部ですが、中小企業にはムダな業務、非効率的な業務が多く、特に経理などの管理部門にはムダも人員も多いという会社が少なくありません。
今まで疑問を持つことなく行ってきた業務についても、もう一度ムダがないか検証してみましょう。中には業務をシンプルにするだけで見えないコストを削減することが可能なものがきっとあるはずです。