消費税法案のスリップストリーム

Q:子会社を設立する税制上のメリットは何ですか?
A:はい、代表的なものは次の通りとなります。
(1) 法人税の軽減税率
  法人税の税率は、利益に応じて次の2段階になっています。
   ■年800万円超・・・25.5% ■年800万円以下・・・15%
法人A社の利益が1600万円だった場合、800万円までについては15%の低い税率で課税されますが、800万円を超えている部分には25.5%の高い税率で課税されます。
しかし、A社が子会社B社を設立し、事業の半分を移した場合、A社として計上する利益800万円には15%の税率が適用され、また、B社として計上する利益800万円についても15%の税率が適用されることになります。
つまり、15%という低い税率をダブルで受けることができるのです。
(2) 年600万円という交際費の枠
法人が行う接待や贈答は、『交際費』として年600万円までは90%が経費になり(つまり、10%は経費にならない・・・)、年600万円を超える部分については、一切経費になりません。贅沢費用について税法上、制限をかけているのです。
しかし、子会社を設立することで、A社で従来どおり600万円の枠、さらに、B社で600万円の枠を使うことができるため、(法人税の軽減税率同様)ダブルで受けることができます。
(3) 消費税の免除
新たに設立された法人は、資本金が1,000万円未満である場合には、原則として、消費税が2年間免除されます。
税制改正により、設立2年目については、初年度の上期の売上高、もしくは、人件費が1,000万円を超えている場合には、消費税を払わなければならなくなりましたが、それでも1年目は文句なしに免除されます。
つまり、B社を資本金1,000万円未満で設立して、事業の一部を移せば、1年目は消費税がタダ。2年目についても、1年目の売上高、もしくは、人件費をコントロールすれば、消費税がタダになるのです。
(※)しかしながら、税制上のメリットだけにとらわれず、均等割りや会計事務所費用など、社会的コストの増加によるデメリットや、ドミナント効果など、他のメリットを総合的に勘案する必要があります。
といったような回答が従来の常識だったのですが、H24.8.10に成立した『消費税法案』において、(3)に制限がかかりました。
制限の概要は以下の通りです。
「平成26年4月1日以後に設立される法人で、課税売上高が5億円超の法人の子会社(株式の50%超を直接または間接に保有される)は1年目、2年目の消費税を免除しない」
つまり、売上5億円超の法人が子会社を設立した場合には、1年目から消費税を払わなければならなくなった、ということです。
これは、消費税率アップの陰に隠れて、そーっと進められた改正です。
また、そもそも節税のために子会社設立を考える法人は、儲かって儲かって仕方がないところであり、そのような法人は(普通であれば)売上高が5億円を超えているような中堅企業であるため、まさに本改正のターゲットとなってきます。
税制改正には、必ずと言っていいほど、このような『隠し玉』があります。
メイン改正の背後に、スリップストリームのようにピタッとくっ付いてきて、いざ、今までの常識で行動を移そうとした時に、スッと目の前に現れて足を掬う・・・。
一般事業者の方々には把握が難しいこのような『隠し玉』については、我々専門家が、注意喚起を行っていくしかありません。普段から頼れる専門家とお付き合いください。